心理学 総合案内 こころの散歩道/ 犯罪心理学 /少年犯罪の心理 /東京管理人夫婦殺害事件  (新潟青陵大学・碓井真史)

少年犯罪の心理
板橋両親殺害事件の
犯罪心理学

〜親殺しの心理〜


2005.6.24

板橋両親殺害事件の 犯罪心理学 2 愛が届かなかった家族
愛がないのではなく、愛が空回りしている家族のために

事件のあらまし

 2005年6月20日、東京都板橋区の会社社員寮の管理人室で爆発事件発生しました。管理人夫妻が殺されているのが発見され、22日朝、被害者夫妻の高校1年生15歳の息子が、草津温泉の旅館で、殺人容疑により逮捕されました。
 少年は、次のように供述して容疑を認めています。

「父親が自分をばかにしたので殺してやろうと思った。母はいつもハードな仕事をしていてかわいそうだった。母がいつも死にたいと言っていたので殺した。」
少年は親が冷たくなった、仕事の手伝いでこき使われたと供述しています。警察は、親への恨みが犯行動機かとして調べを進めています。
少年は、周囲から礼儀正しい、普通の子、おとなしい、生真面目、と評価されていました。

 

***

犯行動機、犯行と逃亡の様子

 少年は、中学3年生のときに、空家に忍び込んだことにより、警察もかかわるトラブルを起こしています。供述によれば、このとき以来、「両親が冷たくなった。殺そうと思った」と語っています。

 少年は、友人達に殺意を漏らしていました。「親を殺して、逃げる」などと語っています。

 一部マスコミは、、両親への恨みが深まり、パソコンやゲームに没頭、殺りくシーンに異常な関心を示していたと報道しています。

また、少年は小中学生のときに転校を繰り返しています。もう転校はしないよ、と親が語ったその後で、さらにもう一度転校しています。

犯行当日、

少年は寝ている父親を、鉄アレイと、包丁で殺害します。その直後に母親に見つかり、母親を包丁で数十箇所刺し、殺しています。
両親を殺害後、電熱器とタイマーを使い、部屋を爆破させました。
両親は、口数が少ない、特に母親は無口。父親は責任感の強い人と、近所の人は語っています。
少年は、犯行後自宅を出て、軽井沢のホテルに一泊し、さらに草津温泉の旅館に行き、1万3千円の部屋に泊まり、翌朝、ホテルの通報により逮捕されました。
少年は、「以前テレビで見た草津の温泉に入りたかった」と語っています。
逮捕時の所持金は、3万円ほどでした。

父親に馬鹿にされたので殺した

少年は父親に頭を押さえつけられ、「頭が悪い」と言われたと供述しています。
少年は父親から認められていない、軽蔑されていると感じていたのかもしれません。
父親殺しをした少年達の多くが、父親から軽蔑されていると感じています。

親子関係が希薄だから?

親子関係が希薄だから、こんな犯罪がおきたのか。たしかに、少年は両親の愛を実感できていなかったのでしょう。その意味では、関係が希薄です。
しかし、関係が薄いだけでは殺人は起きないでしょうか。愛を実感できないのと同時に、少年は心の底では、強烈に愛を求めていたでしょう。
むしろ、ある意味濃すぎる親子関係の中で、少年は父親に馬鹿にされ軽蔑されることが許せず、しかし、親から離れて自立していくこともできず、殺害を選んでしまったのかもしれません。
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なぜ母親まで殺したか

父親への怒りは語っていますが、母親の殺害動機が良くわかりません。
ただ、子どもによる親殺しの場合、父親だけが中心的な殺人のターゲットだとしても、他の家族も皆殺しにすることは良くあることです。
自分に優しくしてくれる母や、祖母にしても、父親側の仲間であると考えてしまうと、両親、祖父母皆殺しを実行してしまいます。
現在(6/22)のところ、詳しい状況はわかりません。母親がかわいそうなので殺したというのであれば、「愛他的殺人」となります。
死にたがっていた母親という存在は、子どもの心を不安定にしたでしょう。もしかしたら、死にたいと語る母への思いやりの心ではなく、激しいイラつきを覚えていたのかもしれません。それが、殺人の遠因になったのかもしれません。
母親を殺害するとき、包丁で何十箇所も刺しています。福島先生は、「両親殺しの場合、母親への加害のしかたが激しいことがある。母親との親子関係のほうが深いから。それだけのことをしないと、母親殺しが達成できないから」と語っています。
親殺しは、単に親を殺すと言う意味だけではなく、自分が親から解放されたいという思いの現われです。心理的に自分にまとわりつく母親を、何回も何回も刺しながら、心の中の親殺しを達成し、親から逃げ出そうとしていたのかもしれません。

なぜおとなしいまじめな子が

もし彼が、もっと乱暴で「悪い子」であれば、この事件は起きなかったかもしれません。親への文句を直接言えるようなことあれば、犯行はなかったかもしれません。
感情を抑えすぎ、ため込んでしまうことが、様々な心の問題を生みます。
あるいは、彼の心の変化が、もっとわかりやすい形、服装の乱れや、乱暴な言動として出ていれば、きっと誰かが彼の心の変化に気づき、適切な指導ができていたかもしれません。
このようなわかりやすい「ワル」は、減っているのですが。

なぜ爆破したか。

現在のところ、情報がありません。証拠隠滅をはかったのかもしれません。手の込んだ方法は、ゲーム感覚だったのかもしれません。
福島先生は、23日放送のテレビで、このようなことは前例がないことから、証拠隠滅に加えて、何か大きな事をした達成感、自尊心の回復を狙ったかもしれないと語っています。
(その後の報道によると、少年は証拠を消したかったということと、どうじに、事件を知らせたかった、ここに人がいることを教えたかったと語っています。)

