新潟青陵大(碓井真史) / 心理学総合案内こころの散歩道 /犯罪心理学/ 秋田小1男児殺害事件

犯罪心理学:心の闇と光

秋田小1男児殺害
(秋田連続児童殺害)事件の犯罪心理 3

卒業文集の寄せ書き「秋田には二度と帰ってくるな!」から
〜いじめはどんな理由があっても許されないという前提に立った上で〜

2006.6.22
(筆者はいじめを肯定しているのではないかと誤解に関連して一部加筆2006.10)

秋田小1男児殺害事件の犯罪心理 1
秋田小1男児殺害事件の犯罪心理 2
いじめの心理・スクールカウンセラーの体験から

秋田連続児童殺害事件の犯罪心理

卒業文集・寄せ書き

 容疑者女性の高校の卒業文集に載せられていた寄せ書きが、マスコミで紹介されています。クラスの一人一人に、他の級友達が言葉を送る形のようです。私も、マスコミからコピーを入手しました。テレビでは、個人の名前は消されていますが、もちろん実際は入っています。
 容疑者女性へ向けての言葉は、次のようなものでした。
 「元気で」「さようなら」「がんばれ」といった言葉が8人。

それ以外は、

「一生会わないでしょう」「目の前に来んな」「会ったら殺す」「秋田から永久追放」「秋田の土は二度と踏むんじゃねぞ」「戦争に早く行け」「二度と会うことはないだろう」「山奥で一生過ごすんだ」「いままでいじめられた分、強くなったべ。俺たちに感謝しなさい」

 その他の「アンケート結果」として、

「すぐに仕事を辞めてしまいそうな人」の女子の第一位

「墓場入りが早そうな人」の女子第一位です。

また、彼女が将来何で有名になるかという問いに対して、

「自殺、詐欺、強盗、全国指名手配、変人大賞、女優、殺人、野生化」と書かれています。

他の生徒に対しても、きついことが書かれてありまして、悪ふざけとも思えますが、彼女への言葉が一番冷たいものでした。
 たしかにひどい言葉です。私も一読して気分が悪くなるほどでした。

・・・・・・しかし。それでは言葉を書いた級友達が特別な悪人なのでしょうか。このクラスには、たまたま何十人もの悪人が集まって、しまったのでしょうか。
その悪人である彼らが、加害者女性を心理的に追い詰めたのだと責めることができるでしょうか。
私は、そう簡単にはできません。今現在から見れば、たしかにひどい言葉です。また私が、もしも当時教職員としてその文集の原稿を見ていたとしても、きっと注意していたことでしょう。
しかしながら、現在の彼女を見ると人格障害的な部分を感じるのですが、おそらく高校生のときからそのような言動が見られたのではないかと推察できます。
この文集の言葉だけを見ると、ずいぶん冷たいひどい言葉だと感じます。ただ同時に、おそらく級友達もずいぶん傷ついてきたのではないかとも感じます。。彼女は大変なトラブルメイカーだったのではないでしょうか。(だからといってこんな言葉を文集に残してよいわけではありませんが。)
 彼女が「反社会性人格障害」や「演技性人格障害」の傾向をもっていたとすると、平気でルールを破り、責任を果たさず、他者を傷つけ、同時に自分に危害が及ぶことにも無頓着で、そして芝居じみた大げさなウソをとても上手くついていたが想像できます。

 仕事をすぐに辞めそう、自殺しそう、詐欺師、女優、といった文集に載っている言葉は、当時の彼女の様子をあらわしているようにも思えます。
彼女は、嫌われて、このような悪口を言われてもいたしかたない面があったのかもしれません。(悪口を言っても良いという意味ではなく、なぜこんな悪口を書かれたのだろうかということに関する考察です。)
***
(いじめを肯定しているのではありません。いじめられる側にも問題があるなどと言っているのではありません。問題があればいじめても良いなどといっているのではありません。
もし私が容疑者女性が高校生の時に、彼女から「私はいじめられている。文集にもこんなことを書かれた」と言ってきたら、全面的に彼女の側に立ったことでしょう。)

