心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/自殺の心理/パクヨンハ(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)

韓流スター パク・ヨンハさんの自殺から考える
自殺予防の心理学

悩める芸能人・日韓の文化・自殺の理由・愛と死

2010.7.2

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あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
自殺予防のために・いのち輝かせるために・みんなの幸せのために

日本でも人気のある韓国の俳優パク・ヨンハさんが、2010.6.30自宅にて電源コードで首をつり自殺した模様です。遺書はありませんでした。日韓で大きく報道されています。


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パクヨンハさんだけではなく、相次ぐ韓国芸能界の自殺

報道によると、2005年に韓国の女優イ・ウンジュさんが自殺して以来、若手女優チャン・ジャヨンさんなど、今回を含めて14人もの韓国人芸能人が自殺していると言います。また、有名芸能人自殺の報道後に、影響を受けた人々の自殺の連鎖も報道されています。
各個人の性格、芸能人特有の感受性の鋭さ、不安定な人気商売であることなどに加えて、韓国の伝統文化と、近年の社会の急激な変化などが影響しているのでしょう。

パクヨンハさんの人柄と仕事

自殺される多くの方々がそうですが、パク・ヨンハさんも、善良でまじめで、サービス精神のある方だったようです。日本でも多くのファンを生んだ「冬のソナタ」で人気者になり、特に日本では多くの支持を得ました。しかし、最近はその人気にも陰りが出てきたようです。そんな中で、事務所を設立しますが、もっとも信頼していたマネージャーに裏切られる事件もあり、一部報道によると、金銭的な問題も生じていたと言います。

パクヨンハさんと家族・末期がんの父親

両親と共に住んでいました。パク・ヨンハさんは、両親をとても愛し尊敬していたようです。その父親がガンになり、すでに末期だったようです。自殺の直前、パク・ヨンハさんは、父親に詫び、この苦しみは僕が受けるべきなのにといった発言をしていたといいます。

パクヨンハさんの健康状態・自殺直前の様子

関係者の話によると、異常は見られなかったという人もいますが、落ち込んでいたと語る人もいます。最近は、よく眠れなかったようです。日本ツアーなど、スケジュールはぎっしり詰まっていましたが、自殺の直前には、「死にたい」と電話で語っていました。

パクヨンハさん自殺の理由:仕事の疲れ、仕事の悩み

過酷な仕事の中で、過労死や、過労自殺がおきてしまうことがあります。たんに仕事の量が多いということだけではなく、景気の悪化、業績不振、無理なノルマ、不本意な配置換え、仕事のストレスによるうつの発症など、いくつかのことが重なった結果、死にいたることがあります。
「命をかけて働く」のではなく、「命を大切にして働く」ことが、必要だと思います(『過労自殺 (岩波新書) 』)。
芸能人の場合は、一般のサラリーマン以上に、簡単には休むわけにはいかないでしょう。大きなコンサートを直前になって中止ににすれば、多くの人に迷惑をかけ、多額の損失を出してしまいます。
だからこそ、普段から心身の健康状態に気をつけなくてはなりません。特にまじめな努力家の場合、心の面の不調に自分でも気がつかない場合さえあります。長く仕事を続けるためには、休むことも仕事の一部です。しっかり休み、心身をリフレッシュする必要があります。身近な誰かが、きちんと休ませるることができていたら、今回の自殺は予防できていたかもしれません。

自殺の理由:末期がんの父親の看病、介護

お金持ちの有名人であれば、看護師でも介護士でもいくらでも雇えたはずだと思う人もいるでしょうが、まじめな家族は、どんなにお金があったとしても、自分自身が介護しなくてはならないと思いこみます。
日本で起きた元タレント清水由貴子さんの自殺も介護ストレスによるものだとされています。
まじめな人だからこそ、ときに孤独な介護に陥ってしまうこともあります。そして客観的に見れば、十分に介護していると見えるときですら、なお不十分だと自分を責めてしまうこともあります。「無理をしない介護」が大切です。

