境界性人格障害、性的虐待などについてドラマを通してわかりやすく解説。
「心の散歩道」(心理学総合案内)/「心療内科医・涼子」から学ぶ心理学/ 8、境界性人格障害・性的虐待
第8回 97.12.1
「辛かったね。 言ったら、見捨てられると思ったんだ。」
「少しずつ、少しずつ、心の痛みを吐き出していこう。」
「大丈夫。わたし、あなたが何を言っても見捨てたりしない。」
「見捨てたりしないわよ!」
ゲスト・クライエント:松嶋菜々子
心の問題:境界性人格障害・性的虐待
用語解説
境界性人格障害
あらすじ
二人の男が乱闘している。にやりと笑い、2つの婚約指輪を捨てる女、稲村沙織(松嶋奈々子)。争いの原因はこの女らしい。現場から立ち去った沙織は、路上で急にせき込み、苦しみ始めた。そこに研修医の飯島(河相我聞)が通りがかった。
数日後、沙織が涼子(室井滋)達の心療内科へやってきた。ストレスのために体の調子が悪いので入院したい、担当を飯島先生にしてほしいと言う。入院後、沙織は、様々な方法で同室の患者たちをワナにかける。患者たちの症状は悪化し、心療内科の医師や看護婦達のチームワークも乱れ始めた。
その様子を見て、佐織はまた、にやりと笑う。涼子がその表情に気づいた。沙織の病気は、ストレスではなく、「境界性人格障害(境界例)」ではないかと涼子は言う。境界性人格障害の患者は、周囲の人を自分の味方か敵かに分けて、その味方が離れようとすると、不安になり、トラブルをわざと起こすという。
涼子は、沙織が勤務先でも様々なトラブルを起こしていたと知り、診断への確信を深める。面接室(プレイルーム)で、オルゴールを見た沙織は、異常な反応を示す。やはり、彼女の心の問題は浅いものではない。 だが、担当医の飯島には十分に理解できない。医局長の杉本(寺脇康文)は、飯島を沙織の担当からはずし、涼子を担当にした。
再び、沙織がトラブルを起こした。同室の患者は取り乱して階段から転落し、ケガをしてしまった。杉本は、これは心療内科の領域外であり、他の患者を守るためにも沙織を退院させると言う。涼子は、見捨てることはできないと猛反対した。飯島も、もう一度、沙織を担当させてほしいと申し出た。
しかし、沙織と涼子の面接で、沙織は涼子の弱点を突き、激しく責めたてる。沙織の治療は困難だ。沙織と飯島の面接では、飯島は沙織に問われるままに父への憎しみを語る。沙織は、復讐のために一緒に自殺してやろうと誘う。だが断られると、飯島に暴力を振るい、暴言を吐く沙織。そこへ、涼子が現れ、沙織の本当の気持ちを聞き出す。
「あなたが本当に殴りたい相手はだれ?」 沙織は自分が兄から性的虐待を受け、母親からも無視されたことを打ち明ける。親から期待されている兄を悪く言えば、自分が見捨てられるのではないかと不安で、親には本当のことが言えなかったのだ。
「よく言ったね。」「辛かったね。」「私、あなたが何を言っても見捨てない。見捨てたりしないわよ。」 涼子の言葉に心を開く沙織。今度こそ、本気で直そうと思えるのだった。研修医の飯島も、心療内科医への道を目指す決意を固めるのだった。
この場面・このセリフ
今回は、境界性人格障害(境界例人格障害)という「性格の病気」です。性格の病気の中でも、かなりやっかいなものの一つです。ドラマの中では、典型的な境界例(境界性人格障害)の姿が出てきます。境界例は、最近話題になることが多い人格障害です。
稲村沙織(松嶋奈々子)の役柄は、表面上はとても魅力的な人として描かれています。NTVの松嶋奈々子とプロデューサーへのインタビューのページで、インタビュアーが「松嶋のイメージと悪女とは結びつかないのだが、」と語っていますが、境界例(境界性人格障害の人は、魅力的であることが少なくありません。
この人達の普段の様子は、とても心の病だとは思えません。ですから、入学試験も入社試験も合格して、学校や職場にも入ってきます。恋人もできます。
“暴走特急”と言われながらも、次々と難しい患者を治療する涼子。理想的な心療内科医かと思えば、本人は、こんなふうに思っていたのですね。
物を相手にする仕事では、自分はその仕事にぴったりだ、日本一の職人、日本一の技術者だと思うことは、悪いことではないと思います。でも、人を相手にする仕事は、そうではないと思います。自分は教師にぴったりの人間だ、なんて思っている教師は、ちょっといやな感じがします。むしろ、自分は教師に向いているのかと問い続けながら仕事そしている人の方が、私は好きです。
その職業に向いている性格、能力福祉や看護の学生さんから、ときどき、相談を受けることがあります。自分はその職業に向いていないのではないかと。(そんなふうに質問してくる学生さんは、たいていよい学生です。) 私は、こう答えます。
「福祉(看護)に向いている人は、優しい、誠実、包容力がある、理性的、実行力がある......。でも、それはどんな職業だって同じだよ。実際は、いろんな先生や看護婦さんやワーカーさんがいるでしょ。いろんな人がいて、それでいいと思いませんか。君が、その職業になりたい、努力したと思っているなら、向いていないなんてことはないと思います。」
