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カウンセラーは役に立つか

(週刊女性自身8.5)


 神戸の少年Aが、児童相談所に通っていたのに、今回の事件を起こしたことで、カウンセラーへの風当たりも強くなりました。

週刊女性自身(8.5)では、

「名のれば誰でもカウンセラー」

と題して、カウンセラーの有用性や資格問題を取り上げています。


記事の要約

・担当カウンセラーがマニュアルに沿った対応しかできなかったのが問題。

・「ロジャースのカウンセリング技法」だけで、単に子供の味方をするだけのカウンセリングは問題。

・きちんとした資格制度がなく、誰でもカウンセラーになれる。カウンセラーの個人の力の差がありすぎる。

・カウンセラーは、本当に役に立つのか。親が一番のカウンセラーになろう。

・「それにしても、神戸の犯行は、あまりにも異様であり、残虐であった。この芽を発見し、未然にカウンセリングすることができるのだろうか。」

 様々な専門家の意見を引用しならが、上のように説明しています。上の記事を好意的に解釈すれば、カウンセリングもまだまだ力不足の部分があるのだから、私たち親(特に読者である母親)ががんばろう、というところでしょうか。


カウンセリングの資格

 「女性自身」が述べている問題点は、だいたい同意できます。資格制度は、長年の問題でした。国家資格は、いまだにありませんが、現在「臨床心理士」という資格があります。これは、簡単に取得できるものではありません。また、阪神大震災の時には、臨床心理士達がボランティアで活躍し、カウンセラーの評判を高めてくれました。

 臨床心理士のほかにも、様々な団体が認定するカウンセラー資格があります。きちんとしたものもありますし、そうでないものもあるようです。

 そして、何の資格もなくても、「**カウンセリングセンター」などと看板もだせますし、「カウンセラー」と名のっても法的には何の問題もありません。ただ、突然そんなことをしてもお客さん(クライエント)は来ないでしょうが。

 怪しげな自称「カウンセラー」もいますけれども、まともに行われているカウンセリングは決して役に立たないわけではありません。カウンセラーは万能ではありませんが、親や教師や医師と協力し、良い働きをしていると思います。

 それでは、今回の事件のような場合でもカウンセラーは本来活躍できたのかと言えば、やはりそれは難しかったでしょう。


今回の事件の特殊性

 今回のケースは、カウンセラーにとっても、精神科医にとっても、難しいケースだったと思います。

 精神科医の春日武彦氏が「精神科医に犯人像などわからない」と題するコメントを月刊「諸君」8月号に載せています。このなかで、マスコミに登場する精神科医達のコメントが、あまりにも安っぽいと批判しています。
 しかし、一方的に彼らを批判するのではなく、一般の精神科医が出会う「狂気」(症例)と、快楽殺人などの異常犯罪の「狂気」とが、違うことが原因だと述べています。つまり日本の場合、専門家と言われる人達も、実は、快楽殺人等に関しては、経験がほとんどないのです。

 普通の精神医学の本の中にも、心理学の本の中にも、詳しくは出ていないのです。病院やカウンセリングルームで、そのような人達と出会うことも、ほとんどないでしょう。小田晋氏や福島章氏は、精神鑑定などをとおして、そのような経験を得ている数少ない人達と言えるでしょう。

 「こころの臨床」という専門雑誌(97.6)の「特集:まれなこころの問題」のなかに、「近年の犯罪心理」と題する論文がありました。普通のこころの臨床家たちにとっては、快楽殺人などでなくても、最近の犯罪者のような症例は、やはりまれなケースなのです。


精神医学やカウンセリングや心理学は、役に立たないか。

 私の間接的な知り合いが、会社の集団検診で異常なしの結果を受け取った後に、進行したガンが見つかり死亡しました。ご家族は、どうして検診で発見できなかったのかと、悔しい思いをされたようです。お気持ちは、十分に分かります。残念ながら、それが集団検診の限界なのかもしれません。

 しかし、だからといって、集団検診がすべて無用なわけではありませんし、ましてや医学や医者が役立たずだと言う人はいないでしょう。

 こころの問題も同様です。ただ、人間は体のことは少し分かってきましたが、こころのことはまだほとんど理解できていません。ましてや、今回のような特殊なケースに対しては、私自身無力感を感じることもあります。


これからの可能性

 朝日新聞(7.23朝刊)は、犯人検挙のための「プロファイリング」(犯人像推定)研究が、警察庁科学警察研究所で2年前から始められていることを伝え、映画のような活躍は望めないとしても、今後のデータの蓄積が大切だとしています。

 毎日新聞(7.23朝刊)は、動物虐待と凶悪事件との因果関係についてのアメリカの研究を紹介し、日本ではそのような研究は皆無だと述べています。

 アメリカほど、快楽殺人のような異常な犯罪が少なかったこともありますが、日本での研究は、まだこれからです。

 カウンセリングは、人間を援助する有効な方法の一つですが、カウンセリングだけで、快楽殺人を防ぐことはできないと思います。他の分野との協力が必要です。しかし、人間が抱える諸問題の中で、カウンセリングが得意とする領域やケースも、もちろんたくさんあります。

 また、犯罪と直接関わる研究や実践だけではなく、一般的なこころの問題に関する研究と実践と、そして親や教師をはじめとする社会全体の理解が、将来の不幸な被害者と不幸な加害者を減らす道だと、私は考えています。

 

(カウンセリングについての一般的な説明は、また別の機会に「こころの散歩道」の「子ネコの道」や「いやしの道」の中で、行いたいと思います。)


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