心理学 総合案内 こころの散歩道/ 犯罪心理学 /少年犯罪の心理 /町田女子高生殺害事件  (新潟青陵大学・碓井真史)

「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」

少年犯罪の心理
町田女子高生殺害事件の
犯罪心理学

支えを失った少年
愛されたかった少年

2005.11.14(11.15補足)

事件のあらまし

 2005年11月11日朝、東京都町田市の高校1年生の女生徒(15)が自宅で刺し殺されていたのを仕事から帰宅した母親が発見した。被害者には50か所以上の刺し傷があった。10日夕方近所の住民が大きな物音や叫び声を聞いていた。
 警察は、12日未明、同じ高校に通う16歳の少年を逮捕した(この時間の逮捕は少年事件では異例)。二人は同じ団地内に住む幼なじみで、小中学校も同じだった。二人の間には交際していた関係などはないが、少年は「小中学校時代は同級生だったのに、高校になってから急に冷たくなったのでやりました」と供述している。
その後の調べによると、二人はほとんど会話したことはなく、中学3年になり、励ましの言葉を何度かかけてもらった程度だったようである。それにもかかわらず、少年は二人の間に交際があったかのような話を周囲の人間にしていたとみられている。
 少年は逃げ惑う少女を30分にもわたって追いまわし、切りつけたもよう。逮捕後も落ち着いている。被害者の家庭は母娘の二人家族だった。
***

少年の姿

とてもまじめでおとなしいタイプ。他の生徒が掃除をサボっていても、一人で掃除をするタイプ。小学校時時代は野球少年で、明るい様子も見られたが、次第に友達との関係も薄くなっていたようです。大人から見れば、何の問題もない、ふつうの子。

マスコミのインタビューに答えている周囲の少年たちは、「あいつはマジメだ」と、否定的な意味合いを込めて語っているように感じられました。

中学2年生のときに、父親が死亡します(父親が亡くなってから様子が変わったと語る人もいます)。


少年の文章

【小学校の卒業文集】
「好きなスポーツは野球です。守り内野は、ファーストで、外野はライト、センター、レフト、全部やっています。」
「勝利の夢は野球選手になることです。」
自分は何でもできると感じている子どもらしい万能感を感じます。ただ、同じ卒業文集の中で、こんな部分もあります。
「もしも生まれ変わったら」という質問への答えとして
「サメになってみたいです。なぜなら強いからです」と答えています。

もっと強くなりたいというのは、小学生の男の子としては自然でしょう。ただ、もし生まれ変わってもっと強くなりたいと言うのであれば、たとえば、「王様」とか「ウルトラマン」とかを思いつくかもしれません。あるいはどうぶつなら、まずは「ライオン」でしょう。あるいは、もっと孤独で強い存在なら「トラ」でしょう。
それが、「サメ」であるのは、すこし珍しいと思います。
ライオンは、百獣の王のイメージです。家来が仲間がたくさんいるでしょう。強い猛獣ですが、子どもには優しいでしょう。太陽が輝くアフリカのサバンナにいるのが、ライオンです。

ところが、サメには、哺乳類のような優しさをイメージする部分があまりありません。暗く冷たい海のそこで、非常に冷酷で、そして強いイメージです。
もしかしたら、彼はだんだんと人間関係が上手くいかなくなりつつある自分を感じていたのかもしれません。

あるいは、ただサメが好きだっただけかもしれませんが。
***
【中学校の卒業文集】
楽しかった思い出として彼は奈良への修学旅行を選んでいます。
「修学旅行、学校生活で一番の思い出があり、楽しい二泊三日です。奈良では、最初の東大寺に行き、中に入ってみたら十五Mくらいのでかい大仏があり、裏にもいろんな形をした像や絵がありました。いろんな物を見て、旅館に帰り、食事して、寝て、一日が終わった。
中略〜
印象に残ったのは、金閣寺でした。やはり金の寺だから印象に残ったのかもしれません。見終わってたくさんおみやげを買って、そのまま京都と分かれた。こういう思いがあり、いい思い出になりました。」

文書をよんでまず感じるのは、幼さです。中学の3年間で文章面ではあまり進歩を感じられません。そして、上では略した部分も含めて、友達のことが何も出てきません。何かを見た。寺を見た。体験でお菓子を作ったなど、一人旅でも経験できることばかりが書いてあります。
そして、同じ卒業文集の中で、
「このクラスで1番の思いでは?」と質問され、次のように答えています。
「特にない」
修学旅行で見学したことは楽しい思い出であっても、クラスのみんなとの楽しい思いでは、彼にとってはなかったのでしょうか。

