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里谷多英選手の金メダルで学ぶ
親子関係の依存と自律の心理学

里谷多英選手、フリースタイル女子モーグルで金メダル!

「お父さんにほめてもらえるのがうれしくて、スキーをしてきました。」

 自分のことを心から愛してくれて、スキーを教えてくれたお父さんへの、深い愛情と信頼感が感じられます。でも、父親に依存しすぎてしまっているとすれば、それは大人としての自律した生き方とは言えませんが。

昨年2月、長野の世界選手権で良い成績がとれなかったとき、

良い成績を出すことよりも良い滑りをすることの方が、お父さんはうれしいよ
と言ってくれたそうです。(2.11夜のラジオのインタビュー)

 お父さんは、「名コーチ」であると同時に、有能な「カウンセラー」かもしれません。世界を目指すのですから、結果がどうでもいいわけはありません。でも、結果を気にしすぎると、かえって良い結果は出ないことがあります。良い滑りをしようとか、自分の滑りをしようと思った方が、結果的に好成績をあげられることもあるのです。

 それに、「スポーツ競技」ではなくて、「人生」をかんがえても、やっぱり「良い滑り」をすることが大切なのではないでしょうか。

この親子にとっての「良い滑り」とは、「速い滑り」だそうです。速く滑ろうとする姿勢が、今回の金メダルにつながったとも言えるでしょう。

    

その最愛のお父さんが、昨年7月、他界しました。

 毎日新聞(2.12)によると、里谷多英選手は、父親の死後支えを失い、五輪出場どころか、スキーも止めようとしたそうです。

決勝前夜

 その苦しみを乗り越え、ようやくたどり着いた長野オリンピック決勝前夜。朝日新聞(2.12)によると、父への思いと決勝の重圧で、泣き出してしまったそうです。そのとき、里谷多英選手の14才の時からのコーチが、言いました。

泣いて、思いを吐き出しなさい。そして観衆の応援を重圧と感じず、自分のエネルギーにすればよい

    

おもいきり泣き、そして迎えた決勝。スタートの直前

ぜんぜんドキドキしなくなって、緊張感もとれた

コースしか目に入らなくなった。周りの声も耳に入らない

(TVのインタビューより)

速い、速い、滑り。大胆なジャンプ。

どんどん、前へ、前へ、向かっていく。

    

優勝を決めた後のインタビューで里谷多英選手は言っています。

「みんなの力をもらってがんばれたのだから、みんなにありがとうと言いたい。」

お父さんの写真を胸に、決勝に臨んだ里谷選手。会見では、こんなふうに話しています。

「父と一緒に滑りました。」

「でも、私のために滑りました。」


 金メダルへの物語であるのと同時に、自律への物語とも言えます。里谷多英選手にとって、お父さんは今も大きな存在です。「お父さんがいなかったら、メダルはとれなかった。お父さんってすごい」

 でも、彼女は、お父さんを喜ばせるためではなく、日本の名誉のためでもなく、自分自身のために滑ったのです。父親の死という悲しい出来事と、金メダルをとるまでの激しい戦いの中で、彼女は自律していったのです。

 自律した人間は、わがままな人間ではありません。自律しているからこそ、他者からの援助を受けることもできるし、他者に素直に感謝することもできるのです。

 そして、人が自律するためには、ある時期、依存することも必要です。甘やかさないのではなく、必要なときには、たっぷりと甘えさせることによって、自律への力が養われます。

 親の愛情をたっぷりと実感し、そして自律し、自律した人間同士が、互いに支えあっていくのです。

お父さんはすごい。

みんなにありがとう。

でも、自分のために滑りました。

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