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災害弱者
高齢者の心のケア、体のケア

2004.11.4

高齢者の心のケア、体のケア(東日本大震災.)2011

災害弱者としての高齢者

 社会的強者は、何かあれば自力で、すばやく行動できます。早く避難所に入り、良い場所を取り、そして早い時期に避難所を出て、新生活をスタートさせることもできるでしょう。
しかし、高齢者をはじめとする災害弱者は、そうはいきません。避難も遅れます。うっかりすると、すでに大勢の人が避難してきている避難所に後になってから入り、すでに良い場所は他の人にとられており、居心地の悪いところしかあいていないかもしれません。
避難所がリーダーの下で正しく運営されているならば、高齢者、障害者、妊婦、赤ん坊など、災害弱者の人々をいたわり、良い場所を提供することもできるでしょう。
すべての場所がそうであれば良いのですが。
さらに、これらの人は、避難所から出ることも遅くなるかもしれません。
人よりも居心地の悪い場所で、人よりも長期にわたって暮らさなければならないときもあるでしょう。

トイレ

被災地のトイレの問題は、とても大きな問題です。
今回の新潟県中越地震でも、ある女性はマスコミのインタビューに答えて、「食事はおにぎり1個でもいいから、トイレをなんとかしてほしい」と訴えていました。
高齢者の場合(障害のある方の場合も)、仮設トイレはとても使いにくいものです。大きな段差があり、和式で、狭く、不安定です。若い女性が感じているストレスとはまた別の大きな苦痛を感じています。

水分摂取

高齢者の健康のために、水分を十分にとることは、とても大切です。しかし、トイレのことを考えて、水分を制限している人たちがたくさんいます。
体全体の健康にとって害がありますし、車中など狭いところで寝泊りしている人たちのエコノミークラス症候群の危険性もまします、また便も固くなり、ますますトイレが苦痛になってしまいます。

健康管

避難所になっている体育館などは、どんなに関係者が努力しても、健康面を考えれば、やはり快適とはいえません。不十分な暖房、換気。布団を敷き詰め、大勢の人が一緒に寝泊りしています。
体力のある若者でもつらい場所です。
これからの季節、風邪の流行も心配です。
阪神大震災では、健康を害し、持病を悪化させ亡くなる高齢者もたくさん見られました。避難所から病院へ運ばれ死亡された高齢者の死因の半数は、肺炎でした。
これ以上、新潟県中越地震の犠牲者を増やさないために、高齢者の健康管理は、とても大きな課題です。

避難の難しさ

様々な災害で、高齢者を避難させるのに時間が掛かることがあります。
若い人であれば、身軽に家を飛び出し、必要であれば大きなバッグを背負い、避難所まで走っていくこともできるでしょう。
もしも財産を失っても、また作ることができます。もしも地域の人間関係を失っても、移動先で、またたくさんの友人を作ることができるでしょう。
ところが、高齢者の中には、避難を拒む人たちがいます。ここで死にたいと言う人までいます。
(今回の中越地震でも、この家や、地域を離れるぐらいなら、このままここで死んだ方がよいといっている高齢者がいます。)
高齢者にとっては、避難に関する「心理的コスト」がとても高いのです。
体力的な問題もあるでしょう。家財産を失う恐れ。田畑を見捨てることができない。仏壇を守りたい。思い出がいっぱいつまった、この家、この土地から離れたくない。もう一度ゼロからやり直す自信はない。高齢者にとっては、辛いこと、失うことが多すぎると、感じてしまうからです。

大阪・難波の個室ビデオ店放火事件の災害心理学(人はなぜ逃げ遅れるのか)


人間関係の喪失と創造の繰り返し

突然の災害。命からがら避難し、避難所に入ります。ここで、ご近所の人間関係を失うこともあるでしょう。
避難所での新しい人間関係を作らなければなりません。
苦労の末、新しい人間関係ができはじめたころ、それをまた失います。新しくできた友人が、一人去り、二人去り、避難所を出て行きます。
そしていつか、自分も避難所を去ります。
ここで、自宅に戻れ、ご近所の人もみんな戻り、元どおりの生活ができればよいのですが、大災害が発生していれば、そうはいきません。
避難所から、仮設住宅へ。
避難所での人間関係を失い、今度は仮設住宅地での、また新たな人間関係作りを始めなければなりません。
高齢者にとって、人間関係の変化は、大きなストレスになります。
仮設住宅での新しい人間関係作りに失敗してしまえば、阪神大震災のときに何例も見られた「仮設住宅での高齢者の孤独死」といったとても悲しい結末すら考えられます。
仮設住宅を出た後、さらに各々の事情により、もとの家に戻れない人も多数いることでしょう。
高齢者のストレスは続きます。
*阪神大伸での先例をもとに、今回の地震では、同じ地域の人が仮設住宅でも近くにすめるような配慮が考えらています。

お話しを聞こう

苦しんでいるお年よりの話を聴きましょう。避難所で、仮設住宅で、あなたの身近で。苦しい思い、辛い思いを、お聞きしましょう。
話をしてもらうだけで、心はいくらかでも軽くなるものです。
若いころの昔話も良いかもしれません。
一緒に話すことで、孤独感も和らぎます。
苦しい思いを出してもらうことが、震災発生の心のケアになります。
さらに、いろいろな話をしてもらうことは、ストレス全般を軽減させ、心身の健康を高めます。
昔のことを思い出してもらい語ってもらうことを、「回想療法」として活用することもあるほどです。
昔の出来事を思い出すことで、脳が活性化されます。苦しかった思い出を話すことで、心の傷の癒しになります。活躍していた若いころの話をすることで、自尊心が高まり、生きることへの意欲につながります。
話を聴くことは、私たちの想像以上の力があるのです。

*現状
今日11.4は、地元ローカルテレビ局の番組でこの問題が取り上げられ、私もコメントを述べることができました。
ところで、現在の避難者は、ピーク時の半分ほどの5千人ほどですが、この中で、どれほどの高齢者がいるのかは、わからない、まだその数字は集約されていないとのことでした。


BOOKS

災害弱者の救援計画とプライバシー保護
高齢者・障害者の災害時の避難支援のポイント
介護災害を防ぐ生活支援システム―新潟県中越大震災を乗り越えたサポートセンター千歳の取組み
よくわかる高齢者の心理
回想法―高齢者の心理療法
高齢者のこころのケア
新・高齢者の心理―高齢者の心の理解とケア


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