偽やせ薬(毒物)を郵送したとされる中3の少女。報道によれば、真面目でおとなしくて、成績の良い子です。ずいぶん難しい高校にも合格できる実力があったようです。同中学校の校長によると、「大変学習熱心で何事にも意欲があり、礼儀正しい生徒」だそうです。
夕刊紙などには、少女がクラス内でリーダー的な係をつとめていることや、父親の社会的地位の高さなどが書かれています(そこにはもう少し具体的に書いてありますが)。
中流以上の家庭の優等生の少女。でも、警察は学校生活でのストレスを指摘しています。校長も、以前いじめがあったことを認めています。「普通の子」以上の「優等生」だった少女。でも、心の中の傷は、少しずつ深くなっていったのかもしれません。
家庭も学校も大変なことになっているでしょう。でも、私は応援しています。被害者の方も、早く身体と心の傷が直りますように。少女が深く反省し、立ち直りますように。家庭も学校も、どうか元の明るさを取り戻しますように。何か問題があるとしたら、この機会が生かされて、みんなの力で、問題の解決ができますように。私は応援しています。
この少女のことはこれ以上分りません。今現在は、不用意に詮索するつもりもありません。ただ今は、この事件を通して、思春期の心の問題を考えたいと思います。
子供から大人への中間。体が変化し、環境が変化し、心が変化していく時期。あなたの中学生のころはどうでしたか。感じやすく、傷つきやすく、ムキになったり、反発したり、時には白けてみたり。
私もそうでした。何か素直になれない、自立したい、でも、心の底ではまだ親や教師に甘えたいと思っている。そうではありませんでしたか。今から思えば小さなことで悩んだり、訳もなく腹を立てたり、親とケンカしたり、そんなことはありませんでしたか。
昔の中学生よりも、ずっと体が大きくなり、おしゃれになり、大人びた言動をとっても、でも、心の基本はそんなに変わっていないように思えます。
何をきいても、「べつにい〜」 何かに誘っても、「かったるい」 注意をすれば、「むかつく」
とんでもない服装で、訳の分らない言葉を使い、最近の子供たちは全く理解できない、と感じることもあるかもしれません。
私たちの社会環境がものすごいスピードで変わっているので、その中で育っている子供たちもどんどん変化しているのです。でも、それでも、心の基本は変わらないと思います。
現代人の私たちが、シェークスピアやイソップ物語や聖書を読んで共感できるように、人の心の基本は、そう簡単に変わりません。
外見上の言動はどうであれ、子供たちは愛と信頼を求めています。思春期の不安定な時期だからこそ、深く愛されることが必要です。不安定な思春期だからこそ、信頼されることが必要です。
「ドラえもん」に登場するガキ大将の「ジャイアン」は、ずいぶん悪いことをします(彼は小学生ですが)。友達のマンガを取り上げたり、弱い子を殴ったりします。強盗、恐喝、傷害などで、検挙されないのでしょうか。他の子供たちの親はよく「あんな子とあそぶんじゃありません」なんて言わないものです。
ジャイアンはよくお母さんや先生にこっぴどく怒られていますが、それでも、地域社会はジャイアンのことを、とてもおおらかに見守っているように思えます。それに、彼は結構いい子なんですよね。正義感があり、友情に厚いところもあります。きっと、ジャイアンは、立派な大人になると思います。
でも、もし、ジャイアンは不良だと言って、補導され、あんな子と遊ぶんじゃありませんといわれて友達もいなくなり、周囲からいつも冷たい目で見られていたらどうでしょう。彼は立派な犯罪者になっていくかもしれません。
もちろん、乱暴はいけないことです。親に逆らうこともほめられることではありません。すぐに反発したり、生意気な態度をとったり、ふてくされたり、勉強をさぼったりする、全部良いことではありません。
でも、子供ってそういうものではないでしょうか。特に思春期のころはそうではないでしょうか。もちろん、何をやっても良いわけではありません。叱ることもとても大切です。
ただ、その時に、大人の側に余裕がほしいと思います。子供とはそう言うものだ、みんなそういう道をとおって来たんだって、思いだしてほしいのです。
