2001.6.8
子どもにマイクを突きつけるのはやめよう。
大人たちがまず冷静になり、子どもたちに安心感を与えよう。
2001.6.8.午前10時15分ごろ、大阪の国立教育大付属小学校に、刃物を持った男が乱入。児童8人が死亡。37歳の男が現行犯で逮捕されました。 6.8. 21:00むごい事件がおきてしまいました。テレビのニュースを見ているだけで、私などは体の力が抜けてしまうほど、衝撃的な事件です。容疑者男性
市職員として働いてきましたが、どの職場でもトラブルを起こしてきました。近隣の住民ともトラブルを起こしてきました。そして、以前務めていた小学校内において、職員のお茶に精神安定剤を混入した罪で、逮捕されています。
しかし、このときは、責任能力がないとされ、刑務所ではなく、精神科に「措置入院」(自傷他害の恐れのある人に対する強制入院)をしています。
一部マスコミによると、最近では、父親からも勘当されたような状態だったと報道されています。
通院歴
逮捕された男には、精神科の通院歴がありました。犯行直前に、大量の精神安定剤を飲んでいるようです。現在のところ、彼の精神的な病気と犯行との関係は不明です。マスコミ各社によって、実名、顔写真を出しているところもあれば、匿名扱いにしているところもあります。
一部のマスコミは、通院時の病名を「精神分裂病」と報道しています。しかし、一般的に言って、分裂病の患者さんがこのような犯罪を犯すことはとても考えにくいことです。一般的には、このような計画的で攻撃的な行為が取れないのが、分裂病の患者さんです。通り魔的な大量殺人などは、覚せい剤中毒患者によって行われることはあります。
(私の個人的な感覚ですが、普通の分裂病の患者さんは、実際に会ってみると、無害で善良な人々です。)
犯行の動機として、自殺したかったが死にきれなかったために、大量殺人を試みたと語っているようです。
現段階では、不明なところが多いのですが、分裂病ということだけではなく、なにか反社会性を持っている人のように感じます。
被害者の心のケア
犠牲者のご遺族、けがをした子どもたち、また事件を目撃した子どもたちへのこことのケアが必要です。
事件直後の現在の心理は、パニック状態でしょう。誰だって、そうなります。仕方のないことです。
事件や犯罪の直後の取り乱した状態を「ASD(急性ストレス障害)」と言います。ASD は事件や災害の直後から4週間以内に起こります。
心の面の問題としては、緊張感、過覚醒(敏感になりすぎる)、不眠、混乱、苛立ち、感情や感覚の麻痺(現実感がない)、健忘(記憶の一部を失う)となどの症状があらわれます。身体的には、頭痛、肩こり、筋肉痛、消化器症状、めまいなどがみられます。
子どもたちは、今日は眠れないかもしれません。やっと眠っても、悪夢に驚いて、突然泣いて起きてくるかもしれません。
このような大事件ですから、事件の心理的影響がさらに長期にわたるPTSD になっても無理はありません。しかし、事件直後の対応が、PTSDを小さくするためにも大切です。
多くの心の問題がそうですが、苦しみを自分の内にだけ閉じ込めず、外に表す必要があります。話をしっかりと聞いてあげましょう。
ただし、話したくない人に無理に話をさせてはいけません。逆効果です。その人が話したくなったときに、下手なアドバイスや激励などせずに、その人の苦しみを受け入れ、ただ話を聞きましょう。
寄り添ってあげること
今日(しばらく)は、一人で眠れないかもしれません。一人でトイレにいけないかもしれません。一人で学校にいけないかもしれません。いつもとは違って、甘えてくるかもしれません。そんなときは、甘えさせてあげましょう。大丈夫です。不安なときにしっかり甘えることができれば、また前のように元気に強くなれます。
無理に話を聞かなくても、そばにいてあげることが、慰めになります。寄り添っていてあげましょう。
これは、直接事件を目撃した子どもだけではなくて、不安がっている子ども全体にいえることです。
今、あの町は、
