奈良医師宅放火殺人事件、教育熱心な父親が招いた悲劇
新潟青陵大(碓井真史) / 心理学総合案内こころの散歩道 /犯罪心理学/少年犯罪の心理/ 奈良医師宅家族3人放火殺人事件
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奈良県田原本町の医師(47)宅で火災発生。同じく医師の母親(38)と小学2年の弟(7)、保育園児の妹(5)が死亡し、この家の高校1年生の長男(16)が殺人、現住建造物放火容疑で逮捕された(2006.6.22)。長男は「死んでもいいと思っていた」と殺意を認めているが、「弟と妹には恨みはなかった」と供述している。
補足 6/30の報道によると、「火はつけたが、母親や妹、弟が死ぬとは思わなかった」と殺意を否定する供述していることがわかった。
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『僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実』(アマゾン)
容疑者の少年は、小学校時代から成績優秀、スポーツも得意、性格も明るい人気者でした。小学校の卒業文集では、医師である父親にあこがれ、自分も大きくなったら医者になりたいと語っています。
小学校卒業後、関西でも有数の進学校である奈良市の中高一貫の進学校に入学しました。しかし入学後は、学校内では中程度の成績にとどまり、教育熱心な父親からたびたびしかられていたといいます。少年は次第に口数が減り、友人らに「父がうるさい」と不満を漏らしたこともあったといいます。
父親は夜遅くまで「集中勉強室」で少年の勉強を指導しており、時に体罰を与えることもあったそうです。今月行われた中間試験でも英語の成績が下がりました。校長の話によれば気にするほどの低下ではないということでしたが。少年はテストは良くできたと父親にウソをついていました。犯行の翌日は保護者会が予定されており、保護者会に母親が参加すればウソがばれると考えたようです。
少年は、「成績が下がると父親はすぐ殴ってくる」「父親の暴力が許せなかった」と語っています。警察の調べによれば、少年は両親と同じ医師になることを過度に期待され、プレッシャーを感じ、家庭内で孤立感を強めた結果、異常な破壊衝動に至ったと考えられています。
少年はこれまでにも父親に殺意を抱いたことがあるといい、6月中旬には父親の部屋の前まで行ったこともあるといいます。今回の犯行に関しては、「何もかもが自縄自縛(の状態)になり、嫌になった」「全てを無くしてしまいたい」「リセットしたかった」と語っているといいます。勉強のこと以外にも、父親に対してはクラブ活動の剣道や学校のことなどさまざまな問題で不満を募らせていたようです。
逮捕後の少年は落ち着いた様子で取り調べを受け、大好きな『ハリーポッター』の本などを読んでいると言うことです。父親は憔悴しきった様子で、6月24の報道によれば、捜査員に長男と面会するか聞かれ「もうちょっと、落ち着いてからにします」と答えています。
近所の評判によれば、家族仲は良く、少年も行儀の良い好青年と見られていました。
ワルの子どもであれば、親のすねをかじることを考えるでしょう。そしてたいていの犯罪はいわゆる恵まれない環境で多く起きます。しかし親殺しはむしろ中流以上の家庭で起きます。犯人はしばしば「良い子」達です。
良い家庭、立派な家庭で、親がよかれと思って努力している教育やしつけが、子どもから見れば束縛となってしまったとき、幼い頃は従順に従っていても、思春期になれば子どもの心は爆発します。
普通は、親とケンカしたり、グレたりして、親に反発をしますが、そのようなことができる柔軟性を持っていないことがあります。また、その程度のことでは親から自由になれないと思ってしまうことがあります。親に飲み込まれるような不安を、少年達は感じます。もう最後の手段として親を殺すしか自由になれないと思ってしまうことがあるのです。
今回の事件での父親への殺意は、厳しく体罰もふるう父親への「暴君殺し」という側面もあったでしょう。父親に殺意をもつ子どもたちは、父親から軽蔑されていると思いこんでいます。
今回父親がいない時に犯行に及んだのは、父親があまりにも巨大で父親がいたのでは犯行が実行できないと考えたのかもしれませんし、あるいは、成績を隠すことだけしか考えられなくなった結果の犯罪なのかもしれません。
精神科医の野田教授は、母ら3人を殺すことが主目的ではなく、「強い父を直接攻撃できないため、家や再婚相手など父に属するものを消すことを目的に火を付けた可能性がある」と毎日新聞紙上で分析しています。
(補足 6/30の報道によると、「火はつけたが、母親や妹、弟が死ぬとは思わなかった」と殺意を否定する供述していることがわかりました。)
体罰の心理学:限界と副作用(危険性)
人はウソをついてしまうのものです。ウソがばれてしまったなら、正直に謝るしかありません。しかし、悪いことをして謝ることができるのは、謝ればゆるしてもらえると思えるからです。
ワシントンがお父さんの桜の木を切ってしまったと正直に言えたのは、すごく怒られるとは思っても父親に捨てられることはないと思えたからでしょう。もしも、このウソがばれらたもうおしまいだと思ってしまうほどに精神的に追いつめられていれば、どんな手を使ってでもごまかすしかありません。
