心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/自殺の心理/松平健妻自殺新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)

松平健の妻自殺から考える自殺予防の心理学

妻を自殺から守るために

2010.11.22

ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
自殺予防のために・いのち輝かせるために

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松平健さんの夫人松本友里さん (42)が、亡くなられました。自宅自室のドアノブを使い首をつって自殺と報道されています(2010.11.16)。子どもも生まれ仕事も順調な、幸せだったはずの家族に何があったのでしょうか。
ドアノブを使う自殺は、不自然に思われるかもしれませんが、珍しいことではありません。でも、やはりかなり追い詰められた末の衝動的な自殺だったのかもしれません。


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松平健さんの妻松本友里さんの心の病

松平健さんの奥様は、芸能界で活躍されてきましたが、近年はパニック障害、不眠症、うつ状態といった心の病に襲われていたようです。パニック障害は、以前の言い方で言えば不安発作(突然の激しい不安症状)を伴う不安神経症(いろいろな場面で不安になりやすいノイローゼ状態)といえるでしょう。友里さんは、心のバランスを崩されていたようです。

母の死:対象喪失

自殺された松本友里さんには、とても仲の良いおお母さんがいました。関係者の中には、「一卵性親子」などと呼ぶ人もいるそうです。母と娘の二人で、芸能界を生きてきたのでしょう。友里さんにとっては、とても頼りがいのある母親絵あり、おそらくこの数年は、健康を害した母親に頼られる存在でもあったことでしょう。
このように深く愛する大切な存在を失うことを、「対象喪失」といいます。対象喪失は、まるで体の一部をもぎ取られるような苦しみです。自らの死を考えることも、珍しいことではありません。
死別の悲しみを乗り越えるためには、しっかり悲しむことが必要です。とてつもなく悲しいとき、 どうしようもなく落ち込むときには、悲しんで、落ち込んでいいのです。その先に、また生きる意欲がわいてきます。

生活の変化、ストレス

心は、様々な生活上の変化によって、ストレスを受けます。良いことであっても、心には負担になることがあります。昇進や、海外旅行は、良いことでしょうが、やはり心の疲れにはつながります。
友里さんは、2005年に松平健さんと結婚。仕事をやめ、専業主婦に。2006年に結婚式と披露宴、出産。その後、この数年の中で、子どもの入園や、母の健康状態の悪化などがあったことでしょう。2009年には新居に引越し、当初は夫婦と子どもの3人ぐらいでしたが、後に介護が必要な母親と同居しています。そして2010年6月に母親が亡くなっています。
少しずつ心のバランスを崩している中で、結婚、出産、転居、同居(家族構成の変化)、そして家族の死を、次々と体験していったことになります。心のストレス、心の疲れが、徐々にたまっていったのでしょうか。

松本友里さん

松本友里さんは、とても良い人だったようです。車椅子の母親をデイケアセンターの送迎車に優しく乗せる姿が何度も目撃されていたそうです。
友人たちによると、とても明るくて元気な人だったようです。高校時代の友人は、「底抜けに明るい子」「彼女の不機嫌な顔だとか疲れた顔だとかを一切見たことが無い」「常にクラスメートに対して笑顔を振りまいていた」と言います。
母親が亡くなった後も、ふさぎこんではいたのですが、しかし周囲の人には気丈に振舞っていたと言います。
まじめで、明るくて、よく気のきく、有能な方だったようです。でも、そいういう方が、しばしばうつに悩みます。
もっといい加減で、弱い自分が出せれば、結果は違っていたかもしれません。介護の疲れ、子育ての疲れも、たまっていたのかもしれません。

小さな子どもがいたのに、なぜ

亡くなられた友里さんには、4歳の子どもがいました。常識的には、小さな子を残して死ねないだろうと思えます。しかし、自殺を考える人は、心理的な「視野狭窄(しやきょうさく)」状態になっています。周囲のことを考えられなくなることもあるのです。
また、うつの母親の中には、家族のことを考えないのではなく、考えすぎて苦しくなる人もいます。
うつで思い通りに家事ができず、思い通りの笑顔になれない自分を激しく責めます。こんなだめな母親、妻は、いなくなった方が、子どもや夫のためなのではないかと思ってしまうこともあります。子どもや夫を忘れて死を選ぶのではなく、子どもや夫の幸せを願いすぎた結果、自ら死を選んでしまうこともあるのです。
自分を犠牲にして家族のことを考えてはいけません。みんなが幸せになって、結果的に家族みんなが幸せになるのです。

呪われた?堀越学園3年D組、悲劇相次ぐ?84年組

一部メディアでは、そんなことを言う人もいます。友里さんが所属していた堀越学園3年D組には、当時衝撃的な自殺報道で大きな話題になった岡田有希子さんも、所属していました。(また何人かの人が病死されています)
呪われてなどはいませんけれども、身近な人の衝撃的な自殺は、やはり自殺への危険性を高める一つの要因になるでしょう。
松本友里さん、岡田由紀子さん(86年4月8日没)をはじめ、同じ84年デビュー組の可愛かずみさん(97年5月9日没)、戸川京子さん(2002年7月18日没)も自殺されています。呪われてなどはいません。単なる偶然かも知れませんし、あるはアイドル全盛時代にデビューされた方々は、大きなストレスを抱えて生きてきた人々が多いのかもしれんません。
呪われてはいませんが、高校のクラスと同様に、同期の人の自殺も、自殺連鎖の危険性を高めるでしょう。

妻のうつ、妻の自殺予防、母のうつ、母の自殺予防

うつの時には、休息をとることが必要です。しかし、家事や子育てを担当する妻や母親は、なかなか休めません。病気で会社を休めば、家で堂々と寝ていられるお父さんとは違います。365日、24時間営業です。
今回も、ベビーシッターがいましたが、どの程度活用していたかはわかりません。家族の世話を他人に頼むことに抵抗を感じる主婦も少なくありません。
でも、休むのも仕事です。お母さんにとっても、自分を守ることも、大切な役割なのです。

死にたいと言われたら

友里さんも、「死にたい」と周囲に語っていたそうです。突然「死にたい」「自殺したい」などと言われたら、動揺するのは当然です。でも、ごまかさず、説教をせず、きちんと話を聞くことが大切です。
そして、「あなたが死んだら私は悲しい」という思いを伝えていきましょう。
また、うつ状態がひどく、自殺への思いが強い時には、できれば入院されることをおすすめします。

自殺連鎖を防ぐために

大きな自殺報道は、気をつけなければ、次の自殺を生み、自殺連鎖が起きてしまいます。同じような立場の、同じような悩みの人が、もっとも危険です。自殺を防ぐ特効薬はありませんけれども、尊い死を無駄にしないためにも、しっかりと学び、互いに心の疲れをいたわっていけたらと思います。

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リンク

日本臨床心理士会「自殺に関する報道についてのお願い」について

WHOによる自殺予防の手引きpdf

いのちの電話」 「自殺予防総合対策センター

東京自殺防止センター」  「NPO 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター

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