親殺しの心理

親殺しは、多くの場合、中流以上の家庭で起きます。
一般的な犯罪は、いわゆる恵まれない環境で起きることが多いのですが、「ワル」は、親を殺したりしないでしょう。親のすねをしゃぶることでしょう。
15歳の少年が親を殺しても、何も得をすることありません。
子どもは親を憎むこともあります。うるさいと感じることもあります。しかし同時に、親に世話にもなります。愛してくれていると感じることもあります。
子どもの心の中には、嫌いな「悪い親のイメージ」と、大好きな「良い親イメージ」があり、普通は、このイメージが融合していきます。
いやな部分もあるけれど、大切な親だと感じることができるのです。
ところが、この融合ができず、「悪い親のイメージ」だけが大きくなってしまったのが、親を殺す少年達です。
今回の事件で、少年は「親を殺して、逃げる」と友人に語っていました。「逃げる」は、逃亡すると言う意味以上のことがあったかもしれません。
かれの逃亡計画自体は、犯行の用意周到さと比べて、とても幼稚です。ホテルでは正直に住所を書きます。そして、残りの所持金3万円で、そのあとどうしようと思っていたのでしょう。
親を殺して、逃げる。彼は親から解放されたかったのかもしれません。普通の意味で自立することはできず、親にぶつかっていったり、ぐれたり、不登校することもできず、彼に残されたただ一つの方法が、親殺しだったのかもしれません。
犯行後、彼は温泉宿に行きます。何とも奇妙な行動に見えますが、親殺しをした少年達には似たような行動が見られます。
親を殺した後で、テレビをみていたり、くつろいだりする少年達がいます。彼らにとっては、とても歪んだ形ですが、何かを成し遂げた達成感があるのでしょう。
(今回の事件でも、少年は犯行後に映画館に行って映画を見ていたことがわかりました。)
中流以上の家庭において、親は上昇志向があります。子どもに、もっと頭が良くなれ、しっかりしろ(自立しろ)と圧力をかけます。同時に、すべてにおいて親の言うことを聞け(自立するな)というメッセージを送ってしまうことがあります。
少年達は親から認めてもらっていると感じることができず、特に父親から軽蔑されていると感じます。このとき、母親が支えてくれればよいのですが、いつもやさしい母親から見離されたような言葉をうけ、犯行に及んだ少年もいます。
今回の、死にたいと語っていた母親も、少年を優しく包み込む強さを失っていたのかもしれません。
少年達は、倒れるまで努力しつづけ、親を嫌いつつも、正面から反発することも離れることもできず、苦しみつづけます。
親殺しをする少年達は、心の柔軟性をうしない、親を殺すことだけが問題解決の方法だと感じるようになってしまうのでしょう。
親は子どもを操ろうとする。子どもが期待通りに動ければ問題が顕在化することはなくても、何かでつまづいたとき(たとえば受験に落ちた、補導されたなど)、家族のバランスが崩れます。
親の不安なたかまり、さらに子どもへの支配を強めるかもしれません。子どもは挫折から絶望し、親の心無い言動で、さらに怒りや恨みをため込んでいきます。
本当は、何かトラブルが起きたときこそ、親子の愛の絆を強めるチャンスなのですが。

家庭の役割

お父さんは、うっかりすると子どもを切り捨てるようなことを言ってしまうことがあります。お母さんは、うっかりすると子どもを甘やかしすぎてしまうことがあります。
そんなとき、たいては、夫婦のそれぞれが、相手をたしなめます。あるいは、厳ししぎると思えばかばい、あまえさせ、甘すぎると思えば厳しく接します。
そうして、愛を土台にしつつ、優しさと厳しさを教えていきます。
他人と話すときには、遠慮があります。明るく元気に話そうと努力したり、きちんとした態度、立派な言動をこころがけます。
けれども、一息つけるのが家庭です。
リラックスして、弱さを出せる、本音を出せる。けんかすることもあるでしょうが、仲直りできるのが、家族です。
夫や妻は、良い家庭を築くために努力も必要です。しかし、子どもは無条件に受け入れられ、愛されるべき存在です。
弱さ、不正不満、暗い話、だめな部分。そんな影の部分をも出すことができる、それを受け入れてもらえるのが、家庭ではないでしょうか。
良い子を演じ、立派な家庭の見せかけの裏で、問題が大きくなっていきます。
何かあったら相談しなさいと子どもに言うよりも、何かあったら相談できる雰囲気を作りたいと思います。
ときには子どもがかんしゃくを起こし、親子げんかができる雰囲気。怒って飛び出すこともできる(もちろん帰ってくることができる)雰囲気を、子どもに提供したいと思います。
人には個性があります。成績が良くない子もいるでしょう。不器用な子もいるでしょう。しかし、それでも子どもを愛し、子どもの未来を信じるのが親です。何かが不得意でも何かが得意です。良いところはきっとあります。欠点だらけだとしても、すばらしい価値ある人間のはずです。親が子を信じてあげなくて、いったい誰が信じるのでしょう。
今回の事件がおきた家庭でも、両親は子どもを愛してはいたのでしょう。しかし、その愛は子どもには届きませんでした。
父親に軽蔑されている、こきつかわれている、母親も息子を守る気力などないと、少年は思っていたのでしょうか。
子どもが生まれたからには、子どもを守り、育み、そして子どもを強く自立させていく。それが、家庭の役割ではないでしょうか。

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