毒殺、毒物犯罪の犯罪心理
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少年犯罪の心理
母親毒殺未遂事件の
犯罪心理学

〜毒物犯罪の心理〜

少女、学校、家庭・毒殺犯罪の心理・グレアムヤング・・グレアムヤングと少女の共通点・模倣犯

2005.11.7(11.10補足)

 

事件のあらまし

 2005年10月31日、静岡県の高校1年生の女子生徒(16)が、母親に毒物(タリウムなど)を与え殺害しようとした疑いで逮捕された。
女子生徒は、県内でも有数の進学校に通い、化学部に所属。化学、毒物に関する知識は非常に豊富だった。
彼女は、ネット上のブログで犯行の経緯を日記風に記録していた。
現在(2005.11.7)母親は入院中。少女は犯行を否認している。
11.10 警察は、タリウムのほか、アンチモンなど30薬品を女子生徒が所持していたことを確認。イギリスの連続毒殺犯グレアム・ヤングの事件を模倣したとの見方が強まっている。また、ブログが自分のものであることを認め、「現実に創作を加えたもの」との供述をはじめている。
***

少女・家族・学校

 小学校のときには、飼育係として小動物をかわいがる姿が見せています。成績優秀であり、中学でも学年で10位以内に入っていました。高校は、地域でも有数の進学校の理数科に進学し、化学部に所属します。

 しかし、中学の卒業文集では、

「好きな芸能人」の欄には「有名人(あまり有名ではないかもしれないが)ならグレアム・ヤング」と、英国の毒殺犯の名を挙げています。

少女の部屋には、切り刻まれた動物の死骸や解体標本、ヤングの著作「毒物日記」、ナチスの写真などが見つかっています。

周囲の生徒たちの話によれば、彼女はリーダーシップを発揮するようなタイプではなく物静かだが、、特別暗いタイプではないと語っています。中学のときには、文化部の部長もつとめています。

ブログの中では、いじめられていたことを示唆する記述もありますが、関係者からはいじめに関する情報はでていません。

近所の人の話によれば、少女の家族は「仲の良い家族」と見られていました。警察の調べでも、母親との間に特別な確執はなかったと見られています。

少女は、入院中の母親のことを、

「好きでも嫌いでもない」と語っています。


毒物犯罪の心理

毒物犯罪は「弱者の犯罪」と呼ばれています。
たとえば、日本でピストルを手に入れようとしたら、裏社会との特別な関係などがなければならないでしょう。刃物で刺したり、首をしめたりしようとすれば、相手も反撃するでしょうから、体力的な自信がなければ、なかなかできません。
それに比べて、毒物は簡単に手に入るものもあります。今回も、少女は薬局でタリウムを手に入れています。生活の場にも様々な毒物があります。職業によっては、農薬や毒性のある工業用の薬品なども身近にあるでしょう。
毒物犯罪は、「弱者」にも可能な犯罪です。
また、毒物犯罪は「女性の犯罪」とも言えます。
弱者としての女性が使う手段ともいえますが、女性は料理を作ったり、お茶を入れたりする機会が多いですから、毒物を相手に与えるチャンスも容易に作る事ができます。
さらに、毒物犯罪は、「実感の薄い犯罪」ということもできます。
たとえば、刃物で人を刺し殺したときなどは、そのぐさりと刺したときの手の感触をいつまでも覚えているといいます。たくさんの返り血もあびるでしょう。首をしめたときも、最期の相手の苦痛に歪む顔を見、声を聞くことになります。
ところが、毒物は、たとえばサラサラと白い粉をコップに入れるだけです。毒を飲み苦しむ姿を見ないで済ますこともできます。遠くに離れていることもできます。
殺すことへの実感がうすいまま犯罪を犯すことができるのです。
このために、
毒物殺人は、「絶対に今すぐに死んで欲しい相手」に使われるだけではなく、「できればいなくなってほいい相手」に対して使われることがあります。
今すぐ絶対に殺さなければならないとは思わないが、もしも病気や事故で相手が死んでくれれば助かるなあと想像したくなるような相手です。
たとえば、じゃまな家族に対して、毒物が使われたりします。
しかし、同時に毒物は大きな力になります。
腕力もない、社会的力もない、しかし毒は邪魔者を消しさてくれます。時には、毒が「私の友だち」になることすらあります。
不良少年がたまたまピストルを手に入れたとき、ほおずりするほどその銃を愛し大切にします。愛用のナイフにとても愛着を感じる少年もいます。
自分のともにあり、自分の夢をいっしょになってかなえてくれる存在だと感じます。
そして、時折、
その力を実際に試してみたくなってしまうときもあるのでしょう。
毒物の場合は、銃の乱暴な試し打ちではなく、冷静な観察記録になることもあります。
(強力な毒物や細菌などがテロリストや小国によって大規模に使われるとき、核兵器に比べて100分の1の労力で核兵器に匹敵するような被害を出すことも可能です。その意味で、「貧者の核兵器」と呼ばれることもあります。)
BOOKS
毒殺百科 』 『世界史・華麗なる毒殺者たち―悪魔の薬はどんな味? (にちぶん文庫)

