援助交際、父子関係、アダルトチルドレンなどについて、ドラマを通してわかりやすく解説。
「心の散歩道」(心理学総合案内)/「心療内科医・涼子」から学ぶ心理学/ 7

水を飲み続ける少女
父子関係・アダルトチルドレン・援助交際

第7回 97.11.24

「私は無視という虐待を受けてきた。」

「俺は子供の愛し方なんか教わらなかった。」

「お父さん、抱いてあげなさいよ。」「もっと強く! もっとしっかり!」

「あの人があんなに苦しんでいたなんて、あたし考えたこともなかった。」


ゲスト・クライエント:奥菜 恵


心の問題
:心因性多飲症,援助交際,アダルトチルドレン,虐待,父子関係

用語解説

アダルト チルドレン


あらすじ

 高校生の館林絵里(奥菜恵)は数学好きの、一見、問題のない生徒だ。しかし彼女は「援助交際」をしている。ある日、医局長の杉本(寺脇康文)は、公園の水飲み場で、大量の水を飲み続ける絵里を見つけた。倒れ込む絵里を、杉村は病院へ運んだ。

 絵里の両親の祐司(石丸謙二郎)と千里(岡まゆみ)が病院に駆けつける。だが父親の祐司は、こんな時にも仕事を気にしていて、絵里のことに積極的に関わろうとしない。絵里は心療内科に入院することになった。

 涼子(室井滋)が担当になったが、絵里は「杉本に変えてほしい」という。杉本に恋愛感情を向けている。精神分析学的に言う「恋愛転移」を起こしているようだ。杉本は、以前にも同様の患者との苦い体験を持っているが、絵里の担当を引き受けることになった。

 絵里は、父の祐司のことには関心がないし、父も私を無視しているという。夜の医局で絵里は杉本に「抱いてほしい」と迫った。杉本に静かにたしなめられた絵里は、病院を抜け出した。絵里は、援助交際で男とホテルに入り、大量の水を飲んで倒れた。再び病院に運ばれた絵里は、「死にたかった」と語る。

 杉本は、絵里との関わり方を病院内で非難され、絵里の症状も悪化する。父親の祐司自身がその酒乱の父から虐待されていたことも知った涼子は、「家族療法」を何とか始めたいと苦心する。絵里と母親の千里が待つ診察室へ、ずっと消極的だった祐司もついに現れた。来るわけがないと思っていた絵里には驚きだった。

 親子3人が、初めて本当に自分の気持ちをぶつけ合おうとしている。「私のことが憎いのよ!」「私の人生にずっとあなたはいなかった!」と父の祐司を責める絵里。しかし、祐司は涙をながしながら語りだした。

「俺はずっと殴られてきた。」「父親失格の男を何十年と見てきた。」「愛情がなかったわけじゃない。」「俺は子供の愛しかたなんて教わらなかったんだ!」涼子に促され、祐司は初めて絵里を抱きしめた。

 絵里は、ずっと求めていた父親の愛情を感じ始めている。「あの人があんなに苦しんでいるなんて、あたし考えたこともなかった。」 お互いに、素直に愛情を表現できはじめ、絵里も快方に向かうのだった。


この場面・このセリフ

援助交際

 スポーツのように不特定多数の男性とのセックスを楽しむ女性もいるでしょうし、単純にお金のために売春する少女もいるでしょう。しかし、その裏に心の問題が隠れていることがあります。父親のように自分を愛し守ってくれる男性を求めて売春することもありますし、自分自身を傷つけるための売春や、親への心理的な復讐として売春などの性非行に走ることもあります。

リンク
(数年前の情報であり、現在は閉鎖されているところが多いようです。2002.3)

松江警察署の「援助交際」のページ

危険な誘惑:テレクラを利用して被害に遭う少女達(全国防犯協会連合会)

激論!援助交際とニッポン(朝まで生テレビ)

air poket 性に関する法的問題を考えるページ(大阪府生活文化部青少年課の委託に基づき、 関西大学法学部園田研究室の責任で運営)

女が裸を売る心理(わかばお姉さんの性の悩み相談室)

消極的で、仕事に逃げる父

 前回までのドラマでも何回も出てきましたね。ドラマは終わっても、「お父さんはどうなったのかなあ」と思っていましたが、今回はお父さんが問題の中心でした。

 ところで、家族の問題から逃げるとき、酒、浮気、ギャンブルなど、いろいろ考えられますが、「仕事」が一番逃げやすいでしょうね。他のものと違い、仕事ならば他人にも自分自身にも大義名分が立ちますから。もちろん、仕事熱心な方が、みんな家族から逃げているわけではありませんが。


