心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/自殺の心理/桐生・小6自殺(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)
2010.10.26
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ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺予防のために・いのち輝かせるために・みんなの幸せのために
小学校6年生の女の子が、自宅で首をつり自殺ししました(群馬県桐生市2010.10.25報道)。家族によると、学校でいじめがあったと言います。自殺にロープ代わりに使用したのは、本人がお母さんのために編んだマフラーでした。
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子どもの自殺は、統計的には数少ないものです。小学生の年間自殺者は、数名です。中学生は数十名、高校生になると100名前後です(日本の年間自殺者数は三万三千人)。
しかし、言うまでもなく、小中学生の自殺は数が少ないから小さな問題だというわけではありません。夢と希望にあふれているはずの子どもの自殺は、私たちに大きな衝撃を与えます。
また、子どもの自殺は統計に表れているよりも実際はずっと多いと指摘する人もいます。
今回の小6の女の子のケースでは、学校でいじめがあったと家族は話しています。家族の話によれば、悪口や仲間外れなどが露骨にあったようです。
もしこのいじめが事実であるとすれば、学校は適切にいじめに対応すべきでした。小学生の露骨ないじめ言動は、教師による毅然とした指導で改善されるものでしょう(いじめ加害者が心から反省するには時間がかかでしょうし、微妙ないやがらせを完全に消すのも時間がかかるかもしれませんが)。
ただし、いつもそうですが、今回も第一報だけでは簡単に判断できません(しばしばマスコミ報道によって不当に学校が責められることもあります)。
報道によると、学校側はいじめの事実を把握していないと言います。一方、校長は「担任の女性教諭がクラスをまとめきれない状態になることが時々あった」と語っています。毅然とした指導ができなかった可能性はあるかもしれません。
父親は、10回以上相談に行ったと語っています。「学校側は対策を示さなかった」と語っています。そうだとすれば、いじめ事実の有無とは別に、保護者の思いに学校は十分に応えていたのだろうかという疑問は感じます。文部科学省も学校の対応の調査に入りました。
家族によれば、給食の時間も一人だったといいます。逃げ場のない教室で一人でいることは、どれほど辛かったでしょうか。
子どもが自殺をされたご家族の思いは、どれほど辛いことでしょう。私も子どもに自殺された数名の親に会っています。葬儀にも何度か出ています。
身近な人の死の中でも、子どもの死は一番つらいでしょう。ましてや自死であれば、それは言葉に言い表せない苦しみでしょう。察してあまりあるものがあります。
特に今回のように、子供がいじめられて苦しんでいたということであれば、その悲しみ苦しみ怒りは、何倍にも膨れ上がることでしょう。
本当に心からご冥福をお祈りいたします。
けれども、そのことを十分にご理解している上で申し上げるのですが、一般に自殺の原因は、簡単には特定できません。
ひどいいじめがあったとしても、だからいじめが原因だとはなかなか言えません。多くの場合、自殺の原因は、複合的です。
そして、自殺予防の観点からすると、マスメディアが「いじめ自殺」と決め付けて報道することは、次の自殺を誘発しかねません。
親御さんのお気持ちは大変お辛いことは当然なのですけれども、私たちには、冷静な対応が求めらるのではないでしょうか。
子どもの自殺は、大人から見れば、小さな理由で、衝動的に実行されます。大人から見れば、本当に突然のことと感じられます。
青年の自殺のように、前々か様々な自殺のサインをだすこともなく、実行することもあります。
だからこそ、子どもの自殺予防のためには、日ごろからの心のケアが求められます。
父親の言葉によれば、子どもがいじめられ子どもが苦しみ、親も学校に相談に行っているのに有効な対応策は示されない(すくなくとも父親はそう感じていた)とすれば、本当は子どもも親もケアが必要だったのでしょう。
