心理学総合案内こころの散歩道/心のニュースセンター/長野オリンピック/里谷多英
里谷多英選手、フリースタイル女子モーグルで金メダル!
自分のことを心から愛してくれて、スキーを教えてくれたお父さんへの、深い愛情と信頼感が感じられます。でも、父親に依存しすぎてしまっているとすれば、それは大人としての自律した生き方とは言えませんが。
昨年2月、長野の世界選手権で良い成績がとれなかったとき、
「良い成績を出すことよりも良い滑りをすることの方が、お父さんはうれしいよ」
と言ってくれたそうです。(2.11夜のラジオのインタビュー)お父さんは、「名コーチ」であると同時に、有能な「カウンセラー」かもしれません。世界を目指すのですから、結果がどうでもいいわけはありません。でも、結果を気にしすぎると、かえって良い結果は出ないことがあります。良い滑りをしようとか、自分の滑りをしようと思った方が、結果的に好成績をあげられることもあるのです。
それに、「スポーツ競技」ではなくて、「人生」をかんがえても、やっぱり「良い滑り」をすることが大切なのではないでしょうか。
この親子にとっての「良い滑り」とは、「速い滑り」だそうです。速く滑ろうとする姿勢が、今回の金メダルにつながったとも言えるでしょう。
* * * * *
その最愛のお父さんが、昨年7月、他界しました。
毎日新聞(2.12)によると、里谷多英選手は、父親の死後支えを失い、五輪出場どころか、スキーも止めようとしたそうです。
その苦しみを乗り越え、ようやくたどり着いた長野オリンピック決勝前夜。朝日新聞(2.12)によると、父への思いと決勝の重圧で、泣き出してしまったそうです。そのとき、里谷多英選手の14才の時からのコーチが、言いました。
「泣いて、思いを吐き出しなさい。そして観衆の応援を重圧と感じず、自分のエネルギーにすればよい」
* * * * *
おもいきり泣き、そして迎えた決勝。スタートの直前、
「ぜんぜんドキドキしなくなって、緊張感もとれた」
「コースしか目に入らなくなった。周りの声も耳に入らない」
(TVのインタビューより)
速い、速い、滑り。大胆なジャンプ。
どんどん、前へ、前へ、向かっていく。
* * * * *
優勝を決めた後のインタビューで里谷多英選手は言っています。
「みんなの力をもらってがんばれたのだから、みんなにありがとうと言いたい。」
お父さんの写真を胸に、決勝に臨んだ里谷選手。会見では、こんなふうに話しています。
「父と一緒に滑りました。」
「でも、私のために滑りました。」
金メダルへの物語であるのと同時に、自律への物語とも言えます。里谷多英選手にとって、お父さんは今も大きな存在です。「お父さんがいなかったら、メダルはとれなかった。お父さんってすごい」
でも、彼女は、お父さんを喜ばせるためではなく、日本の名誉のためでもなく、自分自身のために滑ったのです。父親の死という悲しい出来事と、金メダルをとるまでの激しい戦いの中で、彼女は自律していったのです。
自律した人間は、わがままな人間ではありません。自律しているからこそ、他者からの援助を受けることもできるし、他者に素直に感謝することもできるのです。
そして、人が自律するためには、ある時期、依存することも必要です。甘やかさないのではなく、必要なときには、たっぷりと甘えさせることによって、自律への力が養われます。
親の愛情をたっぷりと実感し、そして自律し、自律した人間同士が、互いに支えあっていくのです。
お父さんはすごい。
みんなにありがとう。
でも、自分のために滑りました。
ソルトレイクオリンピック里谷多英選手の銅メダルで学ぶ 依存と自立成長の心理学
父の日に考える父子関係の心理学:悩むお父さんへの子育てアドバイス
次のページへ進む
パラリンピック開会式にも出演
レーナ・マリアの人生
長野オリンピック と パラリンピックで学ぶ
心理学(目次)へ
戻る
***
心理学入門|社会心理学|心のいやし・臨床心理学|やる気の心理学|マインドコントロール| ニュースの心理学的解説|自殺予防の心理学|犯罪心理学・少年犯罪の心理|宗教と科学(心理学)|プロフィール・講演|心療内科|リンク|今日の心理学 |