新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/自白と冤罪の心理学




犯罪心理学:心の闇と光

自白と冤罪の心理学

冤罪(えん罪)を防ぐために、足利事件から考える

2009.6.5(6.8補足)


自白と冤罪の心理学:人はなぜ嘘の自白をするのか

足利事件のあらましと冤罪(えん罪)・・・自白

1990年栃木県で当時4歳の女子が誘拐され、遺体で発見されました。容疑者として逮捕された菅谷さんは、DNA鑑定の結果と自白によって有罪が確定し、無期懲役となりました。
しかし、菅谷さんは裁判の途中から無罪を主張していました。そして2006年、最新のDNA鑑定によりDNAの不一致が明らかにされ、再審を待たずに菅谷さんは釈放されました。
このページ(心理学総合案内 こころの散歩道 /犯罪心理学:心の闇と光))では、DNA鑑定に関しては別のサイトに任せるとして、自白の問題を取り上げます。
なぜ、人はやってもいない犯行を自白してしまうのでしょうか。

自白の心理学

「自白」も、心理学のテーマの一つです。逮捕された被疑者が取り調べ中に無実の罪を自白してしまうことがあるのは、珍しいことではないことが多くの研究から示されています。
ここでは、
自白の心理学 (岩波新書)
自白が無実を証明する―袴田事件、その自白の心理学的供述分析 (法と心理学会叢書)
嘘をつく記憶―目撃・自白・証言のメカニズム (講談社選書メチエ)
などの本を参考にしながら、自白と冤罪(えん罪)の問題について考えていきましょう。

拷問されると自白するか

拷問されれば、真犯人も自白するかもしれません。真犯人でなくても、嘘(ウソ)の自白をしてしまうかもしれません。
ただし、現代の日本の警察では拷問は禁止されています。足利事件でも、拷問はなかったと警察は主張しています。
たしかに、戦前の警察や、江戸時代に行われていたような拷問はなかったでしょう。しかし、菅谷さんは乱暴な扱いをされたと述べています。
そして、逮捕され、拘禁され、連日の長時間に及ぶ取り調べを受けること自体が、私たち現代人にとっては拷問のような苦しみになるのです。
報道によれば、菅谷さんの気持ちが折れて偽りの自白をしてしまったのは、取り調べが始まって約13時間たった午後9時 だったということです。

逮捕、拘束のストレスと嘘の自白

身に覚えのないことでの突然の逮捕、普段の生活とはかけ離れた個人として尊重されない留置所での生活。これは、すさまじいストレスです。このような極度のストレスは、人間の心と体をぼろぼろにします。
心理学の有名な研究で、ジンバルドー が行った「囚人実験」と呼ばれる実験があります。
この実験では、実験に協力してくれることになった心身ともに健康な市民を囚人のように扱い模擬監獄に押し込めるという実験です。
実験の協力者は、これが実験であり、自分が本当に逮捕されたわけではないことは十分に分かっています。また、暴力をふるわれるようなことももちろんありません。
しかし、実験に協力してくれた人たちは、模擬監獄の中でひくつになり、従順になり、そしてわずか数日で心身に異常をきたし始めました。
模擬監獄ですらこうなのですから、実際に無実の罪で逮捕されてしまった人の苦しみは、どれほどでしょうか。
囚人が監獄の中で心身の異常をきたすことを拘禁反応といい、また何でも言うことを聞く従順な模範囚になってしまうことをプリゾニゼーションといいます。
このような激しいストレスの中、偽りの自白も生まれてしまうのです。

正しい記憶が思いだせないことと偽りの自白

取調官は、強い調子で自白を迫ります。無罪だというなら、アリバイを示せともいうでしょう。
しかし、どれほどの人が、何カ月も前の何月何日にどこで何をしていたかを記憶していて思い出せるでしょうか。
とくに強いストレス状況ではなおさらです。
学校のテストを受けているときに、確かに覚えているはずのことが、でもなかなか思い出せないことがあるでしょう。そして、テスト終了のチャイムが鳴ったとたんに思い出すこともあります。
テストのようなストレス状況下では、記憶を整理し思い出すことが難しくなるのです。
アリバイを示すことができないことで、自白に追いやられていくこともあるでしょう。
取り調べ中には出てこなかったアリバイに関する話が裁判になって出てくるのは、かならずしも嘘の作り話ではないのです。

絶望感と自白

逮捕され、責められ、なじられ、不安と恐怖の中で、人は絶望していきます。どんなに努力して説明しようとしてもwかってもらえず、犯人と決め付けれられるような毎日の中で、人は無力感に陥り、鬱(うつ)状態になります。(心理学的には学習性無力感といいます)。
このような状態になってしまうと、問題を解決する力を失い、努力しようとする意欲を失ってしまうのです。
その結果、いわれるままに自白してしまうこともあるでしょう。
また少年犯罪などの場合には、疑われた少年たちがやけを起こし、どうせ誰も信じてくれないのだと考えて、「俺がやった」と偽りの自白をしてしまうこともあるようです。

次のページでは、さらになぜ人は嘘の自白をしてしまうのかを心理学的に考えます。
>>自白と冤罪の心理学2:人はなぜ嘘の自白をするのか へ進む
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碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか

2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者

2000年

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☆愛される親になるための処方箋  本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
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