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新潟女性監禁事件 判決公判を傍聴して2

「被害者の心のケアと支援」

君ならきっとできるよ


2002.1.23

 事件から2年がたち、1.22新潟地方裁判所の判決が出ました。検察側はほぼ主張が認められたので、控訴しないでしょう。弁護側は主張が認められませんでしたが、被告がこれ以上裁判を望まない可能性もあります。すると、裁判はこれで終わり。事件も一応の終了です。

 (2.24. 追記:被告は、判決を不服として24日東京高裁に控訴しました。被害者側はまた裁判につき合わせられことになるのでしょうか。弁護側は控訴を強くは勧めないと言っていたのですが。)

 しかし、判決が出ても、被害者にとっては何も終わっていません。

 被害者の父親は、事件を風化させてはいけないと思っていらっしゃるようです。当然です。一方、被害者女性は現段階ではそうっとしておいて欲しいと思っているようです。これもまた当然です。

 私たちとしては、何ができるでしょう。


被害者女性の最近の様子

 最近はだいぶ元気になったようです。

 去年の7月から自動車学校に通い、9月に免許も取りました。他の生徒さんと同じように、自動車学校の通学バスを利用して通いました。先生は男性でしたが、問題なく教習を受けることができました。(以前は、男性は父親ですら緊張感がありました)。

 スポーツが好きで、サッカー観戦にも行きます。新潟アルビレックスの大ファンだそうです。買い物に街に出ることもあるようです。パソコンにも関心を示しています。

 もともと、頭も良いし、体も元気だし、明るくて有能で、しっかりとした家庭教育も受けていました。今までの空白の時間を取り戻すかのように、さまざまなことにチャレンジしているようです。彼女の社会復帰へ歩みは着実に進んでいます。

 現在、県の医療チームが1、2週に1回、精神面を中心にケアを行っています。元気になったとはいえ、まだ精神面への影響が残っているのも事実です。

 ある面では驚くほどの快復が見られますが、ある面ではなお傷の深い面もあるでしょう。


長い時間

 2年という時間は短い時間ではありません。しかし、多くの犯罪被害者やご家族の方が異口同音におっしゃいます。「あの事件のとき以来、時計が止まったようだ。」

 他人は、「もう何年もたったのだから」と思うような長い年月がたっても、当事者にしてみれば、まるで昨日の出来事のように思えるときがあります。それほど、辛い出来事だったのです。

 快復には長い時間がかかります。それは、その被害者が弱いからではありません。それが、人間としてごく普通のことなのです。

 ある面で劇的に快復したとしても、だからといって全ての面で快復したわけではありません。あせってはいけません。本人も、周囲もです。長い時間をかけて快復していきます。ゆったりと待ちましょう。

 快復は、直線的ではなく、らせん階段を上るようにゆっくりと進んでいくのです。


無力感の克服

 多くの犯罪被害者が、事件後に無力感に教われます。事件自体の衝撃もあります。さらに、事件後の世間からの好奇の目や行き過ぎた同情によって、自分がみじめで弱い存在だと思い込んでしまうことがあるのです。

 彼女が自動車学校に通ったときは、何の特別扱いもなかったそうです。その中で、彼女が努力し、試験に合格した。この体験は、とても意味があると思います。

 被害者を守り、いたわることはもちろん必要ですが、それは何もやらせないということではありません。体のケガと同様です。骨折した人にいきなり運動させてはいけませんが、快復してきたら、今度はリハビリが必要でうす。

 彼女が本来持っていた、自信や積極性を取り戻せるような機会が与えられたらと思います。


友情、努力、勝利

 免許を取ったり、パソコンを覚えたり。どれもすばらしいことです。そして、さらに快復が進んだら、仲間と一緒に困難を乗り越える体験ができたら、もっとすばらしいと思います。

 私たちは、中学や高校でそんな体験をしてきたはずです。体育祭や、文化祭、修学旅行の準備。仲間と一緒に、企画を立て、夜遅くまで残って作業をし、困難を乗り越えて、何かをやり遂げる。文化祭や体育祭の結果自体は、たいしたものではなくても、その体験が人生の土台になるのです。

 彼女も、どこかでそんな体験ができたらと思います。ボランティア活動とか、公民館の行事とか。

 医療チームによるケアはもちろん大切です。それに加えて、このようなさまざまな社会体験が必要でしょう(免許取得も医療チームによる薦めがあったかもしれません)。

 彼女なら、実際にいろんな団体に所属して、きっといい仕事ができるに違いありません。


信じること、希望をもつこと

 判決公判の後、被害者の父親が報道各位に文書を出しています。

「一日も早く平穏な日々が訪れることを信じ、歩んでいきます」

 私も、信じています。彼女の快復を。家族関係の快復を。

 私たち社会全体で、被害者を援助することは必要です。でもそれは、被害者がただ弱い存在だからではなく、本来強くて、そしてかならず平穏でいきいきとした生活が取り戻せると信じているからです。



当サイト内の関連ページ:

 ・拙著『少女はなぜ逃げなかったか』のはじめに」:ある女性被害者からの「ありがとう」のメール

 ・事件発覚直後に書いた心のケアと被害者へのエールのページ:「なぜ逃げなかったの」と責めずに心のケアを


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新潟青陵大学(2000年4月開校)看護学科・福祉心理学科
当サイトのウェブマスターは福祉心理学科の所属になります。
(2008年から、大学院臨床心理学研究科所属)

 


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