新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/中央大学教授殺人事件の犯罪心理学




犯罪心理学:心の闇と光

中央大学教授刺殺事件の犯罪心理学

2009.5.21〜5.25


中央大学教授刺殺事件のあらまし

2009.1.14中央大学教授が大学内のトイレで刺殺される。
2009.5.21被害者の元教え子で卒論指導も受けていた28才の男性が容疑者として逮捕される。
供述によれば、凶器を準備して、「初めから殺すつもりで大学に行った」と容疑を認めるている。しかし、動機については「今は話したくない」 と語っている。
犯行は数ヶ月前から考えており、凶器は高枝切りばさみを加工したものだった。

中央大学教授刺殺事件 容疑者男性

まじめな学生でした。中央大学理工学部現役合格ですから、成績も良いほうでした。しかし人間関係は苦手でした。高校でも、大学でも、仲の良い友達はいなかったようです。
ゲーム好きで「オタク」だったという人もいます(ゲームやオタクが悪いわけではありませんが)。
大学は1年留年して卒業しています。これも、学力が足りなかったというよりも、人間関係がうまくいかず授業に出席できなかったことが原因のようです。
卒業後は、職を転々としてきました。犯行時は、アルバイトをしていました。彼の逮捕を聞き、バイト先の店長は、「素直でまじめ。まさか彼が」と絶句したといいます。

容疑者の家庭環境

1人っ子として両親のもとで育ってきました。母親は教育熱心であり、溺愛していたと語る周囲の人もいます。
母親は息子の進路に関して別の希望も持っていたようですが、彼は理科系の大学に進みます。
父親に関しては、余り存在感を感じないと語る人もいるようです。
報道によれば、容疑者の母親は、次のように知人に話していたといいます。
「息子に社交性がなく、悩んでいる」
「息子は友達がいないようだ」
「大学で1人で弁当を食べているようだ」
「仕事が決まってもすぐ辞めてしまう」
1人息子のことをとても心配している母親の姿が浮かびます。
ただ、この母親は大学生の息子が誰と一緒に昼食を食べているかを気にかけ、心配する母親だったわけです。
(母親のほうから聞き出したのか、息子のほうから積極的に話したのかはわかりませんが。)
彼が自分の専門に最も近い都内の電子機器関連会社を辞める際には、「仕事が難しいから辞めたい」と彼自身が辞表を提出しています。
その後、母親が会社に電話をして「仕事を続けさせてほしい」と話しています。母親は本人も説得し、彼も辞表を撤回しましたが、会社は撤回を認めませんでした。

性格と家庭環境と犯罪

現在(5/25)のところ、まだ詳しい情報は入っていません。ただ彼は人間関係が苦手でした。母親は、かなり彼の面倒を見ていたようです。
こういう言い方をすると、母親の育て方が悪かったように聞こえますが、そうとは限りません。彼は生まれつき人間関係がうまくいかなかったのかもしれません。それに加えて、母親の養育態度も影響したのかもしれません。
違う養育態度なら、彼も違った人間になっていたかもしれませんが、しかし彼が生まれつき今とは異なる子供であったなら、母親の養育態度も変わっていたかもしれません。母子関係は、母と子の相互作用から生まれるのです。
しかし、今までの報道内容からすると、「遠すぎる父親、近すぎる母親」といった家庭のイメージが浮かんできそうです。
これは、様々な青少年犯罪者の家庭に見られるパターンです。
父親の存在感が薄いために、母親は子育てにのめりこみ、その結果子どもは自由が奪われ、強さも育ちません。
溺愛されている少年は、本来なら思春期の頃に友人たちから学べるはずだった人間関係の在り方を学べないまま育ってしまいます。
また、子育てに一生懸命なあまり、自分の理想を子どもに押し付け過ぎてしまい、子どもの健康な成長が損なわれてしまうこともあります。
こうして、世の中とうまくいかない人間が育ち、それが犯罪の遠因となることもすくなくありません。

中央大学教授刺殺事件の犯行動機

彼は具体的な動機をまだ語りません。再就職にあたって被害者の教授に相談したかもしれません。
彼は、決して無能ではありませんでした。努力もしていました。しかし、人生はうまくいきませんでした。
そんなとき、人は自分を責めます。それでも自分の価値を信じることができれば、人生の再スタートを切ることができるのですが、自分を信じられない(愛され必要とされていると実感できない)ときには、ますます自分を強く責めます。
そしてもうこれ以上自分を責めたら心が壊れてしまいそうになったとき、心は突然反転して、悪いのは自分ではなく、親や先生や社会だと考えて、恨みの感情をもちます。これも、このような逆恨みから、先生への殺意を持ったのでしょうか。

犯行を止めるもの:心の絆

自分が得をするために犯罪を犯す人は、簡単には殺人などしないでしょう。彼自信も、いずれは捕まるだろうと思っていました。
殺人を犯すような人は、自分の人生を大事に思えない人なのです。
人が犯罪を犯さないのは、社会とつながり(ソーシャル・ボンド:社会的絆)があるからだという犯罪心理学の理論があります。
大事な家族がいる。職場の仲間がいる。大好きな趣味がある。社会の中にあって失いたくないものの存在が、心にブレーキをかけるのです。
しかし恩師である中央大学教授を刺殺した彼の場合には、家族にも職場にも友人にも、彼を引き留める力がなかったようです。
先生に恨みを持ち、数か月もの間恨みを増幅し続け、犯行現場の下見に行き、凶器を加工する。おそらく、彼の頭の中には先生を殺害する恐ろしいイメージがわいてきことでしょう。そして、その恐ろしい想像の世界から彼を現実の世界へと引き戻る力が、存在していなかったのです。
彼の想像は、とうとう現実のものとなってしまいました。

 
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>>中央大学教授刺殺事件の犯罪心理学:子どもを追い詰めない親子関係
容疑者男性のノートにつづられた言葉「自分は変わらなければならない」。でも、その言葉が彼を犯行へと追い詰めた!?
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人間関係がうまくいく図解 嘘の正しい使い方―ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則 』:追い詰めない叱り方、上手な愛の伝え方
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「うらみ」の心理―その洞察と解消のために
『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
テロリズムとは何か (文春新書)
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FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記 (ハヤカワ文庫NF)
犯罪心理学―行動科学のアプローチ

『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)』

 

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「心理学総合案内・こころの散歩道」から5冊の本ができました。
2008年9月緊急発行
碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか

2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者

2000年

なぜ少女は逃げなかったのか続出する特異事件の心理学
「誰でもいいから殺したかった青年は、誰でもいいから愛してほしかったのかもしれない。」
☆愛される親になるための処方箋  本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等)
bk1書評「本書は,犯罪に走った子ども達の内面に迫り,心理学的観点で綴っていること,しかも冷静に分析している点で異色であり,注目に値する。」  本書について 「あなたは、子どもを体当たりで愛していますか?力いっぱい、抱きしめていますか?」 本書について 「少女は逃げなかったのではなく、逃げられなかった。それでも少女は勇気と希望を失わなかった。」 本書について

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