パニック心理学総合案内「こころの散歩道」/災害心理学東日本大震災の災害心理学/パニックの心理新潟青陵大学碓井真史

パニックの心理学

パニックを防止し、生き残るために

2011.3.15


起きてしまった災害は、どうしようもありません。でも、パニックのために被害が大きくなることは、防止できます。

パニックとは

 パニックとは、激しい恐怖や不安によって、人々がヒステリックに一斉に逃げだしたり、あるいは右往左往するような混乱状況のことです。また、このような行動にでる前の、緊迫した心の混乱状況をパニックということもあります。

群集が引き起こすパニック

ネズミを使った災害心理学の実験です。一匹のネズミをカゴに入れ、下から熱します。ネズミは必死になって逃げ場を探し、カゴのすみにある小さな穴から逃げることができました。次に、この脱出経験のあるネズミと、別のネズミを入れます。すると、最初のネズミが脱出し、次に別のネズミも脱出できます。
ところが、ここにたくさんのネズミを入れておくと、われ先に逃げようとするネズミたちが互いにぶつかり合い、じゃまをしあい、けっきょくすべてのネズミが逃げられませんでした。
人間の場合も、雑居ビルの火災などで、同様の悲劇が起きてしまうことがあります。
また、群集が狭い場所に一気に押し寄せた結果、「群衆なだれ」が発生し、人々が押しつぶされたり、階段から落ちてしまうことなどがあります。このようなことが起きないように、大混雑の駅や店舗では、入場制限を行います。

心のパニック

 災害発生のような緊急時には、人は複雑なことはできなくなってしまいます。ですから、災害発生時には、できるだけ単純な行動で対処できるように、普段から準備をしなくてはなりません。

 「火事だ、逃げよう」と思ったとき、人はいつも自分が使っている通路に向かいます。いつもの階段、いつものエレベーターです。状況に応じて、とっさに別の道を考えることができなくなります。

 非難口や非常階段の場所を普段から意識していれば良いのですが、なかなかそうはいきません。そこで、非難口を示す掲示をとても大きくしたり、はっきりしたわかりやすい誘導が必要です。誘導する人も、とっさにそんなことはできませんから、普段からの訓練が必要です。

 飛行機では、緊急時には、通路の床に小さなランプがついて、脱出口をわかりやすく示すようになっています。搭乗員が日ごろから訓練を繰り返しているのも言うまでもありません。


群集パニックが起きやすい条件

  1. 緊迫した状況で危険が目前に迫っていると多くの人々が感じている。

  2. 危険から脱出する方法があると、みんなが思っている。
     
  3. 脱出する方法はあるが、自分が脱出できる保障はないとみんなが思い、強い不安を持っている。
     
  4. 人びとの中で、相談や協力ができるような普通のコミュニケーションがとれなくなっている
     
たとえば、タイタニック号で、船が沈みそうだと人々が感じている。→救命ボートに乗れば助かるとみんなが思っている。→ボートはあるが、全員はのれないだろうと強い不安を持っている。→社会階級の差、船員の訓練不足、状況の急変によって、相談や協力ができない。→パニックになり、本来助かる人まで助からない。 いわゆる悪い意味での群集心理が働きます。

心のパニックが起きやすい時

あせる。あわてる。締め切りが迫っている。必死になりすぎる。興奮しすぎている。恐怖、不安の感情の嵐が頭の中に吹き荒れている。こうなると、脳は余計なことばかりに能力を使い、周囲を冷静に見て、自分の行動を的確にコントロールし、目的を達成するということができなくなります。

パニックを防ぐために

  1. 事前に十分な脱出手段を用意しておく。
      
  2. 不安を高めすぎない。
     
  3. パニックのきっかけを防ぐ。(叫び声をあげたり、突然走り出すような人を止める)
     
  4. リーダーを作り、統制の取れた避難行動を行なう。
     
  5. 人のことも考える。自分だけ助かろうとしない。
     
  6. 正しい情報を迅速に伝える(事前の「知的ワクチン」も)
     

人のことも考える、自分だけ助かろうとしない。

早い者勝ちが、もっとも危険です。群衆なだれを引き起こします。ルールと秩序が大切です。そして不思議なことに、人は他者のことを考えると、冷静になり、勇気もわいてくるのです。恐怖に飲み込まれ、自分だけが助かろうとするよりも、子どもや高齢者を守ろうとしたほうが、適切な行動が取れるのです。
(「自分の命を捨てるものは自分の命を救う」:マルコ8:35)

津波てんでんこ

ただし、津波発生時のとっさの避難行動は別の事情があります。三陸地方では津波てんでんこ と呼ばれる教えが伝わっています。「津波の時は親子であっても構うな。一人ひとりがてんでばらばらになっても早く高台へ行け」という意味です。今回、この防災訓練が成功した学校もりました。ただし、もちろんこの教えも、人を突き飛ばしてでも先に行けという教えではいません。
津波てんでんこ」に基づく防災教育を行っていた中学校の隣には、小学校もあります。日本海大震災の津波発生時、小学生の手を引いて逃げる中学生の姿も見られました。
「津波てんでんこ」では、「目の前にいる人は助けろ」と教えています。「津波てんでんこ」の教えは、人を押しのけてでも自分だけ逃げろという教えではなく、まず自分の命は自分で守るという主体的な避難をすすめる教えです。
津波てんでんこ―近代日本の津波史

正しい情報

まず、事前に「知的ワクチン」を。ワクチンが伝染病を防ぐように、情報が様々な危険を防ぎます。地震、津波、新型インフルエンザ、原子力発電などについて、事前に学んでおくということです。
どんな災害も免れる力になるのが、「知的ワクチン」です。
緊急事態に、情報がないのは不安です。不安は流言飛語を生み、不安はパニックを生み、不安は暴力を生みます。いつまでたっても電車が来ないのは不安で我慢ができませんが、「あと1時間できます」と言われれば、落ち着いて待てるでしょう。
災害時のマスコミの役割も重要です。Tweet
>>パニックが起きなくても逃げ遅れたら大変です:逃げ遅れの心理学
>>災害時流言:原因・心理・対策
群集心理(良い面、悪い面)
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パニックに関する本

パニックの心理―群集の恐怖と狂気 (講談社現代新書 364)
自然災害の行動科学 (応用心理学講座)
パニックの人間科学―防災と安全の危機管理
イザというときどう逃げるか―防災の行動科学 

『どんな災害も免れる処方箋 疑似体験「知的ワクチン」の効能 (講談社プラスアルファ新書)』



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