グレアム・フレデリック・ヤング

1947年生まれ。20世紀イギリスの最大の大量毒殺者。きれい好きで頭の良い少年。化学に関するずば抜けた知識を持っていました。。

14歳のとき、タリウム、アンチモンなどの毒物を使用し、折り合いの悪かった継母を毒殺。父、姉、そして彼のただ一人の友人にもひそかに毒を与えます。
毒物に関する自分の知識をひけらかしたことがきっかけで逮捕。約10年、収容所で生活し、更生されたと判断され、釈放されました。
彼は写真現像所に勤めはじめます。ところが、彼が来ていらい、職場で謎の病気が流行り始めます。彼は、またもタリウムとアンチモンを購入し、毒物犯罪を犯しはじめたのです。
彼は社員達に配るお茶の中に毒を入れていました。
彼はまた毒物に関する知識を疲労したことがきっかけで逮捕されます。
二人の殺人罪と六人の殺人未遂罪でした。
1990年、42歳になったヤングは、獄中死をとげました。
彼は、自分の犯罪を克明に日記の形で記録していました。その日記をもとに後に出版、また映画化もされています。
アンソニーホールデン著『グレアム・ヤング 毒殺日記
ベンジャミン・ロス監督『グレアム・ヤング 毒殺日記』 1994イギリス
(私は数年前に近所のレンタルビデオ店で借りて見ました。)

グレアム・ヤングの言葉

「私はあなたの近所の気さくなフランケンシュタイン」
「毒物の小ビンは僕の小さな友達」
(逮捕された後)「アンチモンがなくて寂しい。アンチモンが与えてくれる力が欲しい」
「彼らを人間として見なくなったんだと思います。より正確に言うなら、僕の一部が彼らを人間と見なさなくなったんです。彼らはモルモットになったんだ。」
グレアム・ヤングに対する関係者の言葉
検察官の言葉
「卓越した毒物知識を備えた、極めて教養高い若者。犯行の動機は科学実験のためだったかもしれない」
最初の逮捕時の精神科医の言葉
「彼は毒物が与えてくれる力に取り付かれています。彼は再び同じ犯行を繰り返すでしょう。」

グレアム・ヤングと今回の少女の類似点

二人とも、
・とても頭が良い。特に理数系が得意。
・おとなしいタイプ(ただし、相手の論理的な誤りを強く攻撃するときもある)。
・子どものころから毒物に強い興味を持つ。
・歴史上の大毒物犯を尊敬する。(彼女の場合は20世紀のヤング。ヤングの場合は、19世紀のイギリスで14人を毒殺したウイリアム・パーマー)
・ナチス・ヒットラーに対する関心
・タリウムを使用。
・アンチモンを使用。
・学校の科学実験で使うと偽って毒物を購入。
・犯行を冷静に記録に残す。(ヤングは日記、少女はネット上のブログ)
・母親を殺害しようとする。
・入院中の被害者に、さらに毒をもろうとする。

タリウム

1861年に発見された重金属。農薬、ネズミ駆除剤、などとして使われるが、その後使用禁止に。現在は、試薬などとして使うために薬局で販売されています。
1961年発行、アガサ・クリスティーの推理小説『蒼ざめた馬 (クリスティー文庫) 』の中で、毒物として登場。
薬業時報社発行の『中毒学概論―毒の科学 』(1999)によれば、タリウムは、
「よく殺人に使われることが報告されている」「入手しやすい」「無味無臭、食べ物に容易に混入できる」「中毒症状があまり知られていないので、誤診されやすい」とあり、
「タリウムは最も理想的な殺人薬として有名になっている」と書かれています。
ただし、重金属は体の中に残りますから、調べればすぐにわかってしまいます。
(『毒殺 』:元東京都監察医務院長の著者が過去の毒物犯罪で使われた毒物を検証)
*専門書にこのような危険性が指摘されているのに、彼女が簡単に薬局で購入できてしまったことは残念なことです。

事件の今後

逮捕された少女は、また容疑を否認しています。(ヤングも、逮捕直後は容疑を否認、後に認めています。)
この事件については、少女はまだほとんど何も語らず、多くの点が不明です。
少女は、母親が毒物中毒で入院し、自分が逮捕されているにも関わらず、母親への同情の言葉も、また思春期青年期にありがちな反発の言葉も、どちらも聞こえてきません。
頭が良く、知識も豊富で、経済的にも困ることはなく、それなのに、人間としてもっと単純で素朴な人と人との関係が非常に希薄な若者達。現代青年の一つの姿です。
今後の捜査の経緯を見守り、新しい情報があれば、またページをアップしたいと思います。

模倣犯

これまで、大きな毒物犯罪が報道されると、しばしば模倣犯が生まれています。人を大きく傷つける割りには、前に述べたように、犯罪としての敷居が低い犯罪だからでしょう。
しかし、
毒物犯罪は「愚か者の犯罪」です。
疑われて調べられれば、現在の科学力は、すぐに犯行を暴くでしょう。
毒物犯罪は、愉快犯的に行われることもあれば、虐げられてきた弱者が恨みを晴らすために行うこともあります。
どちらにせよ、そんな方法ではない、別の方法で、どうか問題解決の道を探ってください。
犯罪は、割に合いません。
BOOK
アンソニーホールデン著『グレアム・ヤング 毒殺日記

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毒殺百科

世界史・華麗なる毒殺者たち―悪魔の薬はどんな味? (にちぶん文庫)

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毒殺 』:元東京都監察医務院長の著者が過去の毒物犯罪で使われた毒物を検証

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