沙織は、ウソをついたり、ワナをかけたり、女の武器を使って、自分の思いのままに人を操ろうとします。そして、周囲の人達の人間関係を壊そうとします。これは境界例(境界性人格障害)の特徴の一つです。今回のドラマでもあったように、精神科に入院した場合にも、「あの看護婦があなたのことをこう言っていた」等とウソをつかれて、医療スタッフ同士の仲が悪くなってしまうこともあるようです。まさに、トラブルメーカーです。
私が以前会った境界例の男性患者さんは、診察場面で、まず暴力で医師に言うことを聞かせようとし、それがだめだとわかると、今度は泣きながら医師に懇願していました。彼らはいろいろな方法を使います。
心療内科医には、この両者が必要だと言うわけですが、人を扱う仕事は全てそうだと思います。熱い心と冷静な頭が必要です。どちらか片方だけでは不十分です。
怒りを抑えられず、乱暴をしてしまうのも、境界例(境界性人格障害)の特徴の一つです。研修医の飯島をたたくシーンがありましたが、もっと激しく乱暴してもおかしくないと思います。
以前、少し関わった境界例の女性は、ときどき怒りを爆発させ、激しい暴力を振るっていました。また、偶然見かけたのですが、空港のカウンターで、飛行機に乗れなかった女性が、自分のバッグを思いっきり放り投げ、すわり込み、怒りと不満の感情を爆発させていました。様子から想像して、境界例なのかなあと思って見ていました(簡単に他人に病名などつけてはいけません。ふと、心の中でそう思っただけです)。彼女のそばには、恋人らしい男性が困って立っていました。
「ちえこちゃん」のことを質問され、こんなことを言われて、涼子もかなり動揺していましたね。さて、自分の心に問題を抱えていてクライエントの話を聞くことができない、受容することができないというのなら、相談や援助の仕事はするべきではないと思います。まず、自分の問題の解決が先でしょう。
でも、それは心の中に何の問題もあってはならないという意味ではありません。客観的に見て、やはり普通の意味で言えば、規則破りの常習犯でもドラマの中の涼子はかなり優秀な心療内科医です(ドラマの主人公ですからね)。
私自身、人の心や人間関係について、みなさんに話ができるような人間ではありません。人間関係に関しては、むしろ、大きな弱点を持っているほどです。「私にはそんな資格はありません。」 でも、「だからやめてしまおう」ではなくて、「だからこそ、もっと一生懸命にやろう。」と思っています。
涼子のセリフです。たしかに、カウンセラーがクライエントに慰められたり、悩みを聞いてもらったりしているのでは困ります。自分のいやしを第一の目的にしてしまえば、病的な「共依存」にもなりかねません。けれでも、カウンセリングを行い、クライエントがいやされていく過程を通して、カウンセラー自身がいやされるのは、珍しいことではありません。
教師が生徒に教えることを通して、自分が学び、自分が成長するのに似ているでしょうか。私も教員として、このような体験をしています。また、私はカウンセラーではありませんが、いろいろな方とお話しする中で、上に書いたことに近い体験をすることもあります。
人を援助する仕事に就く人にとって大切なのは、
「私もまた、誰かの援助を必要とする人間だ」 という思いです。
沙織が、まだ父親を憎んでいるという研修医の飯島を、自殺に誘って言うセリフです。自分が愛されていないと感じる人は、人にダメにされる前に、自分で自分をダメにしようと思うことがあります。今回のドラマのように、自分を愛さなかった(と思い込んでいる)親への強烈な復讐として自殺を試みることもあります。
「グレてやるう!!」「死んでやるう!!」という心理です。子供を無条件の愛で愛せば、そしてそれを子供が実感できれば、復讐されることはありません。自分は愛されていると実感できるとき、人は自分を愛することができるからです。
「何でもする」と言った飯島が、一緒に死んでくれないと分かって、沙織は怒りを爆発させます。医師は自分を助けてくれるが、一緒に死んでくれるような援助まではしないという、常識的な人間関係の距離をとることができないのです。
境界例(境界性人格障害)の人達は、「見捨てられるのではないか」という強い不安を持っているので、信頼していた人とのささいな行き違いでも、激しい怒りを感じてしまうのです。
人の弱点を突き、困らせることで、自分自身の心の傷に触れられないようにしています。彼らにとっては、「攻撃こそ防御なり」といったところでしょうか。「弱い犬ほどよく吠える」の心理といえるかもしれません(ちょっと違うかな)。
境界例(境界性人格障害)に限らず一般的な話ですが、自分の弱さや傷に誰かが触れようとすれば、人は防衛的になります。その防衛手段の一つとして、相手への攻撃があるのです。また、日頃から人を傷つけるような攻撃的な人の中に、大きな心の傷や劣等感がある人もいるでしょう。
沙織は実兄から性的虐待を受けていました。
リンク:
性暴力情報センター
性暴力、性的虐待に関する情報提供。関連団体、電話相談などの紹介。子供の虐待防止センター
