新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/元厚生次官宅連続襲撃事件の犯罪心理学2:地裁死刑判決
犯罪心理学:心の闇と光元厚生次官宅連続襲撃事件の
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2010.3.30 さいたま地裁は元厚生次官宅連続襲撃事件の被告男性(48)の責任能力を認め、死刑判決を言い渡しました。被告男性は、判決を不服として控訴しています。
裁判所は、精神鑑定の責任能力があったと判断しています。殺害の事実自体は弁護側も見て認めていますし、反省の弁もありませんので、責任能力に問題がないとしたら、現在の刑法上死刑判決も妥当かと思います。
被告が、たとえば統合失調症で、心身喪失または心神耗弱ということは、ないでしょう。弁護側は、妄想性障害を主張しましたが、裁判長はそれを否定し、完全責任能力があるとしました。
下関駅通り魔事件では、被告は妄想性障害とされ、心神耗弱状態だったとする判断も出ています。
今回の事件の犯人が、妄想性障害であるとすると話は違いますが、そうではないとすると、刑法上は極刑判決がでるのも無理からぬことです。
しかし、それだけでは済まない問題もあるでしょう。
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妄想性障害とは
彼は、本来有能な人だと思います。しか理系の教科は得意でも、文系の教科は不得意のようでした。そして、人間関係が苦手のようでした。大学も中退し、仕事もうまくいきません。
裁判での様子などを見ると、どうでもよいことを確認したり、訂正したりする様子が見られます。彼には気になるのでしょう。事件前から、そのような傾向はあるようです。物音にも敏感だったようです。
彼は、もともと悪人だったわけでもないようです。犬のために涙が流されうような人間であり、悪を許さない「正義の心」もあるようです。
しかしまた、彼の感覚は一般の人とは少しずれてもいたようです。
彼の裁判での言動は、自分の罪を軽くしようとするためというよりもむしろ、自分のことを分かってもらおうとしているように感じられてなりません。
前のページ(元厚生次官宅連続襲撃事件の犯罪心理学1)で、彼は、秋葉原通り魔事件の犯人も、バージニア工科大学銃乱射事件の犯人と同じで、歪んだ正義漢の持ち主だろうと書きました。
彼は、保健所によって殺された愛犬のかたきをとったという説明に反論し、すべての命の問題だなどと言っています。
しかし、彼の考えの背景に思想があるわけではないでしょう。
人生が上手くいかない人々が、自分がこうなったのは社会のせいだと思い込み、社会をターゲットにした時、敵はいろいろと作られるだけでしょう。
たとえば、大阪児童殺傷事件の犯人は、良い学校に行っている人をターゲットにしましたし、バージニア工科大学銃乱射事件の犯人は、大学に悠々と通っている金持ちの白人をターゲットにしましたし、下関駅通り魔事件では、駅で楽しそうにしている人々がターゲットにされました。
こんな事件を引き起こすような人は増えているのでしょうか。生まれつきこのような特徴を持っている人々の数は、おそらく昔も今も変わらないでしょう。
しかし、現代社会では、愛を伝えるのが不器用な親が増えているような気がします。愛されていないと感じて育つ人が増えているような気がします。
また、昔は社会の中に変わり者(少数派、マイノリティー)がいても、学校や地域はその人々を受け入れる包容力があったように思えます。しかし、現代では彼らははじき出されやすくなっているように思います。
こうして、家庭で、学校で、地域で、職場で、孤独感を持つ人が増えているのでしょう。
さらに、好景気の時であれば、就職できた人々も、この景気状況のなかで、職を失っています。彼らの疎外感はさらに高まっているでしょう。
彼は、凶悪犯罪事件の被告です。簡単に同情などできません。しかし、彼もまた事件など起こさないでも済むように、誰かの援助を必要としていた人ではないでしょうか。
彼のような特徴を持っている人は、少なからずいます。彼がもっと支援を受けていて、彼自身も成長していたら、こんな事件は起こさなかったはずです。
刑法で裁くのは当然として、私たちは同時に、私たちの社会の問題を考えていかなくてはいけないのではないでしょうか。
元厚生次官宅連続襲撃事件の犯罪心理学1
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