新潟青陵大学大学院(碓井真史) / 心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/犯罪心理学/千葉団地殺人、次女連れ去り
毎日新聞、テレビ朝日で紹介されました |
千葉団地殺人、次女連れ去り事件の犯罪心理学逃げなかったのではなく逃げられなかった2009.7.24 出会い系サイト・ストーカー・女性被害者 |
2009年7月4日、出会い系サイトで知り合い以前交際していた男性(28)にストーカー行為をされていた次女(22)が、この日男性に連れさられる。その後警察が次女を保護し、男性は二度とかかわらないと念書を書く。
7月17日女性の母親が千葉の団地内で遺体で発見される。警察は殺人事件と判断し、男性を指名手配。容疑者男性は、次女を連れ去り逃亡。7月23日那覇市で逮捕され、次女も保護された。
男性は容疑を否定。次女は「怖かった」「「自分が逃げると家族に危害が及ぶかもしれないと思った」と語っている。(7.24)
かつては、インターネット上で男女が知り合うことは、いかがわしい雰囲気があったことだろう。しかし、現在ではネット上で男女が知り合い交際することは珍しいことではない。ネット上の結婚相談所も大きなものがいくつもある。出会い系サイト規制法も成立した。
しかし、それでもなお、出会い系サイトの事件は少なくなく、若い女性被害者は後を絶たない。
警察の統計によれば、昨年2008年に発生した出会い系サイトに関連した犯罪は1592件にのぼっている。
インターネットは便利で有用なものだが、被害の実態と、愛や憎悪が燃え上がりやすいインターネットトコミュニケーションの特徴を知る必要があるだろう。
『 ストーカーの心理学(新版) (PHP新書) 』(福島章著)によれば、ストーカーは現代社会の一つの象徴である。ストーカー犯罪は、人間関係能力が低くなった現代人が、都市と言う匿名性の高い環境の中で起こす犯罪だと言えるだろう。
本来は様々な努力をして少しずつ人間関係を作っていかなければならならないのに、ストーカー加害者は一方的な感情を押し付け、自分の思い通りに人間関係を変えようとするのである。
著者によれば、ストーカーは、次のように分類できる。イノセントタイプ、挫折愛タイプ、破婚タイプ、スター・ストーカー、エグゼクティブ・ストーカーの5分類である。
イノセントタイプは、相手から見れば見ず知らずの人間にストーカー行為をされるタイプである。今回は、一度は交際してことがある「挫折愛タイプ」のストーカー行為だった。(挫折愛の場合も被害者に責任があるわけではない)。挫折愛タイプのストーカーは、愛の終わりを受け入れられない人間たちである。
現在容疑者は、容疑を否定し、動機も語っていない。
真犯人がこの男性だとするならば、母親は自分たちの愛邪魔する存在だと感じてしまったのだろうか。
連れ去られた次女は、客観的に見れば逃げるチャンスはあっただろう。今回、すでに複数のマスコミの方や知人から、この質問を受けている。「被害者女性はなぜ逃げなかったのか」と。
客観的に逃げられたはずだということと、実際に逃げられることは別である。被害者女性は、逃げなかったのではなく、逃げられなかったのである。
母親が殺され、自分も無理やり連れ去られている状況は、どれほどすすさまじい恐怖と不安に満ちたものだったろうか。このような恐怖と不安状況では、人間は体が鎖でつながれなくても、心が鎖に繋がれる。逃げることなどできなくなるのだ。
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この男性は、今目的のためならどんなことでもすることを、女性は知っている。もし指示に従わなければ、恐ろしいことが起きると、強い恐怖感をもっても当然だろう。
彼女は逃げる力を奪われえていたのかもしれない。しかし、これは女性の弱さを表すことではなく、このように異常な環境下では、多くの人がそうなることだろう。
あるいは、彼女は逃げ出すチャンスを待って、指示に従っていたのかもしれない。いずれにせよ、彼女の行為は、命を守るための必死の行為だったと言えるだろう。
地元新潟で、かつて女性長期監禁事件が起きたことがある。当時小学生だった女性が誘拐監禁され、18歳になる9年2か月15日にわたる監禁がなされた事件である。
この時も、女性はなぜ逃げなかったのかという疑問が出された。被害者女性は、逃げられなかったのである。事件が明るみになり、助け出される時でさえ、被害者女性は部屋から出ることを躊躇したという。それほどまでに、心が縛られていたのである。(しかし、彼女は勇気と希望を失わず、耐え続けて、ついに脱出したのである)
