放火と火災の犯罪心理学、災害心理学。生き残るために。
新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/大阪難波の個室ビデオ店(雑居ビル)放火殺人事件の犯罪心理学
犯罪心理学:心の闇と光大阪・難波の個室ビデオ店放火事件の
2008.10.1〜10.11、10.14(加筆) |
2008年10月1日未明、大阪の雑居ビル内個室ビデオ店で火災発生。宿泊中の15人が一酸化炭素中毒で死亡、10人が重軽傷を負った。(10.14入院中だった方一名が亡くなり、死亡者は16名、重軽傷者9名となった)
同日、この店内に客としていた無職の男性(46)が、殺人と殺人未遂、現住建造物等放火の疑いで逮捕された。
男性は容疑を認め、「火をつけたら死者が出ることも分かっていた」と供述している。
(一部報道関係者によると、「生活に疲れた」「人が死んでもいいと思った」といった供述もしているという。無差別放火殺人とも考えられる。ただしその後、容疑者男性は殺意を否認している。))
また、無差別殺人が起きてしまったようです。自由で豊かな社会の中で、自分だけが思い通りに行かないと思い込むと、実際以上に自分を惨めに思い、その思いが反転すると、悪いのは社会だと感じるようになります。秋葉原の事件や、アメリカの銃乱射事件のような犯人は、「天誅」といった意識で暴力を振りますが、放火の場合はさらに弱者の犯罪という感じがします。
容疑者男性(その後の報道から)
報道によると、容疑者の男性はかつては大手家電メーカーのサラリーマン。結婚し、長女が生まれ、自宅も購入していました。しかし、ギャンブルなどで借金をつくり、離婚。職も失い、自宅も手放しました。仲のよかった母親も亡くなり(一部報道によれば、溺愛されていたという)、生きていく意欲をなくしていったようででし。
一人暮らしをしていたアパートでは、奇行が目立ち、周囲の住民も心配していたといいます。
警察での供述によれば、「母を亡くした喪失感」を語り、「惨めな生活に嫌気がさし、死のうと思った」と語っています。
放火は、力が弱くてもできますし、経済力がなくても、特別な知識がなくてもできてしまいます。刃物を使った殺人のように、被害者と直接対面するわけでもありません。そういう意味では、放火は敷居の低い犯罪であり、弱者の犯罪ということもできるでしょう。
放火の動機は様々で、盗みや殺人などの犯行を隠す証拠隠滅目的や、恨み、復讐、保険金詐欺、自殺などいろいろなケースがあります。明確な目的がなく、「ムシャクシャしていてつい」と犯人が語っている場合もあります。
今回の事件から思い出されるののは、無職の男性による新宿バス放火殺人事件ですね。)
BOOK『生きてみたい、もう一度―新宿バス放火事件 (新風舎文庫) 』
今回の事件は、自分の人生を大切にしようとは思えなくなってしまった人の、一種の「拡大自殺」といえるかもしれません。
***
放火の心理2(当サイト内の「新宿歌舞伎町ビル火災から考える災害心理学」より
火災の原因の第一位は、放火です。火災全体の4件に1件が放火によるものです。動機は様々で、〜中略〜近年は、不景気の影響で、会社への不満やリストラされての不満などをあげる犯人もいます。
放火を繰り返す人の中には、「放火症」ともいえる広い意味での心の病の人もいます。普段は普通に生活しているのですが、放火のスリルや、家が燃えている様子、その後の騒ぎなどを快感と感じてしまう人々です。たの犯行目的を述べる人の中にも、火を見るとすっきりするといった感覚を持っている人たちがいます。
放火犯罪は、力が弱くてもできますし、経済力がなくても、特別な知識がなくてもできてしまいます。刃物を使った殺人のように、被害者と直接対面するわけでもありません。そういう意味では、放火は敷居の低い犯罪かもしれません。軽い気持ちで、遊び半分に放火する人もいます。しかし、実際には放火は殺人に並ぶ大罪です(注1)。大きな被害がでる可能性も大きいのです。
(注1)刑法上、殺人は、「死刑又は無期若しくは三年以上の懲役」です。人が住んでいる(使っている)建物への放火は、「死刑又は無期若しくは五年以上の懲役」と定められています。
・物理的な問題
たとえば、非常口が閉まっていた。人数に比べて出口が小さすぎた、救命ボートの数が少なかったなど、物理的な問題があります。
・心の問題:パニック
群集全体がパニックに陥り、出口に殺到した結果、犠牲者がかえって増えてしまう場合があります。雑居ビル火災などで、出口のところに折り重なった複数の遺体が発見される場合などがあります。
