被災者を傷つけないために:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学東日本大申請の災害心理学癒しと臨床心理学入門/被災者を傷つけないために避けたい態度、言葉/(新潟青陵大学碓井真史

被災者を傷つけないために

避けたい言葉・「がんばれ」「がんばろう」と言ってよい人

2011.3.31(加筆4.8、4.21)


 

被災者という言葉

私は、地元が被災地になるまで気づきませんでした。被災地にいて災害にあった人々をまとめて「被災者」と呼ぶことに対する違和感を。いえ、誤解していいただきたくないのですが、この言葉を使ってはいけないというわけではありません。
でも、昨日まで他の人たちと同じように元気に生活してきた人が、ある日突然「被災者」になってしまい、同情されてしまうことに違和感を感じたということです。
それは、言葉の問題ではなく、私たちの態度、考え方の問題です。
私の友人は、障害(障がい)を持っています。ある日、役場の人が来て、「この家には障害者がいらっしゃいますよね」と言われたことに、怒りと悲しみを感じたと言っています。繰り返しますが、この言葉自体を問題にしているわけではありません。
「被災者」「障害者」という言葉は、マスコミ用語、行政用語なのかもしれません。ある個人に向かって「お客様」と呼ぶのは良いけれど、「被災者」「障害者」と呼ぶのはおかしいでしょう。
障害があってもなくても、災害にあってもあわなくても、私たちは共に生きる仲間です。
(被災者と呼ばず、「復興者」と呼ぼうという人もいます。障害者をハンデキャップド・ピープルと呼ばずに、「チャレンジド・ピープル」と呼ぶこともあります。)

被災者への見方

サイコロジカル・ファーストエイド」(日本語版作成:兵庫県こころのケアセンター)によると、心のケアの専門家が被災者と接するときでも、被災者すべてをトラウマによる症状や病気を持った人と見ないでほしいと言っています。被災者を弱者と見なし、彼らの弱く傷ついた部分ばかりに焦点を当てないでほしいと注意しています。
被災者でも、障害者でも同様ですが、言うまでもなく、素晴らしい人がいくらでもいます。今はたまたま災害によって財産を失ったり、元気をなくしているだけです。
「被災者」「障害者」とひとまとめにして考えてしまうと、一人ひとりの悲しみ、苦しみ、一人ひとりの力や希望が、見えなくなってしまうのでしょう。
災害避難所ストレス解消法:積極的活動による心のケア:あわれな被災者ではなく

被災者への態度 ・ 災害ボランティアとして

誰が、誰に対するときでも同じですが、愛と敬意をもって接しましょう。
愛と敬意を持てば、子どもと話す時は上から見下ろさず、子どもの同じ目線に立つでしょう。子どもの話をしっかり聞くことができるでしょう。子どもが不安定になっても受け止めることができるでしょうし、中学生を子ども扱いして上から押し付けるような態度はとらないでしょう。
高齢者に愛と敬意を持って接すれば、心や体の弱い部分を支えることができるでしょう。高齢者が持っている知恵や強さを尊重することもできるでしょう。
愛と敬意を持てば、相手に何かを押しつけることはしないはずです。
善意の押し売りをせず、相手が求めていることを差し上げたいと思うはずです。今必要な物が食べ物や毛布なら、持ってこようと思いますし、遊ぶことや話すことなら、その時間を作るでしょう。相手が話したいと思っているのに、こちらが話すことはないでしょう。(カウンセリングマインド:話を聞くと言うこと)
相手が話したくないのに、無理に聞き出すこともしないでしょう。
災害ボランティアの心理:役立つボランティアになるために

被災者を傷つける言葉

などなど。被災者を傷つける言葉は、もっともっとたくさんあるでしょう。ある被災者は「みなさんの一生懸命な姿を見て感動しました」という言葉に不快感を持ったと語っています。「復興」が禁句だと語ってくれた福島の原発被災者もいます。被災地福島からの声:地震・津波・原発・復興・偏見
これらの言葉を絶対言ってはいけないいうのではありません。言葉狩りや、禁句集、NGワード集を作りたいのではありません。ただ、善意であり、正直な気持ちであり、時に正しい言葉でさえ、相手を傷つけることがあるということです。
死にたいと言っている人に、「死んではけません」「生きていればよいことがある」などといっても、伝わらないですし、相手は怒ったり泣いたりするかもしれません。本当に伝えたいのは、「あなたが死んだら私は悲しい」という気持ちです。
死にたいと言われたとき
言葉は、何を言うかではなく、いつ言うかが大切です。
どんな人間関係の人が、どれほど相手の事情を分かっていて、どれほど心と心が通じ合っていて、そしてどのタイミングで言うかが、大切です。コミュニケーションは、言葉の問題ではなく、人間関係の問題なのです。
 