誘拐された子どもが騒いだために殺されたケースもある。救出は努力し続けた家族と関係者の力、そして被害者女子自身の勇気の結果だと言えるだろう。
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女子高生コンクリート詰め殺人事件では、誘拐された女性が40日にわたって監禁されている。その途中では、加害者の母親と一緒に食事もしている。客観的にみれば、このとき母親に事実を告げていれば、命は助かっただろう。
しかし、被害者女性は加害者少年らに激しい暴力を受け、そしてもし逃げたりしたら家族も同じ目にあわせてやると脅されていたのである。(今回の事件でも、「自分が逃げると家族に危害が及ぶかもしれないと思った」と連れ去られた女性は語っている。)
犯人の母親は、女子高生と会話もしているのだが、誘拐されてきたとはわからなかったという。今回の事件でも、被害者と容疑男性をみても、連れ去られたとはわからなかったというが、それはそれほど不思議なことではない。被害者女性は、必死になって耐えているのである。
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東京で発生した、いわゆる監禁王子事件では、のちに救出された女性が語っているが、命だけは助かりたいと思った時、奴隷でもペットでもいいから命を助けてほしいと思ってしまったと語っている。究極状況では、人はきわめて従順になってでも、命を守ろうと努力し続けるのである。
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さらに、監禁された場所が警察に取り囲まれるような状況では、犯人と被害者はある種運命共同体の意識を持ってしまうことがある。これをストックホルム症候群と呼んでいるが、極限状態の中、悪い犯人なのだが、水や食べ物をくれることに異常な感謝の念を持って犯人に好意さえ待つことがある。このようなことさえ起きるほどに、監禁状況は異常なストレス状況なのである。
監禁の心理についてさらに読む
→「監禁被害者の心理:なぜ逃げられないのか、なぜ傷つくのか」
新潟女性監禁事件に関連して、裁判を傍聴し、ホームページをアップし、監禁事件に関連した本の原稿を書いていたころ、一人の女性からメールをもらった。その女性も、子ども時代被害を受けていた。
犯人の男性に言われるままについていき性的被害を受けた少女は、クラスの中で起立させられ、「知らない人について行ってはいけません」と注意されたそうである。
彼女は激しく傷ついた。誰が好き好んでついていくものか、でも男性に命令されたとき、恐怖におびえ、まるで蛇ににらまれたカエルのように、命令に従ってしまったのである。
新潟女性監禁事件が報道され、「なぜ逃げなかった」と責めるようなコメントが出るたびに、彼女は「ああ、また被害を受けた側の人間が傷つかなくてならない」と感じたという。
被害者は、逃げなかったのではなく、逃げられなかったのである。
*さらに新しい報道があれば、ページをアップしていきます。
犯罪心理学:心の闇と光
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『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』(アマゾン)
秋葉原通り魔事件、八王子通り魔事件などから、現代青年の心理に迫る。本書の詳細(目次)
「嘘の上手な使い方」がテレビ朝日『大人のソナタ」で紹介されました。
毎日新聞2009.6.7朝刊1面コラム欄で紹介されました。
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2008年8月発行 『人間関係が上手くいく嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』 |
2000年 『なぜ少年は犯罪に走ったのか』 |
2001年 『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』 |
2000年 『なぜ少女は逃げなかったのか:続出する特異事件の心理学』 |
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・ 『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」 ・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等) |
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