少年の成長、少女への思い、依存の対象

思春期の子ども達にとって、友人の存在はとても大切です。第二次性徴、心と体の変化、親との葛藤、異性への思い、少年たちの心は揺れ動きます。そんな時助けてくれるのが、友達です。
児童期には親にべったりとついていた子ども達が、思春期になると、親よりも友達を地亜切にしたりします。親の指示より、友人との約束を優先したり、親にもいえない秘密を友達に話したりします。
こうして、少年たちは成長していきます。
しかし、この事件の少年はそれに失敗してしまったようです。少し乱暴でがさつな男の子達の世界へ、彼は入り損ねてしまったようです。
クラスの中には、少数ながらまじめでおとなしいグループもあったのではないかと思いますが、彼はそこにも入れなかったようです。
中学2年生のとき、彼は父親を失います。どんな父子関係だったのかは情報がありませんが、家族は大きな柱を失います。思春期の男の子にとって、大切な、頼るべき存在が失われました。
大切な家族を失った後に強行に走る例はたくさんあります。たとえば、神戸の酒鬼薔薇事件でも、心を許していた祖母が亡くなったあとに、少年はネコ殺しをはじめています。
ギリギリのところでバランスを保っていた少年たちは、家族のバランスが崩れたとき、対応ができないのでしょう。
思春期、青年期を乗り越えて、大人として自立していくためには、自分を守ってくれる優しくて強い存在が必要です。そのような良い意味での依存の対象がしっかりとあってこそ、そこから力強く巣立っていくことができます。
今回の少年には、親しい友人もなく、父親も突然いなくなってしまいました。
もしかしたら、少年にとっては、被害者少女が、最後の心の支えだったのかもしれません。依存の対象だったのかもしれません。幼なじみの、優しくて、明るくて、元気な少女。その女性に、拒まれたとき、彼の心の糸はプッツリと切れてしまったのかもしれません。
 少年は急に冷たくなったと言っていますが、少女は普通に接していたのではないでしょうか。ただ、もう子どものときのようには一緒に遊びません。少年にとっては、同級生ので大好きな少女と同じ高校には入れたのですから、有頂天になった部分があったかもしれません。
しかし、彼女にとっては、ただの昔から近所に住んでいる男の子に過ぎなかったのでしょう。その現実を理解せず、近づいてきた少年に、きつい言葉もでたのかもしれません。

愛されたい少年・ふつうの少年

今回の事件は、一方的な方思いの少年が起こした事件といえるでしょう。さて、成熟した大人の男の恋とは、相手の女性を愛し、その女性の幸せを願い、相手を守ろうとする愛情です。
しかし未成熟な少年の恋は、同じ愛していると言っても、実は自分の方が愛してもらいたいのです。だから、思いが届かないとき、心は激しく動揺します。
同性の親しい友人がいたり、家族が愛し支えてくれれば良いのですが、それがなければ、その人との関係が切れてしまえば、もう人生おしまいです。
少年は手のかからない「ふつうの子」でした。
特別な能力を発揮し、賞賛されることは、ありませんでした。一方、悪さをして叱られることもありませんでした。
悪いことはしない方が良いでしょうし、叱られない方が良いでしょう。しかし、叱られることで、様々な人間関係を学ぶこともあります。叱るとか、説教とかといった形でも、先生と深く関わることになります。
「ふつうの子」は、うっかりすると、その経験が乏しくなります。
手のかからない子ほど、手をかけてあげる必要があるのです。

なぜ50カ所も

被害者の女性には50もの傷がありました。
(その姿を最初にみつけたお母さんのことを思うと、心が深く痛みます)
さて、こんなにひどい刺し方を見ると、その残酷さ強く感じられる方もいるでしょう。しかし、もしもプロが人を刺し殺そうと思えば、一撃で致命傷を負わすでしょう。素人で、おびえ、冷静さを失っているからこそ、傷は多くなることがあります。
あるいは、最初の血を見たとき、彼は「血の酩酊」状態といわれるような、興奮状態になっていき、さらに刃物を振り回したのかもしれません。
少年はこのときのことをあまり覚えていないようです。自分も10針も縫うようなケガをしていますが、そのケガにも後になって気づいたと言っています。

なぜ、キレる。

キレる少年の多くは、劣等感を抱えています。思い通りにならない部分が多く、欲求不満を溜め込んでいます。今までおとなしかった少年ならなおさらのこと、多くを溜め込んでいたことでしょう。キレる少年たちの多くが、少なくとも主観的には、辛い体験をしてきています。
このような中で、キレる準備状態ができあがります。今にも水があふれそうなコップの状態です。わずかなできごとで、水はあふれます。
ささいなきっかけで、少年の心にあるさまざまな怒り、不安、絶望感、憎しみ、恐れなどが、吹き出します。周囲から見れば、どうしてこの程度のことで、こんなに激しく感情的になったのかわからないキレた状態になってしまうのです。
こうなってしまえば、感情の嵐が脳の中で吹き荒れ、もう理性で行動をおさえることができなくなってしまいます。

叫んでいた少年

少年は事件の前、夜中に自転車に乗り、何か叫んでいたと言います。心は爆発寸前だったのでしょう。しかし、夜中に暗闇に向かって叫ぶのではなく、昼間に誰かに向かって言葉で語っていたら、今回の事件はなかったかもしれません。被害者が出ることもなかったかもしれません。
だれかが、少年の言葉を聞いてあげていたらと思うと、残念です。

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