体罰の心理学。
心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)(碓井真史)/教育心理学

体罰の心理学

〜体罰の限界と副作用(危険性)〜

2013.01.31〜2.8加筆
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 「体罰の心理学:5つの副作用
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体罰とは(体罰?指導?暴力?)

体罰とは、「肉体的苦痛を与えるような懲戒」です。懲戒とは、「特別の監督関係ないし身分関係にある者に対し一定の義務違反を理由として科する制裁」です。つまり、親、教師、監督などが、悪いことをした子を叩いたり、長時間立たせるなどして、こらしめ、指導することです。

体罰だと非難された人が、体罰ではなく指導だなどと反論することがありますが、指導目的であるのは当然です。そうでなければ、ただの暴力、傷害です。

教育基本法による体罰禁止

11条「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」

体罰とは(文部科学省による定義)

文科省は、「体罰がどのような行為なのか、児童生徒への懲戒がどの程度まで認められるかについては、機械的に判定することが困難」と語っています。

ただし、「身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)などは、もちろん体罰だとしています。
(平成19年度文部科学省通知「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」)
叱るときに10秒でも立たせてはだめなわけではありませんし、暴れている子の暴力を押さえつけて止めるなども体罰ではないでしょう。
→さらに詳しく「体罰とは:文部科学省による体罰の定義

体罰は効果的か

一時的に人を動かす方法としては、体罰や暴力は、とても効果的です。暴力でサイフを出させることができますし、竹刀で殴れば、私語をやめさせることはできるでしょう。しかし、だからこそ、様々な問題が生じます。

2012〜2013にかけては、桜宮高校体育学科の体罰自殺問題や全日本女子柔道の体罰問題などが、大きな話題になりました。

体罰の「副作用」(危険性)

人を動かせるからといって、安易に使ってはいけません。(学校ではもちろん違法ですが)

体罰の副作用1:人間関係を悪くする

体罰を受けると、相手を恨んだり、憎んだり、恐れたりします。人間のやる気は、コーチや先生との良い人間関係の中で生まれます。体罰で動かしても、本当のやる気は出ません。
親子の場合、言ううことをきかせたとしても、親子関係が悪くなっては、もちろん困るでしょう。
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体罰の副作用2

圧倒的な暴力の前では、人は無力になります。体罰で無理やり言うことを聞かせた結果、模範囚のように言いなりになり、自主性や積極性が失われる恐れがあります。
さらに、虐待といえるほどの体罰になってしまえば、様々な心の問題が考えられます。
親からの体罰に苦しんできて人の告白

体罰の副作用3:暴力を教えてしまう

子どもが幼いときから体罰を使うと、親の思いとは裏腹に、「必要があれば暴力を振るっても良い」と誤解して学んでしまいます。
暴力事件を起こす少年や、家庭内暴力を振るう少年が、幼いときから体罰を受けるなど、暴力が身近にある環境で育っていたことなどは、珍しくありません。
子どものころから体罰ばかりを受けていると、親や指導者になったときに、体罰以外の教育、指導方法が使えなくなる(思いつかなくなる)場合も、あるでしょう。

体罰の副作用4:他の教育、指導、しつけ方法を学べなくなる

体罰の効果は、強烈です。だからこそ、この方法に頼ってしまうと、他の方法を学べなくなってしまいます。
普通は、親も先生も苦労しながら、どうしたらこの子に教えることができるかと、あの手この手を使ってみます。そうして、この子にとっての良い方法を、大人も学んでいくのです。
たとえば、ストーブに近づく幼児の手を親が叩くことなどはあるかもしれません。でも、暴力や恐怖で支配するのではなく、安全も、食べ物の好き嫌いも、勉強も、様々な方法で改善を進めていかなくてはなりません。

体罰の限界

罰の効果

は、一般に何をしてはいけないかは教えても、では何をしたら良いかは教えません。強い体罰による恐怖で、私語のない静かな教室は作れるかもしれませんが、勉強への意欲関心は、高まらないでしょう。
激しい体罰を与えればスポーツを愛するようになるとは思えません。
報酬と罰の心理学

少年犯罪と罰

悪いことをした人には、制裁が必要です。犯罪少年の中には、少年院に入って初めて反省する人もいるでしょう。しかし犯罪心理学の研究によれば、少年と少年院の職員との人間関係ができないと、更正は難しいとされています。
また犯罪心理学の研究によれば、非行少年たちも「罰を受けないようにしよう」とは思っています。ただ彼らは、「だから、ばれないようにしよう」と思ってしまうのです。
少年犯罪の心理、非行の犯罪心理学
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愛のムチ

愛のムチが絶対にないとは言いません。殴られたことで、愛が伝わり、人生やり直す人もいます。しかし、そういう場合は、きっと心で泣きながら殴っているでしょう。「愛のムチ」を気軽に口にし行為を正当化する人は、おそらく愛のムチではありません。
(あるいは、とても良い親子関係で、ユーモラスな雰囲気があったケースもあるでしょう。)

調教師のムチ

ライオンの調教師は、ムチを持っています。しかし、このムチでライオンを叩いて芸をさせているわけではありません。動物に芸を教える方法は、基本的に「報酬」です。
ムチは、俺がお前たちのボスだという権威の象徴です。
見た目の怖い先生、大きな怒鳴り声なども、痛みや恐怖で人を動かすものではなく、権威の象徴でしょう。

体罰に関する文部科学省の考え

文科省も、「体罰による指導により正常な倫理観を養うことはできず〜いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがある」としています。(平成19年度文部科学省通知「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」)

スポーツと体罰

スポーツの世界には、ピラミッド型の上下関係があるでしょう。うまく機能すれば、良い意味での体育会系として、上司の指示に責任を持って従う、率先して行動するということになるでしょう。
しかし、悪い面が出てしまうと、上からの命令が絶対になってしまいます。またスポーツは、肉体的な苦痛が伴うものです。ある程度の負担がかからないと、体も強くなりませんし、面白くありません。
これらの方向が誤った方向に行くと、体罰になるのでしょう。一部のスポーツ集団では、昔から体罰が加えられ、それが良しとされてきました。
しかし、現代社会はそれを許しません。体罰なしの新しいスポーツ文化が必要ではないでしょうか。
健全な肉体に健全な精神が宿りますように:心理学総合案内こころの散歩道
スポーツ心理学:心理学総合案内こころの散歩道

桜宮高校と女子柔道関係者のみなさんへ

深く、大きく傷ついていることと思います。学校の場合は、「スクール・トラウマ」となっているでしょう。学校全体の癒しが必要です。もう一度、すばらしい学校、すばらしい女子柔道になることを、期待し、応援しています。 
 

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