いじめられても当然か。

 それでは、この容疑者女性がいじめらても当然なのかといえば、もちろんそんなことはありあません。
誰に対して、どんな理由であれ、「いじめ」はゆるされません。

この文集に関しては、ネット上では大きく2つの意見が飛び交っているように思えます。
1 悪口を言っている側に同じように立って、彼女をののしる意見。

もちろん、恐ろしい犯罪を犯したのですから、責められるのは当然ですし、私も安易に弁護する気はありません。

しかしだからといって、当時の高校生と同じように、大勢で汚い言葉を投げつけても良いのでしょうか。
 2 もう一つの意見が、この文集を書いたかつての級友達を激しく責めたて、口汚くののしり、学校を非難する意見です。もちろん私もこの寄せ書きが良いものなどとは思えません。
しかし、乱暴に彼らを責め立て、学校に嫌がらせの電話をかけるような言動は、主観的には正義感に基づくものだとは言え、彼女に対してみんなで悪口を言っていた生徒たちと、基本的には同じ心理を感じるといってしまうのは、言いすぎでしょうか。
(いじめに関する調査によれば、いじめっ子の多くは自分は正しいことをしていると感じています。いじめられっ子に対して、きたないから、ルールを破るから、などの理由をつけて、自分達は正当な制裁をしていると感じているのです。)
 それでは、あなたなら、とんでもない問題行動を次々と起こしていた彼女の友人となり、心無い級友達から守り、悪口だらけの寄せ書きのなかに、暖かで親切な言葉を書けたのでしょうか。
(繰り返しますが、いじめを肯定しているのではありません。教育現場においては、いじめ被害者を守り、いじめ加害者を必要に応じて、叱責したり、説教したり、教育していく必要があります。しかし、いじめ問題が発生したときに、大人としていじめっ子側をしかりつけておしまいにしてはいけないのではないでしょうか。
いじめを受ける子にも原因があるなどと言いたいのではありません。しかし、いじめっ子を叱責することも必要です。しかし、いじめっ子だけを責め、しかりつけるのではなく、同時に大人としてはなぜいじめが発生したのかを冷静に判断し、総合的な観点からいじめ予防のための対策を練らなくてはならないと思います。

 いじめ発生のメカニズムを考え、言及することは、決してそのいじめを認めることと同じ意味ではありません。)
(彼女が仮にどんなひどいことをしたからといって、文集にあんなことを書いてはいけないといいつつ(その主張は正しいと私も思いますが)、その一方で、文集にひどいことを書いた人々をどんなにののしってもかまわないとネット上で主張している人々には、私は矛盾を感じます。)


これからの教育現場で

 様々な人格的なゆがみや、ある種の軽度発達障害などを抱えた人々が、イジメっ子になったり、イジメられっ子になったりすることがあります(軽度発達障害に関する文献にはそれらの注意がのています)。そのためにさらに問題が悪化し、二次的障害をもつこともあります。
(「二次的障害」とは、いじめたり、いじめられることによって、もともとは問題を持っていなかった部分にまで、上手くいかない部分がでてくることです。たとえば、自信を失ったり、人間関係が悪化するなどです。)
誰かを責めるだけではなく、このような特別な課題を抱えた人々にどう対応していくのかを考えることが大切ではないでしょうか。
(いじめられっ子に、お前にも問題がるとか、お前が強くなれというのではありません。)

 小学校からイジメられてきた畠山容疑者は、内向的で、そしてウソつきになっていったようです。さらに高校で窃盗事件のために処罰を受けた彼女は、攻撃的で乱暴になっていきます。人格障害を持つ人々は、本当は安定した人間関係を求めていますが、あまりにも不器用で上手くいきません。

 悪いことは悪いときちんと教え、その結果社会を恨むのではなく心から反省し、それでも自分が先生や友人から見捨てられてはいないとわかってもらう必要があります。

たいていの人格障害者は、中年になる頃には性格がまるくなり、何とか社会生活がおくれるものです。中には才能を発揮する人もいるのですから。
人格的なゆがみを持っていても、本人の努力や周囲の理解と援助によって、立ち直っていく人々はたくさんいます。
しかし、
いったん人格的なゆがみを持ってしまうと、そのためにいじめっ子になることもあります。そのうちに強く反発されて逆にいじめられっ子になる人もいるでしょう。そのためにさらに人間関係に大きな問題を抱えることになります。
人格的なゆがみがでてしまったために、最初からいじめられっ子になってしまう人もいます。もちろん、言うまでもなくいじめる側が悪いのですが、いじめられることで、さらに自信を失ったり、人間不信を募らせたりすることで、さらに人間関係に悩むことになっていきます。
「いじめはいけない」「いじめられっ子は悪くない」「悪いのはいじめっ子」。そのとおりです。そのとおりなのですが、その前提に立った上で、でも、いじめっ子を叱り付けるだけ(あるいはかつてのいじめっ子を責め立てるだけ)では、問題は解決しないのではないでしょうか。
いじめの問題は、私達みんなの問題として考えなくてはなりませんし、また人格的なゆがみのために本人や周囲が困っている、そしていじめ問題が発生しているとしたら、その問題をどのように解決していくのかを、みんなで考えてきましょう。
*今回の報道を通して、子供時代に辛いいじめ体験をされてきた人の中には気持ちが不安定になった人もいるようです。どうか、その方々の心が癒されますように。

今後

 昨日は現場検証が行われましたが、犯行動機はいまだに不明です。実の娘の水死に関しても、謎は深まるばかりです。
心理学者、精神科医のコメントの中には、人格障害の問題に加えて、「解離性障害」や「代理ミュンヒハウゼン症候群」といった言葉も聞かれるようになってきました。
新しい情報が入れば、またページを更新していきます。
補足:逮捕起訴後の簡易精神鑑定の結果、被告は、強い欲求不満、反社会的で著しく偏った人格傾向などがみられたが、幻覚などはなく責任能力はあると結論づけられました。2006.08
秋田連続児童殺害事件の犯罪心理
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『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』主婦の友社
『なぜ、少年は犯罪に走ったのか』(KKベストセラーズ)
『少女はなぜ逃げなかったか:続出する特異犯罪の心理学
(小学館文庫)

誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理 ベスト新書2008
人間関係が上手くいく嘘の正しい使い方ホンネとタテマエを自在に操る心理法則大和書店2008

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