また、個人の思考がパニック状態に陥り、あわてふためいて正しい避難行動が取れない場合があります。落ち着いて説明が読めず、避難器具を正しく使えなかったために犠牲者が出ることもあります。ただ、人というものはそういうもので、複雑な操作が必要な避難器具は役に立たないことも多いでしょう。「地震の時は机の下に隠れろ」といったシンプルで効果的な行動訓練が必要です。避難器具や消火器も、使用する練習が必要ですね。
1緊迫した状況で危険が目前に迫っていると多くの人々が感じている。
2危険から脱出する方法があると、みんなが思っている。
3脱出する方法はあるが、自分が脱出できる保障はないとみんなが思い、強い不安を持っている。
4人びとの中で、相談や協力ができるような普通のコミュニケーションがとれなくなっている。
このような状況で、みんなが早い者勝ちに出口や救命ボートに向かってしまうと、パニックが発生します。
事前に十分な脱出手段を用意しておく。
不安を高めすぎない。
パニックのきっかけを防ぐ。(突然走り出すような人を止める)
リーダーを作り、統制の取れた避難行動を行なう。(従業員の訓練なども大切)
今回の火災では、避難パニックが起きたわけではなく、多くの人々が個室内でなくなられています。
火災に気づかれないまま、有毒ガスで亡くなった方も多いようです。
災害時にいつもパニックが起きて、逃げ惑う群集が現れるわけではありません。むしろ、逃げ遅れる、逃げようとしないことによって被害が増えることもあります。
なぜ、逃げ遅れるのか:正常性バイアスの心理
・異常発生に気づくのが遅れる。
・異常発生に気づいても、切迫した危険な状況だという判断が遅れる。
・逃げるのに、コストが大きい(逃げるのが大変)。
火事が起きているのに気づかない時もあります。夜、就寝中であれば、特に気づくのが遅くなるでしょう。また、何かの作業に集中していて気づくのが遅くなることもあります。高齢者は、若者よりも、一般に気づくのがおそくなります。
何かが起きているとは思っても、急いで逃げた方が良いと思えない時もあります。火災報知機のベルがなっても、多くの人はすぐに逃げないのではないでしょうか。誤報だとおもわないでしょうか。洪水警報が出ても、何もしない人は少なくありません。
私たちの心には、「正常性バイアス」と呼ばれるメカニズムがあります。大変なことはめったに起きず、世の中は正常に動いているという思い込みです。非常ベルが鳴っても、たぶん間違いやいたずらだろう、警報が出ても我が家はきっと大丈夫だろうと思ってしまいます。
みんなが落ち着いていれば、パニックにはねりませんけれども、多くの人々が逃げ遅れて大きな被害が出てしまうこともあります。
韓国で2003年に発生した地下鉄放火火災では、198人もの犠牲者が出ましたが、煙が広がっているのに逃げようとしたかった人々が大勢いたといわれています。パニックも起きず、恐怖に足がすくんだのでもなく、逃げるまでもないだろうという「正常化バイアス」のせいで、多くの方々が犠牲になってしまいました。
今回の火災では、火災報知機のベルではなく、外から聞こえた尋常ではない叫び声で緊急事態だと判断して逃げることができた人もいました。
・パニックを防ぐ。
・正常化バイアスを防ぐ。適度な不安、すばやい行動が必要です。
・日ごろの訓練。
あわてないこと、しかし落ち着きすぎないことが必要です。
そのための、一つの効果的な方法が、「人のことも考える」です。人のことも考えれば、パニックは置きにくくなります。人のことも考えれば、たとえば子どもを守らなければと思えば、たぶん大丈夫だろう(正常性バイアス)と思っても、用心して念のために逃げようとも思えます。家族を守らなければと思えると、勇気を持って怖いと思えるような場所も通り抜けて脱出できます。自分を守り、家族や仲間をまもり、みんなで脱出して生き残るんだという強くて冷静な意志が、災害と戦う力となるのです。
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『僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実』
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『放火の犯罪心理 』
『都市型放火犯罪―放火犯罪心理分析入門 』
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