TEL 03-5374-2990もし、あなたがとても傷ついているとしたら、
それでも、あなたはきっといやされると、私は信じています。あなたや、周囲の人がいま被害を受けているとしたら、
勇気を持って戦おう!(こんなことを軽々しく書くのも、心が痛みます。でも、「言わなくては、」と感じています。あなたの味方になって、あなたを援助してくれる人達は、きっといます。)
無視されるのは、時には怒られるよりも辛いことです。
今までのドラマの展開の中でも、何回もありましたね。心の問題を表現できないことが、心の痛みになっていることがあります。逆に言うと、表現でき始めれば、解決へ向かって歩み始めたともいえます。
言葉で上手く表現できないときには、「絵」や「箱庭」を使うこともあります。第6話では、粘土を壁にたたきつけていましたね。
あなたが、心に傷を持った誰かの援助をしたいと思うときには、まず、その人の話を聞くことが大切です。
強い「見捨てられ感」を持つ境界性人格障害の人への象徴的な援助の言葉です。一般的なカウンセリング的面接について言えば、少なくとも基本として、相手の言ったことで相手を批判したり、バカにしたり、見捨てたりしないことが大切です。そういう人に対してでなければ、心の深い問題を話そうとは思わないでしょ。
人の心を表す言葉として、似たような表現が何度か出てきましたね。「死にたいけど、生きたい」とか。だから、希望が持てるという場合もあります。ただ、家族からの虐待などでは、このような思いになるからこそ、心の問題が複雑になってしまう側面もあります。
人を敵と味方に二分してしまう境界例の人への象徴的な援助の言葉。一般的に言っても、広い意味で心の病を持った人達に、こういう傾向は見られます。微妙で、現実的な人間関係を理解し、受け入れることが苦手なのです。
カウンセラーは、全く信頼できない人間ではない、でも親のように全てをなげうってでも自分を助けてくれるわけでもない。カウンセラーはカウンセラーとして自分を愛し、助けてくれる人だ、と理解できれば、問題解決への大きな一歩となります。
グレている君へ、ヤケになっている君へ。
あなたのことを心配し、助けてくれる人は必ずいます。その人の愛が不十分だとその人を責めても、あなたは幸せになれません。小さな愛でも、受けとめて下さい。
* * * * *
カルト集団のマインドコントロール
話は変わります。心の病ではありませんが、悪質なマインドコントロールを使っている破壊的カルトでも、「白黒をはっきり」させます。
仏教でも、キリスト教でも、神や仏の深いお考えの中にあり人にはわからないことや、人類永遠の謎といったものがあると思います。しかし、破壊的カルト宗教は「今や全ての謎が明らかにされた」と言います。神学者などに言わせると子供だましの理論でも、特別な勉強をしていない普通の人達をだますぐらい簡単です。
そして、自分たちの集団は完全な「善」で、それ以外の人達は「悪」だと教えます。オウム真理教もそうでしたね。人民寺院もそうでした。自分達の宗教組織に反対するものは、親兄弟でもサタンだと教えたりします。
彼らは、心理学的なテクニックを使うこともあります。また、心や家庭のいやしを名目に人々に近づき、逆に人の人生を奪い、家庭を破壊します。心理学者としても、個人としても、彼らの行為を許すことはできません。
* * * * *
すいません。このことについて話し出すと、つい語気が荒くなってしまいます。失礼しました。私は、良心的な宗教の存在意義を信じる者です。そして、悪質な宗教組織で加害者になっている信者さん達もまた、マインドコントロールと破壊的カルトの被害者なのです。私は自分のできる範囲で、被害者とそのご家族のために活動していきたいと思っています。
このホームページ(「こころの散歩道:心理学総合案内」)内にも、マインドコントロールに関するページがあります。ぜひ、ご覧下さい。
ドラマにちょっと一言
私だけかもしれませんが、今回は「境界性人格障害」の問題に目が行ってしまいました。つい、ドラマとはいえ、そんなに簡単に改善されないよお、なんて思ってしまいました。
この人格障害は最近増えてきたとはいえ、あまり身近な話題ではなかったかもしれません。それにこだわらず見れば、見捨てられるのではないかという不安や、涼子の戸惑いなど、共感でき、そしてドラマをとおしてのいやしになる部分があったと思います。
また、ドラマを通して「境界性人格障害」の理解が少しでも深まることを願っています。彼らも、本来は魅力的で有能な人達なのですから。
用語解説 境界性人格障害
BOOK:『心療内科医 涼子』(ドラマから生まれた小説)
DVD:『心療内科医・涼子』DVD 1〜4(全話収録)
MUSIC:『心療内科医・涼子』の曲 (主題歌など)
☆ ネ ッ ト で D V D レ ン タ ル ! ☆ T S U T A Y A D I S C A S ☆
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