心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/自殺の心理/酒井法子(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)
09.08.05
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
酒井法子容疑者に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕状:薬物問題の犯罪心理学 090807
女優で歌手の酒井法子さんの夫が麻薬取締法違反の容疑で逮捕されました。妻の酒井法子さんは、090805現在、10歳の子どもとともに行方不明状態で連絡がつきません。
親族は、「最悪の事態」も考え、捜索願を出しています。
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関係者らの話によると、誠実で、まじめで、責任感の強い方だそうです。
一般論ですが、自殺は無責任だとか弱い人間のすることだなどとよく言われますが、私はそうは思いません。
むしろ、まじめで、人生や命についてしっかり考えて、今まで強く生きてきた善人たちの行動だと思います。
もちろん、自殺という行動を正当化するつもりはありません。自殺を考える人が、弱いとか卑怯だとかいうのは誤解だと思うのです。
酒井法子さんが、もっといいかげんで、無責任で、悪人なら、親族も連絡がつかなくなった直後に「最悪の事態」を心配して捜索願を出したりはしなかったかもしれません。
誠実で、まじめで、責任感が強いからこそ、身近な方々は最悪の事態を心配されているのでしょう。
立派な人だからこそ、時に心のシステムが誤作動を起こし、死んで責任を取ろうとか、人に迷惑をかけて申し訳ないから自殺しようなどと思っていますのです。
一般論ですが、今まさに自殺しようとしている人がいるとすれば、110番でしょう(警察に保護してもらう)。あるいは、精神科で診察を受ける(場合によっては入院)も考えられるでしょう。
ともかくまず、物理てい方法を使ってでも、自殺を止めることです。死なれてしまっては取り返しがつきませんから。
そして、あなたがこの人は今から自殺しようとしているのではないかと思っている人を目の前にしているときには、次のことを考えましょう(『自殺の危機とカウンセリング 』等を参考に)。
- 落ち着かせること。
- 自殺をしようとしているのかどうか確認すること
- こちらから説教などせず、新しい提案などせず、別の話題ごまかしたりせず、ただひたすら話を聞くこと。共感すること。
- ロープや刃物、薬など危険なものを遠ざける
- 一人にしない(不安定な時に一人でいることは危険です)
- あなたの協力者を得る(警察、病院、友人、家族など、プロや身近な人々)
今回の酒井法子さんの場合は、今どのような理由で連絡を絶っているのか、まったくわかりません。自殺を具体的に考えられているのかも、わかりません。自殺を考えているのだろうと、決め付けることは良くないでしょう。
上記のように、目の前に今いる人や、遺書を残して失踪している人とは違います。
しかし、自殺予防の観点からすれば、やはり自殺の可能性を考えるべきでしょう。
酒井法子さんは、芸能界では珍しくないことのようですが、複雑な家庭環境で育ったようです。だからこそ、家族を大切にされているようです。
たとえば、複雑な家庭環境で育たれた山口百恵さんは、人気絶頂の時に芸能界を引退し、妻、母としての生活を優先しました。
酒井法子さんも、今回子どもが夏休みということで、スケジュールを開けておいたほど、家族を大切にされてきたようです。
その酒井さんにとって、夫であり、自分の子どもの父親である人の逮捕は、大きな衝撃でしょう。
また、以前酒井法子さんのマネージャーが自殺をしています。身近な人の自殺を体験されているということも、このような場合には、気がかりです。
また、お子さんを連れていることで、安心できる面もありますが、逆に「拡大自殺(無理心中)」という可能性も否定できません。
*こういうふうに言って騒ぎを大きくしようというのではなく、自殺予防の観点からは可能性が考えられるということです。
また、有名人の自殺報道は、(飯島愛さんの自殺報道の場合のように本当は自殺ではなかったときでさえ)人々を動揺させ、場合によっては(岡田有希子さんの場合のように)、自殺の連鎖を生む危険性もあります。
テレビでも、新聞でも、ネット上でも、ものすごい量のコメントや報道があふれています。
失踪理由の推測として、酒井法子さんにとって失礼で、不愉快なものも見られます。
個人でも、報道の自由とか、客観的な意見とかということで、自己正当化している人もいるようですが、違うと思います。
たとえば、元気な政治家を批判するなら、激しい意見もよいでしょう。しかし、もしかしたら今まさに命の危険歳があるかもしれないと考えられる人に対しては、本人を傷つけるような言い方は避けるべきだと思います。
マスコミ報道
マスコミは、報道する義務があります。そのとおりです。しかしたとえば、誘拐事件のときなどは、警察に協力し、被害者を助けるために報道を控えます。
自殺報道に関しても、欧米では、大きな自殺報道をする際には、自殺予防に関する時間やスペースを必ず作ることになっています。報道の自由があるから、放送時間や紙面をどう使おうと自由だというわけではないのです。(それに、マスコミのみなさんも、もちろん命を守りたいと願っていらっしゃるわけですから)
ブログ等での発言
ネット時代になり、多くの個人が発言しています。
発言自体は、もちろん良いことです。
しかし、匿名だからと言って無責任なことを言っている人々もいるでしょう。
軽い話題なら別にかまわないと思いますが。
こんな話を聞いたことがあります。
屋上に立ち、自殺を考え迷っている人がいました。ビルの下には、大勢の野次馬が集まってきました。関係者は、何とか自殺を思いとどまってもらおうと、本人と話し始めました。長い時間がかかりました。
野次馬たちは、少し飽き始め、イライラしてきました。心ない野次馬が、冷たい言葉を投げかけました。野次馬たちの間でいざこざが始まりました。
その騒然とした雰囲気の中、ビルの上の人は、とうとう飛び降りてしまいました。
マスコミやインターネットを悪者にするつもりはなりません。
マスメディアを通して、正しい自殺予防の知識を伝えることはとても大切です。
マスメディアを通して、個人的に呼び掛けている芸能界の知り合いもいるようです。酒井さんにとって力になるかもしれません。
インターネットでも、冷たく無責任な発言ばかりではありません。
個人的な知り合いではなくても、みんなが知っている芸能人です。とても心配しているファンがいます。そのファンの声を届けることは、無駄ではないと思います。
以前、自殺予防に関するNHKの番組で、こんな例が紹介されていました。
ある人が自殺を決意し、山にはいります。死ぬ前に、もう一度だけノートパソコンを開き、掲示板を見ました。そこには、自殺を考えいた彼へのメッセージがあふれていました。何時間にもわたって、メッセージが届き続けます彼は、一晩メッセージを読み続け、夜が明けます。彼は、自殺を思いとどまりました。
さて、
私たちは、一人の悩める母親を、助けるのでしょうか、それとも追い詰めてしまうのでしょうか。
○当サイト内の関連ページ
酒井法子さんへ(1):今は一人ぼっちのあなたへ(不安定な時に一人でいることの危険性)
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女優可愛かずみさん自殺から考える自殺予防心理学の基礎:自殺の公式、自殺の伝染
自殺したいと言われたとき。自殺相談、自殺予防のために。
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うつ病の人との接し方
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「東京自殺防止センター」 「NPO 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター」
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『なぜ少年は犯罪に走ったのか』 『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』
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