悪いことになれている人は、悪いことをごまかすことにもなれていますが、優等生はそんなことができません。小さなミスから、とんでもない大事が生まれてしまうことがあります。ごまかすことも謝ることもできないのですから。
何かが上手くいかない時、80点でも50点でも良いと思えればよいのですが、100点でなければテストを受けない、100点でなければ0点と同じだと思ってしまうと、物事を少しずつ改善していくことができなくなってしまいます。
ずっと我慢してきた優等生が、でも努力の成果が報われなくなり、息切れを起こし、すべてを投げ出したくなった時、さらに悪いことが起きた。そんなとき、リセットの心理、一発大逆転の心理となり、とんでもない大事をしでかしてしまうことがあるのです。
→さらに詳しくは
『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
放火は、力が弱くてもできますし、経済力がなくても、特別な知識がなくてもできてしまいます。刃物を使った殺人のように、被害者と直接対面するわけでもありません。そういう意味では、放火は敷居の低い犯罪であり、弱者の犯罪ということもできるでしょう。
放火の動機は様々で、盗みや殺人などの犯行を隠す証拠隠滅目的や、恨み、復讐、保険金詐欺、自殺などいろいろなケースがあります。明確な目的がなく、「ムシャクシャしていてつい」と犯人が語っている場合もあります。今回の事件でも、少年は普段からムシャクシャしていたと言っているようです。
容疑者の少年は『ハリーポッター』の大ファンです。登場人物の中では特に「ロン」が好きだそうです。
この物語は、魔法使いの少年が全寮制のきびしい魔法学校に入り、魔法の修行に励み、困難を乗り越えながら友情を育み成長していく物語です。
主人公は、ハリーポッター。悪い魔法使いに両親を殺され、いじわるな叔父夫婦のもとで育ちますが、特別な能力を持つかっこいい少年です。物語の中には、名門の家の少年、裕福な家の少年も登場します。
ロンは、ハリーの親友。ちょっとさえない少年です。家も決して名門ではなく、経済的にも豊かではありません。魔法も上手ではありません。でも、とてもいいやつです。ハリーを助け、彼なりの方法で、活躍をしています。そして、物語に出てくるたくさんの少年達の家族の中で、ロンの家族は一番心温まる家族であると、私は感じます。
名門の学校に入り、成績は良くないけれども友人に恵まれ、彼なりの能力を発揮し、それがきちんと認められ、そして何よりも、彼を愛で包むやさしい家族がいる。今回の容疑少年も、ロンのような人生にあこがれていたのかもしれません。
殺人犯を簡単に弁護することはできませんけれども、少年事件はいつも悲しいものです。この少年も本来は悪人ではありません。父親だって子どもが憎くて叱っていたのではないでしょう。
子どもに教育や訓練をすることは悪いことではありません。良いことです。しかし、そのときに忘れてはいけないことが、「たとえそうでなくても」という思いではないでしょうか。
がんばって医者になれ!、でもたとえそうでなくても、君にはいろんな道があるし、たとえそうでなくても、父さん母さんの愛は微塵も下がることはないと、子どもに伝えること、これこそ親の一番の役割だと思うのです。
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ホームページから生まれたウェブマスターによる本
『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
秋葉原の青年も、奈良の青年も優等生だった。
子どもに期待し、教育しながらも、子どもから愛される処方箋
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ウェブマスタのコメントが毎日新聞で紹介されました。
<奈良高1放火殺人>事件の真相は 専門家が分析
BOOKS
『僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実
』
奈良医師家族放火殺人事件に関するルポ
『放火の犯罪心理 』
『生きてみたい、もう一度―新宿バス放火事件 (新風舎文庫) (新風舎文庫)』
『図解 犯罪心理分析マニュアル―通り魔・放火犯から大量殺人・連続殺人犯まで』
『放火犯が笑ってる―放火の手口と消防・警察の終わりなき戦い (イカロスMOOK)』
2008年9月緊急発行 『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』 |
2008年8月発行 『人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則 』 |
2000年 『なぜ少年は犯罪に走ったのか』 |
2001年 『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』 |
2000年 『なぜ少女は逃げなかったのか:続出する特異事件の心理学』 |
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