恨みの心理学:こころの散歩道:心理学総合案内/ 犯罪心理学 / 京都小学生殺害事件の犯罪心理学てるくはのる/恨みの犯罪心理 恨みとは  碓井真史

恨み(うらみ)の心理


 

 京都小学殺害事件の犯人は、犯行動機として、「恨み(うらみ)」をあげています。これが本当の犯行動機かどうかかわかりません。犯人の言葉に振り回されることは避けなくてなりません。ここでは、犯人像を推理するのではなく、一般的なうらみの心理について考えてみましょう。

恨みとは

 うらみの感情とは、だれかにひどい仕打ちをされて不快になった思いを、辛抱し続けた結果でてくる感情です(山野保(山野保『「うらみ」の心理―その洞察と解消のために 』創元社)。

 キレるというのは、不快感に対してすぐに出てくる感情ですが、うらみはある期間の我慢から生まれる感情です。不快になってもすぐに殴り返したりはできないずに我慢しなくてはならない、そんな弱者の感情とも言えるでしょう。

 うらみの元となるひどい仕打ちは、客観的に見てもひどい場合もありますし、ただ当人だけがそう思い込んでいる場合もあります。多くの犯罪者は、自分が原因を作りだしているときでさえ、周囲と上手くいかないことで社会へのうらみを持ってしまいます。

恨みと甘え

 恨みの感情の元は、逆説的ですが「甘え」だとも言われています。愛してもらいたい、気持ちをわかってもらいたい、自分の都合に合わせてもらいたいといった甘えが満たされないとき、憎しみや怒りが生まれ、その感情の表現が押さえ込まれた結果、うらみの感情が出るのです。

 「「甘え」の構造 ] 」で有名な精神分析学者土井建郎は、甘えとうらみの感情が混ざったり抑圧される中で、すねる、ひがむ、ひねくれる、被害者意識などの感情が湧いてくるとかたっいます。

 恨みの感情を中心にこれらのどろどろとした感情が、長い間にさらに増幅され、ついには犯罪的行為へと爆発していくのかもしれません。

恨みによる犯罪

 1970年には、小学校時代の体罰を恨んだ23才の男性が、当時の担任を刺殺しました。72年には、3年前の中学時代に叱られたことをうらんだ殺人事件が起きました。74年には、25年にわたる親子二代のうらみを晴らすとして、一家5人を殺害する事件が起きました。

 90年には、6年前の職場のうらみを晴らすために、元同僚を次々と襲い、1人を殺害する事件が発生します。犯人は、被害者に対するうらみをつづった手紙を父親に送付したあと、焼身自殺しました。

 ちなみに焼身自殺は、自殺の中でも苦痛の大きな自殺方法ですが、それだけに周囲に与えるインパクトは大きく、何か強く訴えたいことがあって自殺する人々が使う方法です。

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恨みによる同窓生毒殺未遂事件

 そして91年には、同窓会での大量毒殺人を狙った事件が発生します。彼は15才で中学を卒業してから逮捕される27才まで、うらみを増幅し続けました。彼は大学で応用微生物工学を学び、化学会社へ就職し、化学薬品の取扱に関する免許も取得しています。

 彼の手記には、「(級友への復讐という)自分の人生の目的のために大学を選び会社を選んだ」と書かれています。逮捕後に精神鑑定を受け、その結果、責任能力はあったとされ、有罪判決を受けています。

 責任能力のない精神病による心神喪失状態ではなかったとはいえ、なんらかの人格障害(パーソナリティ障害)があったのかもしれません(春日武彦「心の闇に魔物は棲むか―異常犯罪の解剖学 (光文社知恵の森文庫) 」)。

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