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9年間の新潟女性監禁事件
少女は、なぜ逃げられなかったのか2

「学習性絶望感」(学習性無力感)


 

動けなくなったイヌ(動物の学習性無力感)

 人も動物も、希望を失って絶望すると、力を失ってしまいます。

 イヌをつかった動物実験です。イヌを縛りつけて電気ショックを与え続けます。どんなに努力しても、その苦しみから逃れることはできません。

 次に、そのイヌを別の部屋に連れていき、また電気ショックを与えます。ただし、今度は低い柵をジャンプして飛び越えれば電気ショックから逃げられます。

 普通のイヌをこの部屋に入れると、最初はドタバタとしますが、すぐに電気ショックから逃げる方法を学ぶことができます。

 ところが、最初に電気ショックを受け続けたイヌは、この部屋に入ってまた電気ショックを受けたときには、ドタバタすることさえしません。ただ、うずくまり、じっと電気ショックを耐え続けるのです。

 このイヌは、自分がどんなに努力しても苦しみから逃れられないと学んでしまったのです。絶望してしまい、無力感に陥ってしまったのです。逃げるための努力をすることもできません。このような状態を「学習性絶望感」とか、「学習性無力感」と言います。

 客観的には、いくらでも逃げることができるし、その力があるように思えるのですが、しかし、逃げることができません。低い柵があるだけなのですが、ジャンプすることができないのです。

 人間がジャンプさせようと思って後ろから押しても、動こうとはしません。力づくで無理やり引きずったり、抱きかかえるようにしないと動けなくなってしまったのです。


絶望する人々

 学習性絶望感は、やる気を奪い、新しいことを学ぶ力を奪い、情緒的な混乱を生みます。これは、イヌだけに見られることではなく、他の動物にも、ヒトにも見られることです。

 学習性絶望感に陥って、戦場や災害現場で長時間座り込んで動けなくなる人もいます。やる気を失ってうつ状態になる人もいます。過酷な捕虜収容所などでは、体力を失うだけではなく、完全に気力を失ってしまうこともあります。

 絶望のあまり、死んでしまうことすらあります。ベトナムの捕虜収容所で、こんなことがありました。その青年は、気力体力ともに充実し、捕虜の中でリーダーシップを発揮していました。収容所長が、6ヶ月後の開放を約束し、青年は自由になれると確信していたからです。

 しかし、約束の日が来ても、開放されることはありませんでした。彼はしだいにうつ状態になり、数週間後にはベッドにもぐりこみ、食事もとらなくなり、赤ん坊のようにトイレにも行けなくなってしまいました。仲間が励ましても、たたいても、彼は動きませんでした。

 そして彼は死にます。死んだときですら、他の仲間達よりもまだずっと体は丈夫そうに見えました。絶望が、彼を殺してしまったのです。

 9才の女の子が誘拐され、大人の男性から暴力を受け続け、その結果、学習性絶望感に陥ってしまったとしても、不思議はありません。逃げることができそうに見えても、逃げる気力を奪われてしまったのでしょう。


絶望に負けないために

 ところで、あのイヌの実験ですが、初めに電気ショックを受け続けたイヌがすべて学習性絶望感を持ってしまったわけではありません。同じ量の電気ショックを受けても、鼻先でボタンを押せば一定時間電気ショックがとまるという装置がついたイヌは、学習性絶望感に陥りませんでした。

 実験の結果わかったことは、電気ショックという苦しみの量自体が問題なのではなく、努力は無駄だと感じてしまう体験が問題だということです。

 人間は、イヌとは違い自分自身の体験を様々に解釈できます。同じ苦しみを受けても、努力すればきっと何とかなると信じることができれば、苦しみに負けません。それに対して、一回の失敗、一つの苦しみでも、自分はいつもどんなことでもダメな人間なのだと思い込んでしまうと、学習性絶望感に陥るでしょう。

 監禁されていた少女が、逃げることができなかった理由の一つとして学習性絶望感があったかもしれません。しかし、それでも彼女は9年間がんばり続け、精神の正常を保ち続けることができたのです。


学習性絶望感(学習性無力感)の治療

 心でも、体でも弱っているときは、まず休息が一番です。疲れるようなことをしてはいけません。本人が一番苦しんでいるのですがら、下手に励ますこともいけません。うつを和らげるクスリもあります。

 さらに、学習性絶望感の治療法として、つぎのような試みがあります。

 アメリカのある病院では、患者にわざと無理な命令をし続けます。患者が怒りだすまで続けます。そしてついに患者が怒りだすと、無理な命令をしていた人は自分の間違いを認め、謝るのです。

 こうして、努力して自分から働きかければ苦しみから逃げられることを学びなおすのです。自信が学習性絶望感を打ち消すのです。

 「自己主張訓練」という方法もあります。負け犬にならず、かといって食ってかかるようなこともせず、適切な自己主張ができるように練習し、実生活でも少しづつ試していく方法です。問題改善のために努力をしたり、必要があれば感情を表すことも学んでいきます。

 どのような方法でも、基本的には無理をしないことが大切です。少しずつ自分のできるところから始めます。そしてすっかり元気になれば、また以前のように、激しいプレッシャーの中で難しい仕事もこなし、実力を十二分に発揮できるようになるでしょう。


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