精神鑑定入門、精神鑑定とは何か
心理学総合案内「こころの散歩道」/犯罪心理/神戸/鑑定 新潟青陵大学碓井真史
『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』(主婦の友社)
このページは、1997年の神戸の事件をきっかけに作りましたが、
その後、2000年の西鉄バス乗っ取り事件や、2003年の長崎男児殺害事件でも、
少年への精神鑑定が行われています。2003.9.17
第1回審判開かれる。精神鑑定が決定。
神戸家裁(井垣康弘裁判官)は8月4日午後、小学生5人に対する連続殺傷事件の容疑で送致された中学3年の少年(15)に対する第1回審判を開いた。
弁護団は「少年は事件当時、精神疾患を抱えていた可能性もある」として家裁に少年の精神鑑定を要請していた。4日の決定で、少年事件では異例の精神鑑定が約2ヶ月間かけて行われることになった。
新聞各紙の報道 8.5
(新聞は新潟市内で読んでいます)
朝日新聞
「少年の精神鑑定決定、審判手続き中断」
・鑑定人は、大学教授と精神科医。・精神状態や責任能力の有無を詳しく調べる必要があると判断したとみられる。・少年法は16才未満の少年の刑事処分を認めておらず、精神鑑定で責任能力に問題があると判断されても、直ちに無罪に当たる「不処分」になるとは限らない。〜しかし処分に大きな影響を及ぼすことになる。・少年に対する鑑定留置は、〜少年院送りが大半だが、まれに医療少年院に送られた例もある。
毎日新聞
「少年の精神鑑定決定、2ヶ月間留置」
・〜少年事件では異例の精神鑑定〜。・〜鑑定人として精神科医2人を選任〜。・精神鑑定は〜少年法でも刑事訴訟法が準用される。
「中3を精神鑑定留置、60日間、犯行時の状態分析」
・〜裁判官は、〜審判をより慎重に行う必要があると判断。鑑定留置を行って犯行時に心神衰弱、心神喪失の状態になかったかなどを専門医に嘱託して調べることにしたとみられる。
・今回の事件と類似性が指摘される東京、埼玉の連続殺人事件でも、精神鑑定が行われた。同事件では異例の2度の精神鑑定が行われ、「人格障害の範囲」「多重人格障害」「精神分裂状態」の3種類の精神鑑定結果がだされ、最終的には被告を「多重人格」と結論づけた。
「「分裂気質」でも少年院送致」・凶悪事件を起こした少年や少女が犯行時の精神状態を調べるために鑑定留置された例としては、〜鑑定結果が「分裂気質」や「責任能力減退」でも、少年院送致の判断が出たケースがある。・昭和44年、高1男子が同級生を刺殺、鑑定結果「やや分裂気質」、中等少年院送致。・63年、中2の男子が両親と祖母を惨殺、鑑定結果「異常なし」、初等少年院送致。・平成4年、高1女子が妹を刺殺、鑑定結果「責任能力、やや減退していた」、中等少年院送致。
神戸新聞
「中3生を精神鑑定」
少年事件では、鑑別所や家裁にも専属の精神科医がいることなどから、鑑定留置が出されることは異例。
「心の闇に光届くか」
長期化の可能性
元少年院院長の藤正健さんは「少年の場合、鑑定は責任能力を問うよりもどこを改善し、治療するべきかをみるための要素が大きい」と話す。
ちょっと解説
*「精神鑑定」
法律関係者が事件に関して法律以外の専門家の援助を求める作業を「鑑定」と言います。たとえば、法医学的な鑑定などがあります。この鑑定の中で、精神医学や心理学に関わるものを「精神鑑定」と呼んでいます。(戻る)
*「心身喪失」
精神障害のために、自分の行為の善悪が判断できないか、行動をコントロールできない状態。
一方、「心神耗弱」(しんしんこうじゃく)とは、このような判断やコントロールが、できないわけではないが、著しく低下している状態。刑法第39条
1、心神喪失者の行為は、これを罰せず。
2、心神耗弱者の行為は、その刑を軽減す。(戻る)
事件の概略
1988〜1989にかけて、埼玉、東京で4人の幼女が誘拐され殺された。犯行後、遺骨を家族に送りつけたり、「今田勇子」の名前で犯行宣言の手紙が出された。逮捕後、被害者の遺骨を食べるなど、さらに異常な行動が明らかになった。
