医療少年院とは
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太平洋放送「ライフ・ライン」97.8第2週放送分より
■8月 9日(土曜日)/10日(日曜日)
硬直していませんか、家族関係(ゲスト:神奈川医療少年院統括専門官 藤掛 明さん)
神奈川県医療少年院に勤める藤掛さんをスタジオに迎える。少年院に来る子どもたちの実態や家族関係について、藤掛さんご自身の体験を交えてお話を伺い、心の問題や家族について考えてみる。
PBA「ライフ・ライン」番組案内より
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ホームページの「お知らせ」でご案内しました太平洋放送協会(PBA)作成のテレビ番組「ライフ・ライン」の内容をまとめました。この番組は、各分野で活躍するクリスチャンを招き、番組パーソナリティーの榊原さんとの対談形式ですすめられます。
今回のゲストは医療少年院で面接や心理療法を担当し、現場スタッフの責任者をされている藤掛さんでした。藤掛さんは少年鑑別所にもお勤めだったそうです。この方のお話を中心にご紹介します。
神戸の少年Aの精神鑑定がどのようにすすめられているかは、全く分かりませんが、鑑定の結果によっては、医療少年院に入所することになります。
「少年鑑別所」とは、処分が決まる前の少年の診断をする施設です。
「少年院」とは、処分の一つとしての教育機関です。
「医療少年院」には、2つあります。一つは、医療的なケアをするものです。もう一つが、情緒的な問題を持つ少年や、能力的に劣る少年達に心理療法などを行うものです。
たしかに、鑑別所入所前のころなどは、かなり気持ちも荒れているようです。しかし、少年院入所のころになると、驚くほど素直にななります。
あるとき、問題を起こした少年が鑑別所に入ってきました。しばらくすると、その子は本当に素直になりました。学校の担任の先生がいらして、彼を見てとても驚きました。
「ここでは、どんなすごい指導をしているのですか。恐い人がびしびし脅しているのですか。」
「いいえ、そんなことはしていません。彼のもともとの素直さが出てきたのです。」
家族とは本当に不思議なもので、そして大きな役割を持っているものだと思います。
1、「家族の境界がはっきりしているか」
親と子の境がはっきりしていること。子供が親の相談相手などになってしまわずに、子供は子供として安心して成長できることが必要です。また、夫婦の結びつきがしっかりしていることが必要です。
2、「家族が遠心的か求心的か」
家族の結びつきが弱いか、強いか。どちらかと言えば、求心的な方が良いのですが、ケースによります。一概にどちらがよいとは言えません。
3、「家族がどのくらい硬直しているか」
問題が起こったときの対応の仕方がワンパターンかそれとも柔軟か。たとえば、叱り方のバリエーションの数などです。柔軟性のあることが必要です。
はじめのうちは、非行少年や家族を見て、単純に、悪いことをしてしまう判断力のない人達だと思っていました。しかし、しだいに、そうではなくてむしろ、貧困や不和など、家庭の問題を抱えて(やせ)がまんし続けてきた人達なのだと思うようになりました。
個人でも家族でも、「動きまわって問題を起こしてしまう人達」がいます。非行もそのひとつです。何かの問題が起こっても、弱みを出さず、背伸びして、強行突破しようとします。しかしそれが破綻して、息切れしてしまったとき、問題はさらにこじれます。
成熟した生き方の指標の一つは、弱音を吐けること、素直に問題を認めることです。
私自身、やせがまんして、背伸びしている部分があります。クリスチャンとしてそういう自分を認め、そう思って彼らに接すると、彼らのそういう部分も見えてきました。彼らのけなげさが見えてきました。
彼らは、弱音をはいたら生きていけなかったのです。弱音をはいても誰も助けてくれない環境で生きてきました。もしも自分の問題を認め、弱音をはいたら、自分の人生は壊れてしまうと思い込んできたのです。
今まで、弱音を出せないできた人達、家族の方々には、ぜひ、いろいろな人や相談機関に弱音をはきながら生きていく、そういう生き方もあるのだと、知ってほしいと思います。
榊原 寛 牧師
長年保護監察官をされていた方が語っていました。
「非行少年なんていない。みんな不幸少年だ。」