 


がんばれ

テレビの司会者が、みんなに向かって言うのならともかく、今目の前にいて、苦しみと悲しみのどん底で必死に頑張っている人に、「がんばれ」などと言えるでしょうか。
「がんばれ」が禁句だと言いたいのではなく、今この人には「がんばれ」などと言えないという感覚が大切だと思うのです。
***
4月9〜10日。遅ればせながら、被災地に行ってきました。見渡す限りのがれきの荒野になってしまった仙台市若林区荒浜地区を見ました。正直に言って、もう気軽に復興などと言えなくなってしまいました。もし私がそこに住んでいて、家を失い、家族を失い、仕事もどうなるかわからない状況で、「がんばってください」「復興目指して頑張りましょう」なんて言われたら、きっと困ってっしまうだろうと、痛切に思いました(4.21)。
被災地仙台訪問記:もう気軽に復興とか心のケアとか言えないけれど・・・新しい希望を

***

阪神淡路大震災の時も、中越地震の時も、「がんばれ神戸」「がんばれ新潟」ではなく、「がんばろう神戸」「がんばろう新潟」というキャンペーンがありました。同じ被災者として、同じ地域の人間として、そして共に痛みを分かち合う者として、痛みと涙を胸に秘めて語る、「がんばろう」「がんばれ」は、きっと力になると私は思います。心が通じ合っていれば、言葉が通じます。

前向きに行きましょう・泣いてはいけません

人間、いつも前向きというわけにはいきません。とても落ち込んでいるときに、明るく元気な曲なんか聞きたくないということは、誰にでもあるでしょう。そんな時には、むしろ悲しい曲が聞きたくなるのではないでしょうか。
とてつもなく悲しいとき、 どうしようもなく落ち込むときには、落ち込み、泣くことが必要です。そしてそのずっと先に、元気と希望があると思うのです。
死別など、大きな喪失の悲しみを乗り越えていくためには、しっかりと悲しむことが必要です。
ご家族ご友人を亡くされた方へ
とてつもなく悲しいとき、 どうしようもなく落ち込むとき

早く

早く元気になりましょう。早く忘れましょう。早く再建しましょう・・・。
いいえ、急いではいけません。そんなに早くなど進めません。
当人は「早く」と思っているかもしれません。共感することは大事ですが、せかしてはいけません。

忘れましょう

こんなひどいことが起きたのに、忘れることなんかできるわけがあません。災害被害も、犯罪被害も、その他の様々な悲劇も同じです。忘れることなんかできません。
(忘れるのではなく、いつの日か乗り越えたり、いつの日か許したりするのでしょう。あるいは、乗り越えも許すこともできないけれど、触れても前ほど痛くなくなる日が、その日はきっと来ると思います。ただ、それは今はまだ伝えられないかもしれません。)

気持ちはわかります。

共感することは、そんなに生易しいものではありません。こちらが本当に共感できていると感じているときでも、相手はわかってもらえていないと感じるものです。
被災者の悲しみは、私たちの想像を超え、そして一人ひとりが異なる独自の悲しみを持っているのだと思います。
「あなたの気持がわかりたい」と思い続けたいものです。

何を話すかよりも、誰が、いつ話すか

このような言葉を使ってはいけないのではありません。禁句ではありません。同じ言葉でも、慰めになる時もあれば、悲しくなったり、腹が立つこともあるでしょう。
あるご婦人から相談を受けました。末期がんの親友を見舞に行き、「しっかりしなくっちゃ」と話したのだが、良かったでしょうかという内容です。
心理学者として普通に考えると、そんな安易に励まさず、相手の苦しみに共感しましょうと言いたいところですが、でもそのご婦人の様子を見て、私はとっさに言葉を変えました。「良かったと思いますよ」。
そう話したとたん。彼女は泣きだしました。その親友が先日亡くなったと。
私はウソをついたつもりはありません。これほどまでに悩んでいたご婦人は、きっと深い心のつながりと、自分の胸が押しつぶされそうな共感の中で、彼女のキャラクターを生かし、お互いに言葉の後ろの気持ちを理解し合いながの言葉だったと思うのです。それならば、「良かった」と私は思います。
人の苦労も知らないで、成果だけを求めて、自分は安全なところにいて、無責任に「がんばれ」なんて言われたら、誰だって悲しくなり、腹が立ちます。

「がんばれ」と言ってもいい人

「がんばれ」と言っていいのは、相手の汗と涙を苦しいほどに理解している人だけです。がんばれと言っていいのは、相手と一緒に「がんばろう」としている人だけです。そういうことが、相手にもちゃんとわかってもらえている人だけだと思いうのです。それが本当の応援でしょう。
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