心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理学/神戸小学生殺害事件/「神戸小学生殺害事件:事件の背景とこれからの教育を考える」月刊「児童心理」(金子書房)1997年11月号別冊
・DSM(精神疾患の分類と診断の手引き)によれば、「行為障害」である。
・このようなケースでは、なんらかの「脳の障害」があることが多い。
・発達の観点から見れば、「思春期危機」と診断してよい。
・「精神分裂病」の前駆期や潜伏期であった可能性も否定できない。
・「類破瓜型」精神分裂病の可能性もある。
・関わった専門家らの対応に問題を感じる。アメリカならば、責任を追及されていたかもしれない。
・親や教師が異常性を識別する良識を持ち、医師や児相相談所の相談員が児童精神医学や犯罪心理学の知識を正しく持っていれば、この悲劇は防げていたであろう。
全体的印象として、読者が心理学や精神医学の基礎知識を持っていないと、理解が難しい内容だと思いました。また、テレビなどで拝見する温厚な様子とは違って、なかなか激しい調子で、問題点を指摘されています。福島氏は、「人格障害」は18歳以上の成人に対する診断名であるので、今回は、そのような診断名をつけられないこと、同様に「快楽殺人」と呼ぶことにも疑問を呈しています。
当ホームページ神戸小学生殺害事件では、少年を人格障害あるいは性格障害と述べてきました。これは、上記のような正確な診断名としてではなく、何らかの性格の病として述べてきたつもりです。(DSMでは、同じ精神疾患(精神障害)でも、年齢によって呼び名(診断名)が変わっていきます。)
また、快楽殺人とも述べてきました。狭い意味の快楽殺人とは、一般に男性が女性を殺すことに性的快感を感じるものです。今回のケースがそうであったのかは分かりません。また、異性だけではなく、同性の子供も殺害している点は疑問です。
この疑問に対しては、小田晋氏は、快楽殺人者が未成年の場合は性衝動と破壊衝動が未分化のために、対象が同性に向かうこともあると述べています。
また、今回のケースは、たしかに殺人自体を目的とした殺人だが、性的快感を求めたものではないので、「純粋殺人」と呼んだ方がよいとする意見もあるようです。
当ホームページでは、精神医学的な論議が目的でもなく、また、あまり耳慣れない用語を多用することにも抵抗があったために、恨みや金銭などの普通で言う意味の犯行動機がなく、殺人自体が目的であり殺人に快を感じる殺人を快楽殺人としてきました。(もちろん、筆者自身が精神医学の専門家ではないので、あまり細かい議論は避けてきた面もあります。)
福島氏は、担当した専門家の責任について言及しています。内科や外科の医師が医療過誤の責任を問われるとしたら、精神科医やカウンセラーもまた同様の責任を負うのは、当然と思います。(もちろん、患者が死んだら全部医師の責任、クライエントが治らなかったら全部カウンセラーの責任と言うわけではありません。)
私は、科学者の社会的責任については、科学者も社会的責任は当然負うものの、安易に個人の責任を問うべきではないと述べてきましたが、それは臨床家の責任を一切問題にしないと言う意味ではありません。
福島氏の発言を、関係者らは真摯に受けとめる必要があると思います。しかしながら、今回のような特殊なケースに一般の精神科医やカウンセラーがどこまで正しく対応できたるを考えると、私は今回の担当者だけを責める気持ちにはなれません。
もちろん、だからといって現状のままでよいわけではありません。反省の上に立って、質の向上を目指さなくてはなりません。おそらく、福島氏も、担当者個人を非難するつもりではないだろうと思います。ただ、もし正しい対応がとれていれば事件は防げていただろうという気持ちが、強い表現となって現れたのではないかと思います。
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