心理学総合案内「こころの散歩道」/ 犯罪心理学 / 京都小学生殺害事件(てるくはのる)の犯罪心理学/道徳


「のんきな学者」VS「道徳家」
読者からのメールに答えて



 以前、ダイアナ元妃に関するページを作ったときのことです。ある人から、ダイアナさんに対してもっと敬意を払うべきだというメールをいただきました。別の方からは、ダイアナに陶酔(とうすい)しすぎている、過大評価だというメールをいただきました。同じページを読んでも、正反対の印象を持たれる方々がいらっしゃるんですね。

 神戸の小学生殺害事件をはじめとする犯罪心理に関するページでは、賛同のメールもたくさんいただきましたが、その一方、「加害者を甘やかすな」とか、「被害者の気持ちにもなってみろ」といったメールもいただきました。

 加害者の心理について語ることは、加害者を甘やかすことにはならないし、決して被害者の感情を無視しているわけではないのですが、そのような印象を持たれる方もいらっしゃるのだと学びました。

 そこで、最近のページでは、心理学者としての論理的な内容だけではなく、私自身も子をもつ親として多くの方々と同じように感じている悲しみや怒りについても、あえて書くようにしています。これについての評価も、おそらくいろいろあるでしょう。

 ページ作成のスタンスも、少しずつ変わってきていると思います。私としては、主観的には読者の皆さまに引っ張ってもらっているように感じています。

 このページの基本は、心理学の学習です。犯罪心理学のページも、最近起った事件を通して、心理学を学ぼうというわけです。そこで、たとえば「学習理論」とか「模倣」「観察学習」「認知的不協和理論」「PTSD」といった心理学の用語が出てきて、解説などしているわけです。

 この心理学を学ぶ姿勢自体は変えているつもりはないのですが、現在進行している事件に対して発言するときに、そこから連想される心理学の基礎知識ばかりを語るのでは、やはりとても不十分だと思うようになりました。

 心理学の話をし、加害者の心理を考察することに対して、「のんきな学者さま」などと揶揄(やゆ)されたこともあります。一方、「犯人に自首を呼びかけたりするのが心理学?」といったメールもいただきました。それは心理学からは離れた「道徳」ではないかというご質問です。ごもっともな疑問だと思います。

 このホームページの目的は、心理学の学習です。しかし、それは単に知識を増やすのではなく、心理学を学んで私たちが少しでも幸せになることを目的としています。

 科学は全て人類の福祉(幸福)に貢献すべきだと思います。

 そして、私は心理学と道徳や宗教とは、それほど離れていないと考えています。自分を大切にしようとか、世のため人のために働こうとかいうのは、心理学者も言うし、道徳の先生も、宗教家も言うことだと思います。

 私と、私たちが、幸せになる方法は、それぞれの分野で行っていることが大きく間違っていなければ、どの分野からも似たようなことが出てくるのではないでしょうか。

 ただ、宗教や道徳なら「〜べき」とか仏や神の御心といった表現をするのに対して、心理学では「その方が効果的だから」と考えます。また根本とする仮定にも違いはあるでしょう。それでも、似たようなことが出てくるんですよね。

 心理学では、カウンセリング場面で「共感的理解」を行うのが効果的だと教えます。聖書では「泣く者とともに泣き、笑う者とともに泣きなさい」と教えます。

 パニックの心理の研究者が書いていましたが、自分だけ生き残ろうと思うと、冷静さを失いパニックに巻き込まれて死んだりするが、弱者を守ろうと思うと、冷静になることができ、生き残るチャンスも増えるそうです。これも、まるで道徳か宗教の話ですよね。

 道徳や宗教では、そうしなさいと教えるのかもしれませんが、心理学では、生き残るためにはその方が効果的だと教えます。宗教では神や仏がもとになりますが、心理学ではデータに基づいて主張します。

 このホームページでは、心理学者としても私としても、個人として私としても、どちらにせよ語ることができる内容を語っていくつもりです。

 京都の事件に関しては、私も一市民として一日も早い犯人逮捕を願っていますが、もし、自首してくれるのなら、それが誰にとっても一番良いことだと、個人としても、心理学者としても、思っています。

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