マスコミは、ビデオでいっぱいの犯人の部屋をうつし、「オタク」という言葉が流行った。逮捕後、その犯罪の異常性のために、精神鑑定が行われたが、3つの異なる判定結果が出された。本年、4月14日、東京地裁で死刑判決が出た。精神鑑定
精神鑑定の結果、犯行当時は善悪の判断がつかないような精神異常の状態だったと裁判所が認めれば、無罪になる。また、その判断力が弱くなっていたことになれば、刑は軽くなる。
今回の事件では、3種類の精神鑑定結果が出てしまった。
1「犯行時は精神病ではなく、人格障害だった。」
2「解離症状(多重人格)を主体とする反応性精神病だった」
3「精神分裂病だった。」
1なら有罪、3なら無罪、2の場合は有罪無罪の判断は難しい。
裁判所は、1を採用し、有罪、死刑とした。(戻る)
「分裂気質」
ドイツの精神医学者クレッチマーは、性格(気質)を大きく3つの型に分類しました。「そううつ気質」、「粘着気質」、「分裂気質」の3つです。もちろん、どの性格も病的というわけではありません。精神鑑定の結果が、分裂気質(という性格)である、そして精神障害はみられないならば、当然、有罪になります。
ですから、「「分裂気質」でも少年院送致」という見出しは、理解できません。
(産経新聞のこの事件に関する記事には積極性が感じられ、興味深く読んでいるのですが。)(先日、上記の内容のメールを産経新聞に送りましたが、今日現在、返信はありません。)8.7 (戻る)
(補足:似たような言葉ですが、「精神病質」「分裂質人格障害」「分裂病質人格障害」等の用語は、精神病ではありませんが、病的な性格障害をあらわしま。また、「分裂気質者」という言葉で病的な性格障害者を表すこともあるようです。
*「子ネコの道(心理学入門)」で、「性格の心理学」のページを更新しました。気質の説明もあります。8.7
これからの更新予定
このページ(精神鑑定とは何か)は、マスコミ報道の内容についての解説とともに、次の2冊の本の要約を掲載する予定です。
「精神鑑定とは何か」福島章 著 ブルーバックス ISBN4-06-257075-0 ここをクリックすると要約が読めます。(精神鑑定とは何か) 8.15更新
・精神鑑定とは・精神鑑定の実際・心理テストで何がわかるか 等
「精神鑑定:ケースブック」小田晋 著 青土社 ISBN4-7917-5528-6
・犯行動機の二重登録・愛の幻想と快楽殺人・心の傷とは何か 等
* * * *
私は、犯罪心理学の専門家でもありませんし、精神医学や臨床心理学の専門家でもありません(専門は実験社会心理学)。 しかし、その分、あまり専門的になりすぎずに、わかりやすい解説をしていきたいと思っています。
今までに、児童相談所、教護院、少年刑務所には、訪問したことがあります。精神病院には、学生時代に1年間の間、月に2度ほど勉強のために通いました。また、東京都の「精神科救急」の受付の仕事を非常勤で2年のあいだ毎週行っていました。家族につれられて来た人もいましたし、警察官に「保護」されてきた人もいました。
利用者のプライバシーに関わることは、もちろん一切お話しできませんが、その経験をとして学んだこと、考えたことは、みなさんと共有できる思っています。
ここでは、精神鑑定の基礎について学び、そしてみなさんとご一緒に考えて行くわけですが、それとともに、精神障害者は気味が悪いとか、恐いといった、誤解も解いていきたいと考えています。1997.8.5
*補足:その後、いろいろと犯罪心理に関わるようになり、3冊の本を書き、いくつかの場所でコメントを出しました。2003.9.17
→次にページ:精神鑑定の結果判明へ進む
NHKテレビ視点論点出演 「犯罪心理学・心の闇」碓井真史
ホームページから3冊の本ができました。 『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』 主婦の友社 内容
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