ジャイアンとは正反対に良い子、優等生はどうでしょう。大人の言うことをよく聞き、成績も良い。あなたのお子さんにもそうなってほしいと思いますか。もちろん、大人の指示に従うのも、勉強することも良いことです。ただし、本人に必要以上のプレッシャーをかけていなければ。
心の中の不安や不満や悲しみや怒りを、外側に表現できる子は、外見的には問題児であっても、心理的には大きな問題にはなりにくいものです。でも、心の苦しみを、誰にも表現することすらできず、心の奥底にためていくとき、大きな心の問題となって吹き出すことがあります。
今回の少女も、神戸の少年も、両親を金属バットで殴り殺した少年も、ジャイアンのような短期で乱暴な子供ではありませんでした。
今回の事件は、本人もいたずらのつもりでしたし、もし誰も偽やせ薬を飲まなければ、こんな大騒ぎにはならなかったでしょう。それでも、少女の行為は子供のいたずらではすまないことです。
乱暴な子も、不良少年たちも、大人の目から見れば悪いことをいっぱいしますが、それでもほとんどの人は、最後の一線はこえません。
彼女は毒を配りました。とても悪いことです。みんなはこんなことはしません。でも、共感できる部分はないでしょうか。クラスの中で、とても悲しかったとき、悔しかったとき、給食に毒でも入れたいと思うようなことはないでしょうか。クラスの中の弱者だからこそ、そんな方法を考えるのです。
でも、ほとんどの人は、実行はしません。それは、自分を愛し、自分の人生を愛しているからです。同級生に仕返しをして、すっきりするかもしれないけれど、それで自分の人生を台無しにしていいほど、自分の人生は安っぽくないと思えるのです。
自分にも欠点はある、それでも自分はかけがいのない存在だと思える人は、他人にもそう思えます。自分を大切にできる人は、人を大切にすることもできます。
自分なんか死んでもいいと思う人は、他人を殺すこともできるかもしれんせん。一方、自分含めて、人間の命は大切なんだと思える人は、人を殺したいと思ったときも、最後の一線で踏みとどまれるのです。
自分を愛することが、一線を越えないためのポイントです。成績が良いから愛されるのではなく、成績が良くても悪くても愛される。どんなに大人に反発して怒られても、でもそれは見捨てられているのではなくて、やっぱり自分は愛されているんだと実感できることが大切です。
そうして、自分が無条件に愛されていると実感できる人は、受験競走の中でも、辛い人間関係の中でも、自分を愛し、人を愛することができます。自分の人生を大切にすることができるのです。
子供が自分を愛せるようになるためには、親や教師自身が、誰かに愛されて、自分で自分を愛して、そして子供を愛することが必要です。
もちろん子供を甘やかすのではありません。ペットのように、自分の所有物にするのではありません。健全に自分を愛し、生き生きとした人生を歩んでいる大人は、子供にも自由を与え、子供が真に自律していくことを支えることができるのです。
いろいろと書いてしまいましたが、結論としては、あまり難しいことを考えず、子育てを楽しみましょうよ。親が必要以上に不安がっても、良いことはありません。
親としても、教師としても、社会としても、大人たち自身が言われてきたように「近ごろの子どもたちときたら、」なんて文句を言いながら、でも、子供たちをゆとりをもって愛し、育んでいきましょうよ。次の時代はこの子達が作るのですから。
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悩んでいる思春期のあなたへ
君の周りには、君を理解してくれない大人たちが大勢いるかもしれない。君をいじめる同級生もいるかもしれない。でも、負けないで。疲れたときはちょっと休むのもいい。困ったときは誰かに相談するのもとてもいい。世界中が君の敵になったりすることは絶対にありません。
きっと、君も愛されているよ。大丈夫、立ち直れるよ。君の人生には、きっと素晴らしいことが待っていると、僕は信じています。
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