こころの散歩道:心理学総合案内/犯罪/毒物事件/模倣犯の心理と模倣犯の防止
これが、私たち市民の、犯人に対する戦い方です
ぼんやりと信号待ちをしているときに、誰かが一歩、足を踏みだす。それにつられて、つい自分も歩きだしてしまう。まだ信号は、赤なのに。これが「模倣」です。赤ちゃんが、お母さんの顔の動きを模倣することもありますし、若者が芸能人の模倣をして、同じ格好をすることもあります。
「観察学習」は、もう少し複雑で高級です。お兄ちゃんがお客さんにご挨拶したら、とてもほめられた。それを見た妹は、ご挨拶という行動をすれば、ほめられることを学び、自分もご挨拶をするようになります。
ただ、行動をまねるだけではなくて、行動の意味を考え、行動の結果まで見て、行動を学び、身に付けるのです。
「模倣犯」は、犯罪をまねていますが、犯罪の結果がどうなるかは、考えていないようです。人を傷つける方法として、毒物を使う方法を模倣している人たちがいますが、彼らは犯罪が結局は割に合わないことをまだ、学んでいないのです。
単純に模倣しているとも言えますし、まだ犯人が逮捕されていない部分だけを見て、毒を使うのは簡単だと、誤解した観察学習をしてしまったとも言えるでしょう。
日ごろから悲しみや怒りが心の底に溜まり、何とかしたいという強い動機がある。合法的で、健康的な解決方法は思いつかない。そんなときに、毒物事件のことを知り、問題解決方法として、毒を使うことを模倣してしまうのかもしれません。
私たちの周りには、大勢の人がいますが、その中の一部を、模倣や観察学習のお手本(モデル)とします。お手本となるのは、簡単に言えば「目立つ人」です。
子供にとっては、アニメの主人公や、ぬいぐるみのキャラクターが目立つ存在なので、そのまねをします。言葉や身振りの模倣だけではなくて、ウソをつかないことや友達を大切にすることなどを観察して学習することもあります。
一般の市民にとって、普通の犯罪者は目立つ存在ではありませんが、今回の事件のように、連日大量の報道があれば、犯人は、とても目立つ存在になります。特に、テレビの場合には、その直観的イメージを伝える強さによって、犯人にスポットライトを浴びせてしまう危険性が大きいかもしれません。
ビル火災で精神的に混乱しているとき、誰かが窓から飛び降ります。冷静に考えれば、飛び降りても死ぬだけだと分るのですが、このような時には、つられて次々と飛び込んでしまいます。
地面が近くに見える、飛び降りても何とかなりそうだと、感じてしまいます。そして、飛び降りた後どうなるのかまで、冷静に見ることができず、飛び降りる行動をまねてしまうのです。
心が混乱したり、怒りや悲しみの激しい感情があるとき、膨大な報道を通して、毒物犯罪を知ります。そんなとき、自分にもできそうな気がして、成功するような気がしてしまって、犯行に及ぶのかもしれません。
こうして事件が起こってしまった場合に、犯罪者予備軍には、何を学ばせなくてはならないでしょう。第一には、犯罪は割に合わないということです。それは警察も、マスコミも、よく承知していることでしょう。
銀行強盗、営利誘拐など、目立つ犯罪の場合には、警察は特に力を入れて犯人逮捕を目指します。強盗や誘拐は簡単にできて、お金がもうかるなどと、あやまった思い込み(学習)をさせないためです。
今回の事件も同様です。一日も早い犯人逮捕が第一です。毒物犯罪など、断固として許さないという強い態度を示すことが必要です。
そして、それに加えて、社会が騒ぎすぎないことが大切だと思います。毒物事件を起こせば、社会が混乱して大騒ぎをすると学ばせるのではなくて、そんな卑劣な犯罪で社会を混乱させることなどできないと学ばせてやりましょう。
「愉快犯」という言葉は、1977年の「青酸コーラ事件」の時に生まれました。金目あてでもなく、怨恨でもなく、殺人自体に快感を感じる快楽殺人でもなく、人が傷ついたり、社会が騒ぐのを愉快に思っているという意味で、愉快犯と呼ばれました。
愉快犯を愉快にさせないためには、まず犠牲者を出さないことです。被害防止のための工夫や努力を惜しむことなくしましょう。
しかし、行き過ぎてはいけません。私たちみんなが必要以上に怖がったり、ウーロン茶が全然売れなくなったり、お店にお客さんが入らないなど、狼狽した様子を見せてはいけません。
そんな慌てぶりを見た愉快犯の、大きな高笑いが聞こえてきそうです。
そうではなくて、派手な毒物事件を起こそうとしても、
・犠牲者も出ない、
・社会の不安も高まらない、
・地域の和も乱れない。
こうして、犯人が少しも愉快にならないようにしてやりましょう。
これが、私たち市民の、犯人に対する戦い方です。
マスコミに関るほとんどの方々は、正義感にあふれ、社会的使命をもって、報道を行っていることでしょう。しかし、その一方で、派手な出来事を追いかけ、人の目を引くような情報を提供しようとしえいるのも事実でしょう。
