当サイトの本:『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』 主婦の友社
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犯罪心理学 / 池袋・下関通り魔
/ 池袋通り魔判決
2002.1.18
東京池袋で1999年9月、2人が死亡し、6人が負傷した通り魔事件での判決が東京地裁ででました。判決は、被告人の責任能力を完全に認め、求刑どおりの死刑でした。
弁護側は、被告人は精神分裂病の妄想状態のために、善悪を判断し行動を統制する力がまったくない心身喪失常態化か、その力が弱っていた心神耗弱(しんしんこうじゃく)状態であったと主張し、死刑判決を免れようとしていました。
しかし精神鑑定においても、人格障害(性格の病的なほどの偏り)はあるものの責任能力はある(善悪の判断はできる)とされており、判決でもこの鑑定が採用されました。
判決では、動機を「自分のように努力している者が評価されないとの不満を抱いていたところ、無言電話が引き金になり、社会に反発心を募らせて犯行を決意した」としてます。
これに対して、弁護側は、「通行人を無差別に襲った動機が不可解として、「精神分裂病による妄想の影響下にあった」と主張していました。
彼が、発病していたかどうかは、どても微妙な問題ですが、ここでは鑑定の結果を尊重したいと思います。そうすると、検察や裁判官が主張する犯行動機は、やはり弁護側が言うように「不可解」ではあります。
いわゆる「犯行動機」とは、金目当てとか、恨みといったもので、人々にとって理解しやすいものです。しかし、犯罪の中には、このような明確な動機のないものもあります。以前なら「動機なき殺人」と言われていたかもしれません。
今回の事件も含めて、通り魔殺人の動機は、自分もこの世も終わりにしたいということでしょう。確かに不可解ではあります。また彼に性格的なゆがみもありました。しかし、彼はこの行為が法に触れることをよく認識し低たとい雨天において、法的には責任能力があるとされるのは妥当でしょう。
被告人の両親は、ギャンブルで多額の借金を作り、少年だった被告人を残し、家を出てしまいます。夜にはこっそりと自宅に戻り、千円札を置いて行ったりしたそうですが、しだいに夜も来なくなりました。「当時を思うと涙が出る」と被告人は語っています。
被告人はもともと成績も良かったのですが、このような事情で、高校を中退しました。大学進学の夢も持っていましたが、かないませんでした。
高校中退後、職を転々とする一方で、「新しい生活を始めよう」と思い、アメリカへ行きます。しかし、職に就くことができず、教会で世話になりました。生活は楽しかったようですが、ビザが切れたために帰国しなければなりませんでした。
犯行前に勤務していた新聞販売所でも「まじめ」「遅刻をしない」など評判は悪くありませんでした。
犯行一週間前、無言電話があり、「努力しない人間からのいたずら電話にむかついた。世の中をあっといわせてやろうと思った」といいます。
翌日、「ボケナスのアホ殺し取るけえのお、わし全部殺すけえのお」と書かれた紙をアパートのドアに張り、そして犯行の準備を始めてしまったのです。
裁判官は、彼の犯行を「無差別に人々の命を奪い、傷つけたという、人として到底許されない自己中心的で冷酷な犯行」と語りました。そのとおりだと思います。
安易な同情をするつもりはありません。しかし、彼の両親がもし失踪したりしなければ、あるいはもっとアメリカで生活することができていれば、こんな犯罪を犯したりはしなかったでしょう。
彼自身の性格的な問題は大きかったわけですが、多くの犯罪は本人の性格的な問題と、不幸な環境や偶然の積み重ねによって生まれてくるのです。
犯罪防止のためには、警察力や刑罰の存在はもちろん大切ですが、同時に、社会に住む一人一人が人生に絶望しないで住む社会作りが大切だと思われてなりません。
裁判はさらに続いていくのでしょうが、たとえば死刑判決が確定すれば、事件としては一応終わるわけです。報道も静かになります。そして死刑が思考されれば、本当に事件は終わったとされるでしょう。
しかし、傷害を受けた方々、またご遺族の方々にとっては事件は終わりません。大きな報道がなくなっていくといしても、身近な人々、そして社会全体で被害者ご遺族を支えていく必要があるのです。
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