包丁男小学校乱入殺傷事件
(大阪小学児童殺傷事件)の犯罪心理
2001.6.12
2001.6.11.夜の報道によると、日本精神病院協会は容疑者が通院していた精神病院から、病状などを聞き取り調査した結果、病院の診断は「妄想性人格障害」だったことが判明した。
人はそれぞれ、いろいろな性格を持っています。気の長い人もいれば、短い人もいます。それは個性であり、それぞれの性格でよいわけです。しかし、人間の中には、個性とはいえないほどに大きく性格がゆがみ、その文化の中から逸脱して、自分が困ったり、周囲の人間が困ったりするほどになってしまう場合があります。
ここまでくると、もう単なる個性ではいえず、「人格障害」といわれます。人格障害の中には、様々なパターンがあり、時代や国によって分類方法が変わってきますが、「妄想性人格障害」も、数ある人格障害の一種です。
当サイト内の関連ページ
「臨床心理学入」 / 「人格障害」(伝統的な分類を中心として)
心理学入門講座/性格の心理学
妄想性人格障害とは、次の7つの基準のうち、4つ以上があてはまるものです。
- 十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を加える、またはだますという疑いをもつ。
- 友人などの誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
- 情報をもらすと自分に不利に使われるという恐れのために、他人に秘密を打ち明けようとしない。
- 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると思い込む。
- 侮辱された、傷つけられた、または軽蔑された感じると、恨みを抱き続けけ、相手を許さない。
- 自分の評判などに敏感に反応し、攻撃されていると感じ取り、すぐに怒ってたり、逆襲する。
- 何の根拠もないのに、配偶者や恋人の貞節に対して疑いを持つ。
つまり、極端に疑い深く、嫉妬心の強い性格で、他人の動機を悪意あるものと解釈します。自分が迫害されていると感じています。そして、何かがあると、すぐに爆発するタイプです。
なるほど、容疑者の男性が、行く先々の職場やアパートや妻ともトラブルを起こしつづけたことと一致しますね。
(類似の障害に妄想性障害があります。)
精神分析学的に妄想性人格障害者の人たちを見ると、厳しい罰を与える支配的な親に育てられるうちに、愛されているという実感を失い、「超自我」(自分の自由な思いに対して「そんなことしてはだめだ」という自分の内なる声のもとになる心の部分)が大きくなりすぎ、自分の行動を枠にはめてしまいます。
そして、この枠から外れると劣等感や罪意識をもって自分自身を罰するようなことをします。自暴自棄になったり、自殺しようとします。(今回の容疑者も、死にたい、死刑にしてもらいたい、そのためにエリート小学校を狙ったと供述していますね。)
さらに自分の周りのひとびとに、この自分の超自我のイメージを映しこみ、周囲が自分を責めている、自分は迫害されていると思い込むようになります。その迫害してきていると感じる人々に激しい攻撃を仕掛けることもあり恐れられますが、実は逆に本人の心の底にはその人に対する不安や恐れがあるのです。
さて、治療としては、薬物療法も行いながら、上に述べたゆがんだ心理が改善されるような精神療法も行われます。人格障害は、一時的な心の病ではなく、問題性が人格といえるほどにその人の心の奥底まで浸透し、安定していますので、短期間で改善されることはあまり望めません。けっして、不治の病というわけではありませんが。
参考「人格障害の精神療法 」福島章・町沢静夫編、金剛出版
(容疑者のお父さんが、顔を出していませんが、マスコミのインタビューに答えていますね。十数年前に親子の縁を切ったそうです。加害者の家族を安易に責める気はありませんが、実の親子なのに、なんだか他人事のように話している印象はぬぐえませんでした。)
当サイト内の関連ページ
機能不全家族の心理(家族関係の癒し)
親子関係の癒し:傷ついているあなたのために(親の愛と子ども)
もしも容疑者の男性が、犯行時も精神病などではなく、人格障害だとすれば、責任能力は問えることになるでしょう。心理学的にいえば、人格障害者も自分の好きで、トラブルの多い人生を歩んでいるわけではないのですが、法的に見れば、善悪の区別もつくし、自分の行動を制御することもできるということで、責任能力があるとされるでしょう。
人格障害者の行為を心身喪失だから罰しないとしてしまうと、犯罪者の中には何らかの人格障害を持っている人も多いので、多くのの犯罪者が罰を免れることになります。それでは、やはり困ってしまうでしょう。
でも、人格障害は、牢屋に入れたからといって普通の人がするように心を入れ替えることは難しいので、犯罪防止のためには本当は個々人にあった処遇が必要だと思います。
(今回の事件の場合、責任能力が完全にあり、有罪ということになれば、死刑判決でしょうが)
通院中の病院が人格障害だと判断しているからといって、精神鑑定になって別の医師が鑑定を行えば、精神分裂病という判断が出る可能性もあります(このへんはちょっと複雑)。
前の事件では、精神安定剤の「依存症」で心神喪失状態だったと判断されたようです。いずれにしても、鑑定医がどのような鑑定結果を出すにせよ、それはひとつの材料に過ぎず、判断を下すのは、あくまでも裁判官です。
当サイト内の関連ページ
精神鑑定とは何か
包丁男小学校乱入殺傷事件
(大阪小学児童殺傷事件)の犯罪心理へ戻る
犯罪心理学:心の闇と光へ戻る
一般的な犯罪の心理、殺人の心理などはこちら。
「こころの散歩道(心理学総合案内)」
トップページへ戻る
アクセス数3000万の心理学定番サイト