喪失体験と自殺の危機

日本でコンサートjを開けば、どんなに大きな会場でもチケットは売れ切れる、そんな絶頂の人気を彼は失い始めていました。空席を気にしていたと言います。もっとも信頼していたマネージャーを彼は失います。「もうだれも信用できない」とパクヨンハさんは語っていたそうです。多額の金銭も失いました。
父親は、病床です。病気と闘っている最中ですが、強くて頼りがいのなる存在である父親は失ってしまいました。遠からず、父親の命も失います。
このような大切なものを失う喪失体験は、自殺の危険性を高めまるのです。

不眠とうつと自殺

パク・ヨンハさんは、不眠に悩まされていたようです。不眠など大したことはないと思ってしまう人もいますが、不眠はうつの大きな兆候です。うつだけに限らず、眠れないことは、様々な心身の症状を悪化させます。うつは、早期発見早期治療が大切です。医学的な治療だけではなく、身近な人たちが、うつ状態の人との接し方を学ぶことが大切です。

アルコールと自殺

自殺とアルコールアルコールは深い関係があります。アルコール依存症による自殺が多数発生しています。また、依存症ではなくても、酒に酔った状態での自殺が多発しています。
悲しく辛い酒を一人で飲む、あるいはみんなで飲んでいても、酔ったまま自宅(自室)に一人で帰るときなど、危険です。

孤独と絶望感

自殺は孤独と絶望感によって生まれます。「誰も信用できない」と思ってしまったパク・ヨンハさんは、酔った状態で、仕事も父親のことも、もう駄目だと絶望し、衝動的に自殺に走ったのかもしれません。

日韓の文化

アジア的な、まじめで努力家の側面があるでしょう。家族の一体感も強いでしょう。これらは、普段は良いことです。しかし、精神的に追い詰められると、かえってこれらのことが災いし、自殺を増加させてしまいます。

愛と死

自殺される方々は決してわがままで無責任な人ではありません。パクヨンハさんもそうでしょう。彼は、仕事を愛し、両親を愛し、スタッフを愛していたことでしょう。たからこそ、何かがうまくいかなくなると、とても辛くなるのです。みんなにこれ以上迷惑をかけてはいけないという思いが、異常に強くなってしまうのです。自殺への思いは、愛と助け合いの心のメカニズムが、誤作動を起こしたものなのです。

自殺の連鎖・群発自殺

大きくセンセーショナルな自殺が、センセーショナルな自殺報道が、次の自殺を誘発することは、自殺研究上の常識です。大きな自殺報道をするときには、かならず自殺予防に関する情報も提供しましょう。
その有名芸能人の熱心なファンほど危険です。また、自殺された方と同じような悩みを抱えている人々が危険です。また、思春期、青年期の若者たちが危険です。彼らは、影響されやすいのです。そんな人が身近にいたら、どうか一声かけてください。あなたの家族に。あなたの生徒に。あなたの部下に。あなたの友人に。

自殺予防のために

自殺は不幸な偶然の積み重ねによって起きます。だから、どこかで誰かがブレーキをかけていたら、少なくともこの日の自殺は防げていたでしょう。何とが翌日の自殺も防げます。こうして、自殺を一日延ばしにしていければ、多くの場合、しだいに生きる意欲もわいてきます。
この人が明日自殺するとわかるわけではありません。でも、いつもとは違う行動をとったとき、「おかしいな」と思うことはできるでしょう。そんなときは、本人に一声かけましょう。特に自殺したいと言われたときは、逃げず、ごまかさず、しっかり話を聞きましょう。
そして、あなたが感じた違和感を、他の人にも伝えましょう。そうして、あなたも一人ではないと、みんなの力でわかってもらいましょう。下手な理屈ではなく、「あなたが死んだら私は悲しい」と伝えることが、自殺を思いとどまらせる力になるでしょう。



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リンク

日本臨床心理士会「自殺に関する報道についてのお願い」について

WHOによる自殺予防の手引きpdf

いのちの電話」 「自殺予防総合対策センター

東京自殺防止センター」  「NPO 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター

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