心理学総合案内こころの散歩道/心のニュースセンター/オリンピック/清水の金:新潟青陵大学碓井真史
清水宏保選手、スピードスケート500メートルで金メダル!
前回までの一発勝負とはちがい、インコースとアウトコース、2日間の記録で勝敗を決める今大会。一日目にトップをとった清水選手の緊張感は、とてつもなく大きくなって当然です。
ところが、清水選手は、勝負を決める2日目より、1日目の方が緊張していたそうです。さらに1週間前が一番辛かったそうです。彼は、どうやって緊張感を解いていったのでしょうか。
テレビのインタビューへの答え
「緊張やプレッシャーから逃げてはいけない。逃げようとすると、よけい緊張する。」
「自分でプレッシャーの中に入り、プレッシャーを味わうようにしている。」
清水選手によると、プレッシャーの中でも、ふとリラックスすることがあるそうです。そのとき、そのリラックスの感覚を忘れないようにする。リラックスと緊張を繰り返す中で、その感覚を味わい、覚えるようにするのだそうです。
これは、心理学的に考えても、納得のいく方法です。
強い緊張感を和らげる心理療法の一つとして、緊張とリラックスを繰り返す方法があります。わざと、身体に力をいれ緊張します。次に、力を全て抜いて、リラックスします。ただ身体の力を抜こうとするよりも、この方が、うまく脱力できるのです。
また、緊張している心身の様子、リラックスしている心身の様子を自覚することで、緊張を防ぎ、リラックスする方法を身につけることができます。
清水選手が、この心理学の方法をご存じなのかどうかわかりませんが、様々な経験と、彼のパーソナリティーによって、身につけた方法なのでしょう。
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2011年FIFAワールドアップで優勝した日本女子サッカーなでしこジャパンも、
そのPK戦で、見事な緊張とリラックスのバランスが見られました。
「スラップスケート」への切り替えは、先に筋力トレーニングをするべきだと考え、他の選手よりも遅かったそうです。その新しいスケート靴での練習中に、転倒してしまい、1週間練習を休まなくてはなりませんでした。オリンピックを前にして、普通なら焦りを感じるはずですが、清水選手は「休養がとれてよかった」と言っています。
優勝を決めたレースの4組前の選手が、激しく転倒しています。これにも、普通なら動揺するはずです。清水選手は、すでに準備を全部整え、すぐ近くで、このアクシデントを見ていました。
彼は一度スキー靴を脱ぎました。黒岩さんが「落ちついて、自分のレースを」と声をかけます。清水選手によると、これで落ちつけたそうです。「うん。自分の間合いだ」と心で感じたと語っています。
マイナスの出来事を乗り越えたと言うよりも、普通の人ならマイナスに感じるようなことを、彼はプラスに受け取り、実際に自分の力にしてしまっています。
「論理療法」を考案したエリスによると、人は不幸な出来事によって不幸になるのではない、出来事を不幸に解釈することによって不幸になると言っています。客観的な出来事自体よりも、それを自分自身でどう考え、どう感じるかによって、心への影響は、全く違うものになるのです。
清水選手の身長は161センチ、子供のころから小柄で、喘息もあったそうです。彼のお父さんは、身体が小さい分、人の倍練習しなさいと、励ましたそうです。そして、彼は超一流のスポーツ選手になりました。
もし、彼が大柄な人だったら、金メダリストにはならなかったかもしれません。
このように、弱点があるために、かえって努力することを精神分析学の言葉で、「補償」といいます。スポーツ選手が、子供のころ病弱だったので強くなるためにスポーツを始めたといった話は、珍しくありません。
身体が弱かったために、一生懸命勉強をして、良い成績をあげる人もいるでしょう。
子供のころ吃音(どもり)があり、そのために話をする訓練をし、人前で話すことを仕事とするようになった人達もいます。
こういう人達の「補償」は、成功した「補償」です。しかし、中には劣等感を消すために非行などに走る人もいます。過剰に「補償」しすぎようと思って失敗してしまう人もいます。
ちなみに、ナポレオンもヒットラーも小男でした。
(私の身長も、清水選手よりも低いほどです。自分の行動の中の何が「補償」なのかは、良くわかりませんが、もしりっぱな体格の持ち主だったら、たぶん違った人生を歩み、このホームページ「こころの散歩道」もなかったことでしょう。
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