新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/取手駅前通り魔事件:茨城・取手市無差別刺傷事件:自分の人生を終わりにしたかった
犯罪心理学:心の闇と光茨城・取手市無差別刺傷事件の犯罪心理学 1第一報を聞いて「自分の人生を終わりにしたかった」
2010.12.17(13:00) |
ウェブマスター碓井真史の本
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
いのちについて考える全てのひとのために
『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
秋葉原通り魔事件、八王子通り魔事件などから考える現代の問題
2010.12.17朝7:40頃、取手駅前、通学の生徒らで込み合うバスに一人の男性(27)が乗り込んできた。男は2台のバスに乗り込み、生徒ら乗客に包丁で切りかかり14人にけがを負わせた。男は周囲の乗客られ、逮捕された。
報道によると、男は「自分の人生を終わりにしたかった」と語り容疑を認めている。
同じように複数の人に危害を加えると言っても、「連続殺人」は、自分が逮捕されないようにしながら犯行を重ねます。ところが、通り魔事件は顔を隠しもせず、大勢の人前で犯行を犯します。彼らは、逃げる気はありません。ほとんどの犯人は、その場で逮捕されるか、射殺されるか、直後に自殺しています。
金目当ての犯罪でもなく、個人的な恨みでもなく、「誰でもいいから殺したかった」が彼らの心理です。それは、今回の容疑者が語っているように、「自分の人生を終わりにしたい」という心理とも言えるでしょう。
このような行為は「拡大自殺」とも言われています。自分だけが自殺するのではなくて、最後に何か大きなことをして、世の中にアピールしたいと考え、人生を終わりにする道連れをむりやり作ろうとするのです。
アメリカの校内銃乱射事件など、銃を使用した犯罪ではその場で射殺されることもありますが、日本では逮捕され裁判を受けることが多いでしょう。その場合も、死刑判決が出た後で、上告せず、また死刑が確定した後も、すぐに死刑にされることを望む犯人もいます。
大阪の附属池田小学校事件の犯人も、本人の希望で死刑確定後1年で刑が執行されています。映画「八つ墓村」で有名な「津川30人殺し」事件では、犯人は犯行後すぐに遺書を書いて自殺しています。
秋葉原の通り魔事件の犯人も、犯行動機として「たくさん人を殺せば死刑になれるから」 と語っています。
駅前のバスを襲った事件としては、新宿西口バス放火事件 が思い出されますが、この犯人も人生が上手くいかず絶望している中での犯行でした。
今回の事件の第一報では、まだ容疑者男性のことは詳しく報道されていませんが、これまでの通り魔事件からは、次のような犯人像を描くことができます。
たいていの犯人は、20代から40代の男性です。彼らの多くは、不幸な子供時代を送ってきました。親から十分な愛と世話をを受けず、虐待されていることもあります(いわゆる虐待ではなく、親も虐待などしている気はない教育熱心な親である場合もありますが、本人としては非常につらい子ども時代を送っています)。
彼らは、心が深く傷つき、いやされないまま大人になってしまったのです。また、ケースによっては、脳にある種の傷があり、それが衝動的行動に関係している場合もあります。
日本でも、かつての通り魔大量殺人者は、貧しさや病気などによる非常に過酷な子ども時代を送ってきた人々でしたが、近年の事件ではむしろ熱心な親のもとで苦しんだ経験をもつ犯人が多いようです。
秋葉原通り魔事件の犯人は、とても熱心な教育を受け、県内最難関の高校に入学しましたが、本人に親の愛は伝わらず、とても厳しいしつけと教育の中、むしろ親を他人と思うようになっていました。
校内銃乱射事件を起こすような犯人の多くは、
「頭も良く、一見ふつうの子だが、強い孤独感、疎外感を持ち、現状に不満を持つ。からかわれたり、いじめられたりすることに敏感で、世の中が不公平だと感じ怒りをもっている。落ち込むことでさらに判断力がゆがみ、人生は生きる価値がないと考え、自殺のかわりに他人を殺す。」と言われています。
今回の加害者がどのような男性なのかは、今のところ(2010.12.17)わかりません
通り魔事件は、しばしば繁華街や駅までなど、にぎわう場所で起きます。大勢の人がいたほうが、多くの人を襲えるからという理由もあるでしょうが、にぎやかで活気のあふれた場所が、彼らの怒りと悲しみと攻撃心を増幅させるのでしょう。
佐賀バスジャック事件では、ゴールデンウイークの高速バスでした。下関駅通り魔事件では、やはりにぎわう駅構内でした。池袋通り魔事件でも、犯行はにぎやかな繁華街でした。
人は心が健康な時には、他人の幸せに微笑むことができますし、元気のよい人々を見るのは心地よいと感じるのですが、心のバランスを崩し、自尊心が低下しているときには、他人の元気さや健康さは、かえって自分の絶望感を強めるだけのものになってしまうのです。
金目当ての犯罪や、個人的怨恨による犯罪であれば、「自分には無関係だ」と思える人々も、自分の街の駅前で無差別に発生する通り魔事件は、いつ自分や家族が犠牲になってもおかしくはないと感じ、事件にリアリティーを感じます。それだけ、事件報道に恐ろしさを感じるわけです。
また、金目当てや怨恨は、それなりに理解できても、自分の人生や他人の人生も終わりにしようという犯行は、健康的な人の常識的感覚を越えたものであり、このような事件の連続は、社会全体を不安定にしていきます。
毎日、毎日、多くのニュースが飛び交う中、人々はすぐに古いニュースを忘れます。しかし、苦しみ続けている人がいます。体に残った深い傷の後遺症で、長年苦しんでいる人もいます。本人は何も悪くないのに、犯罪被害のせいで、就職や進学が思うようにいかなくなる人もいます。また、体に傷があってもなくても、心に深い傷が残る人もたくさんいます。
心の傷は、体の傷以上に、人にはわかりにくくい、ゆっくりゆっくりと、長い時間をかけて癒されていくものです。
犯罪を防ぐためには、刑罰を重くすればよいでしょうか。たしかに、それで減る犯罪もあります。しかし、通り魔事件のような、逮捕され逮捕され重罰を受けることを覚悟の上の犯行は、死刑でさえ犯行にブレーキをかけることができません。
私たちの社会で、絶望する人一人でも減らすことが必要でしょう。仕事や進学で上手くいかないことがあっても、家族や友人とのつながりがある。仮にお金がなくても、別の分野で生きがいや、やりがいがある、そんな社会が作れたらと思います。
また、今回の事件では、複数の人々が犯人逮捕に協力しました。もちろん危険な行為を進めるわけであはりませんが、私たちは自分だけのことを守ろうとはしていないということです。
互いに支え合い、守り合い、愛し合い、義務を負い合う社会が、凶悪犯罪を防ぐことになるのでしょう。
2010.12.17(13:00)
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>>茨城・取手市無差別刺傷事件の犯罪心理学2「殺すつもりはなかった」12.17(20:00)
12月だからこその補足:通り魔事件の犯人たちにも、子ども時代にサンタが来ていれば:子どもがサンタクロースを大好きな理由:心理学から見た子育て最大のコツ
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