事件が起こった町自体が、今大変な状態でしょう。この事件そのものの衝撃と、日本中から集まってきた人々よって、もみくちゃにされています。警察官、マスコミ関係者、上空を飛び回る何機ものヘリコプター。町もあちこちで、人々はマイクを向けられ、レポーターが原稿を読んでいます。
事件は起こってしまいました。もう、タイムマシンで戻ってやり直すわけには行きません。だとすれば、私たちにとってできることは、事件の悪影響を少しでも減らすことです。
混乱する町の中で、親も、子どもたちも、学校関係者も、平静さを失いかけているかもしれません。
まず、大人が冷静になろう
子どもたちは、事件そのもので動揺し、さらに、大人たちが動揺している姿を見て、なおさらのこと落ち着きを失っていることでしょう。
大人だって不安になります。不安になって良いんです。無理をすることはありません。けれでも、子どもの不安を増幅するのではなくて、子どもに安心感を与えましょう。
ただでさえ、子どもは不安になっています。大人も一緒にどんどん不安になっていくのではなくて、「怖いことはもう終わった。だいじょうぶだよ」と安心させてあげましょう。
子どもに安心感を与えたり、子どもの辛い話を黙って聞くことは、エネルギーのいることです。大人だって辛いんです。でも、こんなときこそ、家族の出番、地域の出番です。大人たちが互いに支えあって、そして、子どもたちを守っていきましょう。
もしも心無い一部のマスコミが、子どもを不安がらせるとしたら、マスコミからも子どもを守りましょう。
(もちろん、報道自体が悪いわけではありません。注目の事件ですし、報道の重要性は言うまでもありません。)
希望をもって
子どもたちは、これからもこの町で暮らし、この学校で学んでいきます。明日、また来週以降、いろいろな集会がもたれたり、見張りが立ったりするかもしれません。でも、その一つ一つが、子どもを不安がらせるのではなく、子どもを安心させるようにしてほしいのです。
もちろん、ただ陽気にすればいいのではありません。子どもが悲しみを表現できる場は、他とも大切です。また、多くの犠牲者が出たのですから、軽々しい態度はとれません。当然のことです。
しかし、そうであっても、地域も学校も子どもたちも、今回の不幸な事件に負けることなく、希望が持てる方向に行ってほしいのです。
(一部のワイドショーや一部のメディアなどはことさら、不安を盛り上げるような報道を行うかもしれませんが、私たちみんなで、私たちの子どもと、私たちの生活を守っていきましょうよ。)
子どもにマイクを向けるのはやめよう!
6.8夕方のテレビニュースを見ますと、大勢のマスコミ関係者が子どもにマイクを向けていました。さすがに、泣いている子どもにマイクを突きつるようなことはしていなかったようですが、それでも、やめてほしいと思います。
取材を受ける大人たちの中には、顔を出していなかったり、モザイクをかけてもらっている人もいました。大人は知識と経験によって、そういう要求もできるのでしょう。子どもはそれができないのですから、大人が守ってあげなくてはいけません。
インタビューに答えている子どもの中には、ちょっと笑みを浮かべている子どもがもいました。その子どもを責める気はまったくありません。わからないのですから、しかたがありません。それを平気で放送してしまうメディアの側に問題があると思います。
不安がっている子どもはもちろんのこと、元気に答えてくれる子どもに対してでも、あのような形の取材は控えるべきです。番組のなかで、「子どもの心のケアを」といっているのに、矛盾しています。
せめて、顔を隠してください。
[ニュース23への投稿(今日の心理学6.9)]
続きは、すぐにアップします。
ところで、こんな事件があると、まったく事件と無関係な「通院中の人」や精神安定剤を服用している人が、白い目で見られたり、自分で不安になってしまったりします。
大丈夫ですからね。安心して、病院に通ってくださいね。安心して、医師の指示どおりに安定剤を飲んでくださいね。
アップしました。
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