マスコミの方が警察を訪れて、「何か派手な交通事故はありませんか?」と言って、ぺしゃんこになった車の写真を撮って帰ります。大きな災害が起きれば、「町に行って住民のパニック状態を探して取材してこい!」と指示を受けて、パニックがないかと町中探し回ります。
それは、刺激的ニュースですし、読者や視聴者も喜ぶでしょう。でも、交通事故の減少のためには、もっと地味な事故の報道が必要な場合もあるでしょうし、災害時にも、一般に思われているほど、パニックは起きていません。
でも、ひとたび、マスコミの報道がなされると、その影響力の強さのために、派手な事故やパニックの様子が、現実感をもって迫ってきます。マスコミによって、私たちの事故や災害のイメージが作られてしまうのです。
さて、一連の毒物事件に関連して、多くの人が不安がっていることは確かでしょう。報道されているように、被害防止のために、各地で様々な努力がなされています。その報道を通して、注意が促され、被害防止にもつながるでしょう。
しかし、その一方、報道の仕方によっては、現実以上に社会が混乱しているイメージを作り上げてしまったり、人々の不安を必要以上にあおってしまうこともあるのではないでしょうか。
そうなってしまうと、愉快犯達を喜ばせ、さらに新たな模倣愉快犯を生むことになるでしょう。今、こうして、毒物事件が続発しているときこそ、冷静な報道姿勢や、ニュースキャスターの冷静な態度が求められています。また、市民が冷静に対処しているところも、ぜひ報道して下さい。
人間は、統計の数字や科学の理論よりも、個人の発言内容や、人間の声や顔の表情から影響を受けます。
街頭インタビューで、いかにも不安げな人々の様子ばかりを流したり、レポーターやキャスターが、やたらと不安そうな表情や、感情的な様子で情報を伝えるのは、犯人を喜ばせ、新たな愉快犯を刺激しかねません。
愉快犯による犯罪に関しては、冷静に、そして毅然とした態度が必要だと思います。
より良い報道を期待しています。
一連の毒物事件は、「許されない犯行」であり、「憎むべき犯人」とも言えるでしょう。犯人像として、残虐で、ふてぶてしくて、憎らしい犯人のイメージも湧いてきます。しかし、その一方で、「毒殺は弱者の方法」とも言われています。自分の腕や銃を使って人を殺すようなことができない人が選ぶ、殺人方法だからです。
過去の記録を見ても、体力的に弱い女性が男性を殺そうとしたり、社会的地位の下の人が、上の人を殺そうとする場合などがあります。
未遂で終わりましたが、1971年には、学校時代にいじめを受けていた人が、かつてのいじめっ子たちを毒殺しようと、同窓会にヒ素入りビールを持ち込もうとした事件もありました。
もしかしたら、今、いじめを受けたり、悩みがあって、自殺を考えている人がいるかもしれません。あるいは、その苦しさ、悲しさのために、誰かを殺してしまおうと考えている人がいるかもしれません。毒を使うのはいい方法だと考えている人がいるかもしれません。
でも、犯罪なんか犯したら、あなたの負けです。悪意をもってあなたをいじめた人のために、あなたが犯罪者になったりしたら、いじめっ子の思うつぼです。そんなことをしないで、あなた自身が幸せになることで、いじめっ子を見返して下さい。
さて、今、精神的に追いつめられている人に、友人や家族や教師としての、あなたの一言が救いになるかもしれません。不幸な犯罪被害者や加害者を出さないために、今、一言が必要かもしれません。
外見上、強そうで、乱暴そうな人でも、心の中は苦しみ、やけになり、犯罪を考えている人がいるかもしれません。あなたの助けを求めている人がいるかもしれません。
多発する犯罪の中で、用心することは確かに大切です。しかし、疑心暗鬼になり、地域の和が乱れていくのではなく、むしろ私たちが互いに助け合うことが、結局は犯罪防止にもつながるのではないでしょうか。
そして、卑劣な犯罪に勝利しましょう。
苦しんでいるあなたへ
あなたがどんなに苦しめられても、
犯罪を犯してしまっては、あなたの負けです。
もっと別の方法を考えて!
あなたを助けてくれる人もきっといます。
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犯罪を犯そうとしているあなたへ
日本の警察は優秀です。
犯罪、特に殺人なんて、割に合いません。
逮捕されます。犯人は惨めです。
未遂で終わっても、逮捕されなくても、
一生苦しみ続けます。
被害者の一生も、あなたの一生も、
あなたの家族の一生も、
だいなしだよ。
もっと自分を愛して、
自分の人生を大切にして下さい。
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