心理学総合案内こころの散歩道 /自殺の心理/ロス疑惑(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)
08.10.12(10.13加筆)
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
ロス疑惑。愛妻をロサンゼルスで銃殺された悲劇の夫。しかし、後にその事件は「疑惑の銃弾」として、世間を騒がし、夫である三浦和義氏は逮捕されることになります。この前後のマスコミの騒ぎ方は、現在では考えられないほどの異常ぶりでした。
「悲劇の夫」だったころも、彼の言動はとてもドラマチックでした。自分に関する報道に対しては、彼は次々と名誉毀損などの民事裁判を起こしました。彼は多くの裁判に勝ち、多額の賠償金も手に入れます。
妻殺害容疑の裁判の結果は無罪でした。
しかし、彼は再びサイパン(アメリカ)で逮捕され、再び社会の注目を集めます。彼は逮捕の無効を訴えましたが、ロサンゼルスに移送されることになりました。いつもながらの強気の態度を示しながら。
そして、ロサンゼルスに到着して16時間後。彼は自らの命を絶ちました。
日本中に「ロス疑惑の三浦和義元社長自殺」と臨時ニュースが流れ、人々に衝撃を与えました。その直後から、膨大な報道がなされています。
今回の出来事は、長年注目されてきたロス疑惑事件の終結として報道されいます。そのとおりですが、大きな自殺報道、センセーショナルな自殺報道は、次の自殺を誘発することを忘れてはいけません。(群発自殺、連鎖自殺)。
特に同じような事情、境遇、類似点のある人が要注意です。たとえば、「いじめ自殺」が大きく報道されると、似たような事情の自殺が続いたりします。最近、韓国から、「ネットによる誹謗中傷で芸能人が自殺」といニュースが続いていますが、これも自殺連鎖の一つでしょう。
悩んでいる人へのあなたの一言が、その人の命を救うことになるかもしれません。
自殺の連鎖を防ぐためには、メディアも注意が必要です。
○センセーショナルな報道の仕方をしない。
○自殺方法を具体的に伝えない。
○自殺を美化するような報道はしない。(「潔い死に方だ」など)
○自殺の理由を単純化しすぎた報道をしない(「いじめ自殺」「不況自殺」など)
○自殺という行為を非難しすぎない。(自殺する人は弱い、最低だ」など)
今回は、大きな報道がされてしまっています。特殊な事例だとはいえ、死を考えている人びとには影響を与えかねません。大きな自殺報道をする時には、かならず自殺予防の側面からの情報も尽かししなくてはなりません。
自殺を美化することは、次の自殺を生むでしょう。一方、自殺という行為を非難しすぎることもまた、注意が必要です。死を考えている人びとの心をさらに追い詰めかねないからです。
ロス疑惑問題としてではなく、自殺報道の問題であり、自殺予防のことを忘れてはいけないという観点をなくしてはいけないでしょう。
(もちろん今回の場合は、逮捕が正当だとするならば、きちんと法に従い裁判を受けてほしかったことは言うまでもありませんが。)
とてもユニークな人でした。
精神科医の中には、彼を「演技性人格障害」だと考える人もいます。人格障害とは、個性の幅を超えて大きく歪んだ性格のことで、演技性人格障害は、簡単に言えば、極端な目立ちたがり屋です。嘘をついてでも、人の目を引こうとする行動も見られます。行き過ぎれば、自己破滅的な行為までしてしまいます。
わかりません。単純な理由づけもよくないでしょう。
しかし、彼はもっとも自殺しそうにないタイプともいえるかもしれません。その彼が自殺しました。
自殺は、すべての人に可能性があるのです。これまでも、強く見える人、前向きに見える人、りっぱな方々など、「最も自殺しそうにないタイプ」の人びとが自殺を実行してきました。
直前にとても明るい人もいます。何かの入会金を払うなど、死ぬとはとても思えない行動をとっていた人もいます。明るく見えるだけだった人もいるでしょう。また、突然死を考えた人もいるでしょう。
三浦和義元社長が何を考えていたのかはわかりません。ただ、「強い人」は意外ともろい人なのかもしれません。
また、自殺に関する研究によれば、自殺直前の心理状態は、次のように説明されています。
1 閉塞感:心理的にも、状況的にも、人間関係においても、八方ふさがりで、どうしようもないという感じです。
2 攻撃性の転移:他者や社会に向けたれていた敵意や攻撃心が自分自身に向けられると、自殺の危険性が高まります。
3 自殺幻想:自殺への万能感ともいえるでしょう。自殺すればすべてが解決するし、自殺しか方法がないと思い込みます。
さらに、自殺研究の専門家である高橋祥友先生は、自殺者に共通する心理を、次のようにまとめています。
1 極度の孤立感
2 無価値感
3 強度の怒り
4 窮状が永遠に続くという確信(この苦しみは終わらない)
5 心理的視野狭窄(柔軟な見方ができない)
6 あきらめ
7 全能の幻想(死によって今の問題は一気に解決できる)
*あなたや、ご家族、友人が、このような心理状態であれば、すぐに専門医のところへ行くことをおすすめします。
自殺は伝染しますが、伝染病を予防できるように、自殺の伝染も防げます。
報道された亡くなられた方と同じような悩みを持った人が近くにいれば、要注意です。ぜひ、一言かけてください。
親御さんや、先生方は、自殺は伝染する可能性があると自覚され、あなたの周りの青少年を見てください。
そして、話を聞いてください。
死にたい思いを語った時に、
「そんなことを言うな」「死んで花実が咲くものか」などと簡単に言わず、
その人の話を聞いてください。
「死にたい」という言葉だけではなく、「消えたい」とか「いなくなりたい」といった言葉も同じです。
誰でも、こんなことを突然言われたら、動揺し、不安になります。人は不安になると正論を吐きたくなります。「死んではだめだ」「生きていれば良いことがある」などと。正論を言っているうちに、自分が落ち着いてきます。そうすれば、「別ったね、死ぬんじゃないよ」と」言い残して去るわけです。
悲しみ、絶望、孤独感のどん底にある人は、こんな話を聞いてもなかなか心ははれません。それどころか、「ああ、この人も、私の苦しみを理解してくれないのか」とさらにさびしくなるでしょう。
暗い話を聞くのは、聞くほうもエネルギーが要ります。しかし、話を聞く態度こそ必要なのです。
理詰めで説得しようとするのではなく、話を聞き、共感し、あなたが死んだら私は悲しいという気持ちを素直に伝えることが大切だと思うのです。
「死なないで」とか「自殺はだめだ」と言ってはいけないというのではありません。ただ、単純に善悪の判断をして、相手を黙らせるのではなく、その人と共に歩む姿勢で会話を続けましょう。
今は心が弱っていて、あなたがどんなに感動的な話をしても、相手は心を動かさないかもしれません。でも、それでもいいのです。ともかく今日自殺を思いとどまれば、また明日は来るのです。
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