「慎重に他の病気との鑑別を」

 大量に水を飲むのが、心因性(心が原因)の多飲症なのか、それとも他の身体の病気なのか、慎重に考えようと言うことです。本当は心の病気なのに、内科や産婦人科を転々として、苦しみ続ける人がいます。しかし、一方で、本当は身体の病気のせいなのに、それがわからなくて不必要な向精神薬(神経症や精神病の薬)を飲み続けてしまう例もあるでしょう。


医師への恋愛感情

 用語解説の第1回放送分ページに感情転移のことを書きました。今回のドラマでは、絵里は、表面上は父を嫌っていましたが、実は父親の愛情を強く求めていました。この心の底の抑圧された思いが、担当医の杉本にたいして恋愛感情になって向かったのです。

 彼女が、援助交際で、中年男性徒歩とるに行くのも、父親からの愛に飢えた心をいやすためだと言えるでしょう。(「私、ただ誰かと一緒にいたかった。男の人の広い背中を見ながら、........。」)

 ところで、男性入院患者が看護婦さんに恋をすることがあります。ナイチンゲール現象なんて言う人もいます。こういう愛が、幻の愛ならば、退院するとしだいに気持ちが冷めていきます。本当の恋ならば、退院しても思いは募るばかりでしょう。


「見捨てたわけじゃない。あなたのことを理解したいと、いま苦しんでいる」
「通りいっぺんの理解ならいらない! それだったら、最初から見捨ててくれた方がいいよ。」

 心に問題を抱え、暴力や窃盗や性非行に走る少年少女達は、強烈に人からの愛を求めています。それは、普段から温かい人間関係の中で安定した生活をしている人には想像もつかないほどです。しかし、愛を求めながらも、その表現と人間関係作りがとても下手なのです。

 愛や受容を求めて、身体を提供したり、万引きをしてしまいます。また、愛されない苦しさを知っているからこそ、完璧な愛を求めてしまいます。しかし、他者にそんな非現実的な愛を求めても、上手く行くはずはありません。一時期、クライエントがカウンセラーに完全な愛を求めたり、完全な愛の幻想を抱くことがありますが、それを越えて、しだいにカウンセラーとの現実的な人間関係が作れるようになります。

(参照:こころの散歩道/犯罪心理:心の闇と光/少年犯罪、非行の心理


祐司の酒乱の父

 父親の祐司の父は、酒乱で祐司のことをいつも殴っていました。前回のドラマもそうでしたが、心の問題は、単純に被害者と加害者を分けることができません。祐司もまた被害者だったのです。


「抱きしめて!」

 高校生のクライエントとセックスするわけにはいきません。それは、世間体とか、淫行条例とかいった問題だけではなく、そんなことをすれば治療関係が壊れてしまうからです。でも、そっと抱きしめるだけなら、良いケースもあるかもしれません。

 今までのドラマで、涼子がゲストクライエントを抱きしめるシーンがずいぶん出てきましたね。しかし、そうは言ってもやはり日本の現状では、カウンセリングルームで男性カウンセラーが女性クライエントを抱き締める事なんて、無理でしょう。


「そんなことをしなくても、愛情は手に入る」
「君は愛される価値がある」

 身体を提供し、自分を傷つけるような方法でなくても、愛情は手に入ります。ドラマの中の絵里も、読者であるあなたも、愛される価値があります。


「自分と同じ不幸な子をまた作る気ですか」

 自分と親との心理的な問題が未解決のまま、心のしこりとなって残っていると、自分と子供との関係にも問題が生じることがあります。


家族療法・娘の予想に反してきた父

 家族の誰かの問題は、その人だけの問題ではありません。母と子の問題でもありません。父と子の問題でもありません。家族全体の問題なのです。家族療法は、家族全員がそろう必要があります。しかし、父親や兄弟が参加したがらないことはよくあります。それでも、この問題は家族全体の問題だと理解し、仕事や学校を休んででも家族全員がそろえば、もう問題の解決へ大きな一歩を踏み出したのです。


「おまえ達に何を言ってもわからん」

 私の気持ちをあなたに一生懸命話しても、わかってもらえないかもしれません。でも、だからといって話をしなければ、わかってもらえるはずがありません。


「私はずっと見捨てられてきた。」

 本当はそうではなかったのですが、絵里はそう感じていたのです。実際に子供を愛することはもちろん大切ですが、その愛情が子供に伝わらなくてはなりません。不器用で、愛情表現の下手な親が、ときどきいますね。


「私は無視という虐待を受けてきた」

 虐待には、殴るなどの暴力、言葉による虐待、性的虐待、そして無視という虐待もあるでしょう。

リンク:子供の虐待防止センター(社会福祉法人子どもの虐待防止センター)


