スクールトラウマ(学校トラウマ)の心理学
新潟青陵大学大学院(碓井真史) / 心理学総合案内こころの散歩道 (心理学講座)/犯罪心理学/少年犯罪の心理/会津若松2:スクールトラウマ、生徒の心のケア


犯罪心理学:心の闇と光

会津若松頭部切断母親殺害事件の犯罪心理学(2)
スクール・トラウマ

傷ついた学校と生徒たちの癒しのために

2007.5.21

会津若松頭部切断事件の犯罪心理学( 1)

授業再開

母親を殺害し頭部を切断した少年の学校が、授業を再開しました(5.21)。

校長は、「心無い言葉を掛けられても、ひるまず、りんとした態度で臨んでほしい」と生徒に話したそうです。学校は、2人のスクールカウンセラーを引き続きおき、生徒の心のケアに当たらせます。


スクール・トラウマ

 「トラウマ」は、心の傷のことです。学校が、大きな災害被害や、生徒教職員の死亡、センセーショナルな犯罪などに巻き込まれ、生徒、教職員の心が深き傷ついた状態を、スクール・トラウマといい、生徒、教職員、学校全体の癒しが必要となります。

今、学校で

 今、具体的にその学校で何が起こっているのかはわかりません。しかし、事件、事故、不祥事が起きた学校や、生徒から加害者を出した学校では、多くの場合、次のような問題が起こります。
生徒が深く傷つき、心身の不調を訴える。命に関わるようなショッキングな出来事だった場合には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を心配しなくてはならないことにもなります。
・マスコミ被害。マスメディアが正しい情報を伝えようとすることは正しいことですけれども、一部マスコミの心無い報道姿勢が、学校関係者を傷つけます。
周囲の心無い言葉。今回の校長先生が「心無い言葉を掛けられても」と語っているとおり、そんな言葉を投げかけて来る人たちがいます。
いやがらせ。中傷電話。おそらく、学校には嫌がらせの電話がなり続けているでしょう。今までの例で言えば、問題が発生した学校や町、企業などでは、日本中からの避難中傷の嵐にさらされます。
ある組織の方からお聞きした話ですが、朝から晩まで電話がなり続け、昼間は仕事にならなかったそうです。また、電話の音にノイローゼ気味になったと語る人もいました。
 あるカウンセリング組織の方々が、事故を起こしたある組織の事務室で電話の対応を行なうボランティアをしたことがあります。本来は、事故の被害者や家族の相談、心の癒しのための電話でしたが、電話のほとんどは直接関係ない人々からの非難中傷電話であり、カウンセラーの方々もくたくたになったとお聞きしました。
・教職員の疲労。傷ついているのは生徒や生徒の家族だけではありません。ショックを受けている教職員は、さらにマスコミ対応をしつつ、嫌がらせ電話の対応をしつつ、生徒を守るために必死の努力を続けているでしょう。
・周囲からのうわさ、評判。マスコミ報道では学校名は出ませんけれども、おそらく近隣ではうわさになっているでしょう。校外にでるたびに、「ああ、あの学校」といった目にさらされることになります。

生徒の心の癒し

 心の癒しのために必要なことは、まず安心安全です。学校や家庭が、安心できる安全な場所にしなくてはなりません。生徒や親がしっかりと子どもを守らなければなりません。マスコミの皆さんの協力も必要です。
 安心安全が確保された上で、いわゆる心の癒しがはじまります。必要に応じて、スクールカウンセラーがカウンセリングを行なうこともあるでしょう。
 何かが起きたときに、すぐにスクールカウンセラーが派遣されるようになったことは、すばらしいことです。ただ、心の癒しは、プロだけの仕事ではありません。むしろ、身近な担任や親が、子どもの心によりそい、子どもたちの話を聞くことが必要でしょう。
 無理やり話をさせることは論外ですが、一方、話をさせないことも心の傷を長引かせます。しっかりと、守られている安心感の中で、その生徒の心の状態に応じて、自分の気持ちを表現していくことが大切です。
また、生徒や保護者にきちんと情報を伝えることも必要でしょう。
 多くの生徒さんたちは、たぶん元気なことでしょう。ただ、一見元気そうに見えても、実は心身に不調をきたしている生徒さんたちもたくさんいることと思います。心配をかけまいと必死に耐えている子もいるでしょう。生徒たちに対するこまやかな心遣いが必要でしょう。
 心の問題は、不安、抑うつ、恐怖といったいわゆる心の悩みとして表れるだけではなく、様々な体の問題や、行動の問題、さぼり、無気力、集中力低下、成績低下、不眠、過度の警戒心などとして現れることがあります。
 また、このような緊急事態には、普段から抱えていた問題が大きくなることがあります。普段から心身の調子が悪かった、学校の悩みを抱えていた、家庭の問題があったといった生徒たちは、特に注意して見ていくことが必要でしょう。

マスコミ対応・校長

 学校で問題が生じたときに、担任が矢面にさらされることは少ないでしょうが、そのかわりに、校長がすべてを引き受けなくてはならないことがあります。
 私は、できれば校長以外の人間がマスコミ対応をできればと思います。マスコミ対応でくたくたに疲れ果てては、生徒と学校を守るべき校長の仕事ができなくなってしまうからです。
 ただ、そうは言っても責任者が出てこなければ話が収まらないことも多いでしょう。そうであれば、周囲の人が校長を支えることが大切になると思います。
 マスメディアが取材し、報道することは正しいことです。学校が隠蔽体質では困ります。しかし、だからと言って一般の生徒にマイクを突きつけることが報道の自由だとは思えません。
 学校としては、きちんと情報を出し、取材に協力するから、だから生徒たちを傷つけるような取材はやめてほしいとという、マスコミ対応が必要になってくるでしょう。