弱さを出せる場のあることが、生きる」活力を産むのではないでしょうか。「わたしの恵みは,あなたに十分である.というのは,
わたしの力は,弱さのうちに完全に現われるからである.」聖書 コリント人への第二の手紙 12章9節
この手紙の著者パウロは、ハンディキャップを持っていました。その障害さえなければ、もっと良い働きができるのにと考えていました。しかし神は、弱さを持ったままの、そのままで十分だと語ったというのです。弱さをありのままに認めることができたときに、神の力を感じることができました。
神の前に、人々が互いに自分の弱さ罪深さをありのままに打ち明けるとき、人に対しても素直になれます。これが生きる秘けつ、良い人間関係や家庭の秘けつです。
神の恵みは、十分にあなたにも注がれているはずです。
少年非行に関する考えは、このホームページでも紹介した非行の心理と基本的には同じだと思います。
良い家族について、心理学的には、一般的に次のように考えられています。
夫婦の結びつきが強いこと。子供のことをもちろん愛しているが、子供との適度な距離を保てること、そして、家族全体が一つの指向性を持っていること。(家族の問題に関しては、また別の機会に解説したいと思っています。)
ゲストの話を聞いて、少年達は、演技をして素直になったふりをしているだけかもしれないと考えた方もいるでしょう。しかし、同じような話は、いろいろなところで見聞きします。
ある、教護院に出入りしている方によると、最初は恐い目つきをしているこども達がじきに素直になり、訪問者にもあいさつをしてくると言うのです。
私自身は、児童相談所内の一時保護所に、何度も入ったことがありますが、とても悪いことをして入所してきた子達も、そこで見る限り、ごく普通の素直でかわいい子供達です。
私も担当職員の方に、一体どちらの側面がそのこの本当の姿なのかと、質問したことがあります。どちらもその子自身なのだろうと、その方は答えて下さいました。
一時保護所内では、だれも彼をバカにしたり、悪事に誘うような人はいません。悪い親もいません。一日三食、きちんと手作りの食事が出てきます。そのような環境では、彼らは、普通の子供達なのです。
(補足:児童相談所の一時保護所への入所は、子供自体に何の問題もないケースもありあります。たとえば両親が急に入院したために入所するケースなどです。)
ある児童相談所で、出会った子です。まだ、幼稚園児ですが、とても「良い子」です。人に気を使ったり、遠慮したりできます。しかし職員の方は、子供らしさが出せない、かわいそうな子だと言っていました。生まれたときから、親に見放され、親戚や施設を転々としてきた子供です。大人びた態度をとらなければ、生きていけなかったのです。
いわゆる恵まれない環境の子供だけではなく、「良い子」を演じ続けている人達がいます。この「良い子」の問題も別の機会に扱いましょう。
「ありのまま」というのは、心理学の一つのキーワードです。ありのままの自分を肯定的に受け入れることができたときに、心の問題は解決しはじめます。
一方で、自信を持つことは、常識的にも心理学的にも、重要です。しかし、その自信が本当の自信であるかどうかが問題です。
「俺のドライビングテクニックなら、時速200キロでも走れるさ」と言うのは、自信と言うよりは、過信でしょう。
「俺はその気になればいつだってすぐに簡単にタバコを止めることができるさ」などと強がっている人に限って、禁煙できません。
もちろん、ハンドルを握るとがたがた震えたり、弱気になって、自分は絶対に禁煙などできないと思い込んでいても、うまく行かないでしょう。自分の能力と限界を客観的に知った上で、自分の可能性を信じ、よりよい方向に行くための努力を開始しなくてはいけません。
自分の弱さを正しく知っている人こそ、強い人と言えるでしょう。
非行の問題に限らず、相談に来る人の中には、他人に相談すること自体に激しい敗北感を感じている人がいます。そんなとき、私は言います。
「人に援助を頼めるのは、弱さの表れではなくて、強さの表れです。」
(この強さと弱さの問題も、とても興味深い話題です。ぜひまた別の機会に取り上げたいと思います。)
(ライフラインのロゴと写真はPBAの許可を受け使用しています。)
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