秋葉原通り魔事件(秋葉原無差別殺傷事件)について、心理学から考える。
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犯罪心理学:心の闇と光

秋葉原殺傷事件の犯罪心理学3

犯罪被害者、家族の心の傷と癒し

2009.6.6

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被害者と家族にとっての1年

事件から1年が過ぎました。1年は、長い時間です。しかし、犯罪被害者やご家族の方々にとっては、たったの1年でしょう。
あの日から時計が止まったようだと語る被害者と家族の方々は、たくさんいます。
今回、事件から1年にあたり、また多くの報道がなされています。
殺害された大学生の父親(54)は、1年たった今でも


「被告への憎しみ、子を失った悔しさは時間がたっても変わらない」
「通勤途中に電車で同じ年ごろの若者を見掛けると「なぜ息子はいないのか」と胸が張り裂けそうになる。」

と語っています。
おそらく、多くのご遺族が同じ思いでしょう。
むしろ、1年がたち、またあの季節がめぐってきて、悲しみと怒りが再度強くなている方々も多くいらっしゃることかと思います。

被害者のPTSD

災害被害や、犯罪被害を受けた方々の心に傷が残り、あとまで影響が出ることを、PTSD 心的外傷後ストレス障害といいます。
大きな衝撃を受けた人ならば、誰もがそうなっても不思議はありません。
PTSD の症状としては、
  1. 侵入(突然その時の恐怖がよみがえるなど)
  2. 回避(自県の場所や似たような環境に近づけないなど)
  3. 覚醒(小さなことにもびくびくしてしまうなど)
などがあります。
私が、ある犯罪被害者である女子学生と話した時、
「もう事件から数カ月たちようやく家族も落ち着いてきたのに、また悪夢を見るようになってしまった。私はおかしくなったのだろうかと」相談を受けました。「親にこれ以上迷惑をかけられず、親にも話せない」と語っていました。
このときには、まだPTSD といった言葉もあまり浸透していませんでした。
私は、それは大きな心の傷を受けた人にとっては当然のことだと説明し、親にも相談しよう、親には迷惑をかけてもよいと、話をしました。
被害者の方の中には、体の傷が治り、示談や裁判が終わったとしても、なお苦しみ続ける人々がいるのです。
PTSD 心的外傷後ストレス障害(心の傷にまけないために)

犯罪被害者の心の傷

さらに、『犯罪被害者の心の傷 』によれば、犯罪被害者の場合は、次のような心の傷、症状をもちやすくなります。
  1. 恥:被害にあって恥ずかしいと思ってしまう。
     
  2. 自責:自分を責める。
     
  3. 服従:無力になって人の言いなりになってしまう。
     
  4. 加害者への病的な憎悪:憎むのは当然なものの常軌を逸した憎悪。
     
  5. 加害者への逆説的な感謝:ストックホルム症候群など。
     
  6. 汚れてしまった感じ:特に性犯罪の場合に陥りやすい。
     
  7. 性的抑制:男性とつきあえなくなるなど。
     
  8. あきらめ:意欲をなくしてしまう
     
  9. 二次受傷:世間からの非難中傷など。
     
  10. 社会経済状況の悪化:会社や学校を辞めざるを得なくなる。
    (私が以前お会いした殺人の被害者ご遺族の方も、当初自分が疑われたこともあり、職場を辞めざるを得なくなったと話してくれました。)
被害者の苦しみは私たちの想像をはるかに超えて、長く深く続きます。ご家族も、同様の苦しみを味わうこともあるでしょう。
長期にわたる親身な支援が必要です。
その結果、長い長い時間はかかるでしょうが、被害者もその方本来の輝きを取り戻していくのです。

死別の悲しみと癒し

時を戻し、亡くなられた方と再び会うことはできません。ご遺族の思いはどれほど深く悲しいことでしょうか。普通の死別を乗り越えるのも、大変なことです。殺人の被害であれば、その困難さはさらに大きいことでしょう。
ここでは、まず一般の死別の悲しみを癒す方法について考えます。
(このような箇条書きで書き表すこと自体、心苦しくは思うのですが)

死別の悲しみを癒すための10の指針

(『愛する人を亡くした時から)

(1)どのような感情もすべて受け入れよう
(2)感情を外に表そう
(3)悲しみが一夜にして癒えるなどとは思わないように
(4)わが子とともに悲しみを癒そう
(5)孤独の世界へ逃げ込むのは、悲しみを癒す間違った方法
(6)友人は大切な存在
(7)自助グループの助けを借りて、自分や他の人を助けよう
(8)カウンセリングを受けることも、悲しみを癒すのに役に立つ
(9)自分を大切に
(10)愛する人との死別という苦しい体験を意味ある体験に変えるよう努力しよう
*あなたの最愛の人が生きていれば、あなたにこのように生きて欲しい、このように人を愛してほしい、このように奉仕してほしい、と期待したであろうその期待に応えられるような生き方を決心ししよう。
(こんなに順調にことが進むわけもないのですが、それでもいつかそうなれると思いたいのです。)
災害時の心のケア:喪の作業:ご家族ご友人を亡くされた方へ

忘れることはできないが

周囲の人の中には、時間がたてば、「忘れましょう」という人もいます。しかし、忘れることなどできるはずもありません。
忘れるのではなく、乗り越え、癒されるのだと思います。
もちろん、今すぐそうしましょうというのではありません。そんなこと、できるわけがありません。
しかし、いつかその日が来るのだと思います。

***

裁判前に争点を絞り込むために行う公判前整理手続きが、6月22日に始まることが決まりましたた。裁判自体は、まだ日程さえ決まっていません。
負傷された被害者の方々とご家族、そして亡くなられたご遺族の方々の苦しみとた戦いは、まだこれから始まるのです。
公正な裁きを見守り、被害者の保護と支援に努める。それが、私たちの役割です。

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2008年9月緊急発行
碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』 
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係が上手くいく嘘の正しい使い方ホンネとタテマエを自在に操る心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか
2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者
2000年

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「誰でもいいから殺したかった青年は、誰でもいいから愛してほしかったのかもしれない。」
☆愛される親になるための処方箋 本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等)
bk1書評「本書は,犯罪に走った子ども達の内面に迫り,心理学的観点で綴っていること,しかも冷静に分析している点で異色であり,注目に値する。」  本書について 「あなたは、子どもを体当たりで愛していますか?力いっぱい、抱きしめていますか?」 本書について 「少女は逃げなかったのではなく、逃げられなかった。それでも少女は勇気と希望を失わなかった。」 本書について


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