子どもを守るためには、子どもを守るべき大人も守られている必要があります。
この小6女子の担任は、クラスを把握し切れてなかった先生として責められるべきでしょうか。もちろん、プロとして責任を問われる場合もあるでしょう。しかし、困っているクラス担任を責めるだけでは解決しません。
本当は、この女のこと、この子のクラスに関わる大人たち全員が、支え合って問題解決ができていれば、この悲劇は起きなかったかもしれません。(学校だけが原因と決め付けているわけではありませんが)
昔のように、特定のいじめっ子が、次々といろんな子をいじめる場合、たとえアニメ「ドラえもん」のジャイアンがのび太や他の子どもたちをいじめている場合には、悪いのはいじめっ子のジャイアンだと感じることができます。
しかし、現代型のいじめのように、みんなで一人をいじめると言うことになると、いじめ被害者が自分自身を責めてしまうことがあります。
子どもにとって、クラスみんなからいじめられるということは、世界中から嫌われているようなものです。死にたくなるほど辛くなるのも、無理はないかもしれません。
実際の自殺の原因は不明確でも、「いじめ自殺」と盛んに報道されてしまっています。いじめの原因を単純化して報道するのは、危険です。
おなじような「いじめ」で苦しんでいる子たちの自殺の危険性を高めてしまうからです。
大きな自殺報道は、次の自殺を生んでしまいます。大きな自殺報道をするときには、必ず自殺予防に関する情報も一緒に報道しなくてなりません。
また、日常生活で子どもと接する人たちは、同じようなことで悩んでいる子に目を向け、声をかける必要があります。
自殺連鎖は、私たちの努力と工夫によって防ぐことができます。
自殺は、孤独の病とも言われています。孤独と絶望感によって、人は死を考えます。
でも、小さな子どもが一人ぼっちの訳がありません。今回も、どれほど多くの人が涙を流したことでしょう。ご葬儀には、何とたくさんの人が集まることでしょう。
私も、そんな葬儀を何度も見てきました。
君は、いじめらているのですか。それに耐えているのですか。辛かったね。苦しかったね。でも、君は、なんて強いのでしょう。いじめと闘っているんだね。学校に毎日通っている君はもちろん、学校を休んでいる君も、泣いている君も、そいういう形でいじめと闘っている勇者です。これを読んでいる君は、勇気あるファイター、いじめに負けていないサバイバーです。すごいぞ。
君は、一人ではありません。一歩、学校の外に出てごらん。世界中が君の味方です。
もうこの問題は解決できないと思い込んでいるかもしれないけれど、そんなことはありません。大人全員が、無力で無関心の訳はありません。家族でも先生でも、誰でもいい。誰かに話して下さい。
すぐに全部が解決しなくても、一歩ずつ着実に解決へ向かっていきますから。
君には、いろんな戦いの武器があります。相談すること、欠席すること、泣くこと。そしてまた相談すること。もしかしたら今は見えていないかもしれないけれど、君の味方も必ずいます。
君は一人ではないよ。
子の子どもが死にたいと考えていたなんて、大人は誰一人築かなくても、同じ子どもなら気づいていることもあります。
君が、友達から、死にたい、消えたい、いなくなりたいと相談を受けた時には、まずバカにしたり笑ったり無視したりしないで、話を聞いてあげてください。
そして、大人に相談してください。
だれにも話さないでと約束しているかもしれません。でも、友達との約束を守るよりも、友達のいのちを守る方が大切です。親や、先生に話して下さい。みんなで、友達を守りましょう。
大人でも「死にたい」なんていわれたら、不安になります。自殺したいと言われたときはどうしたらよいでしょうか。こういことを言いふらすわけにはいきませんが、一人だけの胸にとどめておいてもいけないと思います。信頼できる人に相談しましょう。みんなで、子どもを守りましょう。「あなたが死んだら私は悲しい」とみんなが思っているよと、伝えていきましょう。
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2011.3.29補足:市が設置した第三者委員会は、いじめが自殺の唯一の原因ではない、と結論づける調査報告書をまとめました。多くの自殺は、複合的な要因から発生します。
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