「ほめることも、叱ることもしない。」
「私をちゃんと見てよ! 叱って、殴ってみなさいよ!」

 ほめることも愛情なら、時には、叱ることも愛情の表現になります。売春までしているのに、叱ってもらえないのは、辛いことです。


「じゃあ、おまえ達に俺の気持ちがわかるのか。」

 「あなたに私の気持ちなんかわからない」そんなふうに言うとき、たいていの場合、「私」も相手の気持ちがわかっていません。お互いに、お互いの気持ちが分からないまま、相手は自分をわかってくれないと非難し合い、傷つけ合うのです。他人ならまだしも、家族や恋人同士だからこそ、その思いは激しくなり、傷つくことがあります。


「父親失格の男を何十年も見てきた。殴られながら育ってきた。」
「子供をたたくことだけは絶対によそう。俺も親父と同じになる。」
「それが恐くて、おまえに触れるここもできなかった。抱きしめることができなかったんだよ!」

 親に苦しめられてきた人達が陥りやすいパターンです。親のようには絶対になっては行けない、そう強く思いすぎ、自分を追いつめてしまいます。その結果、自然な親子関係が持てなくなるのです。


「愛情がなかったわけじゃない。」「どうやって愛したらよいかわからない。」
「俺は、子供の愛しかたなんて教わらなかったんだよ!」

 親の愛を受けなかった人は、前述した問題に加えて、子供の愛しかたがわからないことがあります。いくらホームドラマや育児書を見ても、結局、人は自分の親からの影響が一番大きいのです。
 考えてみると、私自身、私の父がしてくれたように、私の子供に絵本を読み、一緒に公園に行き、子供達と遊んでいます。


「お父さん、抱いてあげなさいよ。」「もっと強く! もっとしっかり!」

 お父さんは、自分の苦しみを口に出すことで、問題解決の一歩を踏み出しました。ここで抱きしめているのは、象徴的な意味が大きいと思いますが、心の痛みをいやすだけではなく、具体的な接し方をアドバイスする事も大切です。子供と遊ぶのが苦手なお父さんだったら、お母さんが一緒になって子供と遊んであげましょ。


「あの人(父)があんなに苦しんでいたなんて、あたし考えたこともなかった。」

 その人の言葉に耳を傾け、その人の苦しみが少し理解できたとき、非難や傷つけ合いではなく、温かな人間関係がスタートします。絵里も父親が自分を愛していなかったのではないことに気づき、人の心は簡単な理屈では計り知れないことに気づいたのです。


* * * * *

 以前、私が個人的に相談を受けた事例です。お嫁さんが子供のことをかわいがらないで困るという家族からの相談でした。たしかに、あまりほめられたお母さん(お嫁さん)ではありませんでした。夫を除き、家族の人達はお嫁さんを非難がちに見ていました。

 しかし、そのお嫁さんの話を家族のひとりがじっくりと聞いたところ、ある不幸な出来事のために、お嫁さん自身が親の愛情を受けていない、親に捨てられた、と感じていることがわかりました。子供のあやし方もよくわからなかったのです。

 お嫁さんの苦しみを家族が理解し始めて、家族全体の関係がよくなり始めたようです。また、家族全員で子供と遊ぶやり方などを保育の本で学んで、みんなでやってみました。子供と上手に遊べれば、子供も喜び、お母さんに甘えます。そうすれば、子供のことがますますかわいくなり、もっと上手に遊べるようになるでしょう。

(私はカウンセラーではないので、涼子のようにカウンセリングをしたわけでありません。ほんの少し、話をしただけです。あとは、家族の力です。)


ドラマにちょっと一言

 おもしろかったです! おもしろかった順に並べると、第1回 盗食する 女第6回 嫁 vs 姑 心理戦争、そして今回の第7回かな。今までの話で、「お父さんは?」と思ってきましたが、ここまでとっておいたのですね。60分の中で、子供の問題と母と問題と父の問題を一度に扱うのは、混乱してしまうのでしょうか。

 ここに来て、その子供の問題は、その子だけの問題ではなくて、父親も含めた家族全員の問題として表現されたわけです。今回の本当のゲスト・クライエントはお父さんでした。

 細かい話で、すいません。家族療法の場面で、お母さんが子供の背中にまわりますが、その演出意図がよく伝わってきませんでした。


今後の展開

 来週は、いよいよ、あのウサギの少女「ちえこちゃん」の話題が出るようです。
「ちえこちゃんって、誰なの?」

涼子も危機に立たされます。
「あなたに人の心をいやす資格はない!」

ドラマもいよいよ佳境を迎え、ますます楽しみです。

ところで、私自身、人に心の問題や人間関係などを話す資格のない人間だと思います。
(この話題も、来週しましょうか。)

それでは、また来週まで。ごきげんよう。さようなら。

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インナーチャイルド、今のあなたの力で癒す
親子関係の心理:傷ついているあなたのために


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