いやがらせ、非難中傷

以前、加害者を出した学校から聞いた話ですが、「お前のところは殺人犯人を育てているのか!」といった電話がたくさんかかってきたそうです。
実に理不尽な電話です。彼らは一見正義ぶって学校や教育批判をしているようなポーズをとっていますが、ただの自分のストレス発散でしょう。
あなたが本当に犯罪を憎んでいるなら、懸命に努力している学校関係者の邪魔をしないでくださいといってやりたくなります。
 まじめな(というか普通の)教職員は、そんなことを言われれば、傷つき、怒りも感じるでしょう。しかし、彼らの言葉はまともな批判ではありません。さらに、実は学校やその教職員を攻撃しているのですらありません。自分のストレス発散のように思えます。そういった暴言を「個人攻撃とは受け取らない」というのも、自分の心を守るコツのひとつです。
(真剣に批判なさりたいのであれば、きちんと氏名と所属を出して、ご意見をまとめた上で、提出されればよいと思います。)

家族・教職員

 子どもたちを守ることが第一ですけれども、子どもを守るためには、その周囲の人間を守る必要があります。
災害発生時に、親の精神状態が安定していると子どもがPTSDになりにくいという報告もあります。
 これまでの学校問題でも見受けられましたが、疲労困ぱいした校長が両脇を支えられるようにして生徒たちの前に立つ。こんな状態で、どうやって子どもを守ろうというのでしょうか。
 ご家族や教職員の中には、自分はどうなってもいいから子どもを守らなければとお考えの人がいますけれども、教職員や親のように、子どもを守り育てる役割をする人にとって、自分自身を守ることはとても大切な仕事です。

特別なこと・普段のこと

大きな危機に直面して、学校は様々なことをします。大災害のときなど、たとえば慰霊祭をしたり、長く休校にしたりするでしょう。
必要に応じて、特別な集会などをすることはもちろん大切です。でも同時に大切なことは、日常の活動をできるだけいつもどおりにすることです。それが、子どもに安心感を与え、心の癒しにもつながるのです。

学校の誇りをとりもどすために

 学校全体が、好奇の目にさらされています。生徒たちは傷ついています。生徒一人ひとりの心のケアが必要なことは言うまでもありませんが、学校全体として誇りを取り戻すための努力も必要です。
学校から加害者がでた。たしかに反省すべき点はあるかもしれません。しかし、本来すばらしい学校です。生徒も先生もすばらしい人たちです。
いつまでも非難を浴び続ける必要はありません。またいつまでも同情される存在でもありません。
歴史と伝統を誇り、勉強にスポーツにがんばり、充実した学校行事があるはずです。
みんなの力で、すばらしい学校を取り戻そうとする努力自体が、一人ひとりの心に勇気を与え、心の傷の癒しにつながるでしょう。

スクールカウンセラーとして

 個人的な話ですが、私も某学校でスクールカウンセラーをしています。週一日の勤務ですけれども、巡回や訪問ではなく、その学校のスクールカウンセラーです。
私なら、学校の一員として、生徒とともに泣き、怒り、生徒とともに学校の建て直しに協力していきたいと思います。
微力ながら、悩んでいる生徒や保護者との面談はもちろんのこと、教職員を支えるために努力したいと思います。
個別のケアだけではなく、学校の一員として学校全体の癒しと誇りの復活のために活動したいと思います。
 もっとも、学校の危機的状況に緊急対応する活動を行なう「クライシス・レスポンス・チーム(CRT)」によれば、「常駐のスクールカウンセラーは、緊急対応で消耗させず、後々のために温存しておくほうが良い」という考えもあるようです。
会津若松頭部切断事件の犯罪心理学( 1)へ戻る

BOOKS スクールトラウマ 学校の癒しに関する本

スクール・トラウマとその支援―学校における危機管理ガイドブック 』 Wユール、Aゴールド 誠信書房
学校トラウマと子どもの心のケア 実践編―学校教員・養護教諭・スクールカウンセラーのために 』 藤森和美 誠信書房

HPから本ができました。
『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』主婦の友社
『なぜ、少年は犯罪に走ったのか』(KKベストセラーズ)
『少女はなぜ逃げなかったか:続出する特異犯罪の心理学
(小学館文庫)

誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理 ベスト新書2008
人間関係が上手くいく嘘の正しい使い方ホンネとタテマエを自在に操る心理法則大和書店2008

「犯罪心理学:心の闇と光」へ戻る
一般的な犯罪の心理、殺人の心理などはこちら。

少年犯罪の心理(少年事件、非行の犯罪心理学)




「心理学総合案内こころの散歩道」
トップページへ戻る

アクセス数3000万の心理学定番サイト

心理学入門社会心理学心のいやし・臨床心理学やる気の心理学マインドコントロール| ニュースの心理学的解説自殺予防の心理学犯罪心理学少年犯罪の心理宗教と科学(心理学)プロフィール・講演心療内科心理学リンク|今日の心理学ホーム