災害ボランティア:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学/東日本大震災の災害心理学・癒しと臨床心理学入門/災害ボランティア/(新潟青陵大学井真史)
2011.5.2
日本は災害大国です。大災害が発生したとき、公の行政サービスだけでは太刀打ちできません。ボランティアが求められています。
今、災害の現地に行こうとしている方々。本当にすばらしいと思います。
阪神大震災の時も、多くのボランティアが集まりました。様々な専門分野のボランティアも集まりましたし、特に専門的な技術を持たない一般の人も多く集まり、日本の「ボランティア革命」「ボランティア元年」と言われました。しかし同時に様々な問題も起こりました。
今回の東日本大震災も、大勢の災害ボランティアたちの素晴らしい働きがあり、そしてまた様々な問題も指摘されています。
全てが大規模に破壊された災害現場では、多くの分野の人手が必要になっています。赤ん坊から高齢者、外国人、障害者、様々な被災者がいます。子どもの心のケアから高齢者の心のケアまで、様々なケアが必要です。家も壊れ、電気ガス水道も壊れ、店も壊れ、田畑も荒れ、様々な物が壊れ、混乱しています。
どの組織も、普段の活動ができなくなっています。
人手が足らなくなった病院に、他の地域から医療スタッフが応援に行きます。様々な組織、会社などからの応援、ボランティア派遣されてきます。
力仕事も必要です。事務の仕事も必要です(災害ボランティアの場面では、力仕事の方が人気があるようですが、事務仕事のボランティアも重要です)。
図書館のめちゃくちゃになった本の整理を手伝うために、他地域の図書館司書が手伝いに行ったりします。
自衛隊、警察、また様々な職業のプロも現地に集まっています。マスコミもあつまります。そして、一般のボランティアも集まります。
あなたの力も求められているでしょう。
ただ、被災地に膨大な物資が集まり、その仕分けに多大な時間と労力がかかってしまうことがあるように、必要な時に必要な物(人)を必要な場所に送ることは、とても難しいことでしょう。
特殊技能を持った人が、組織を通して派遣されるような場合とは別に、普通の人が行ったとき。
時と場所が良く、ボランティアコーディネーターも上手く働き、適材適所で、良いボランティアができれば、誰にとっても良いことでしょう。
しかし、いつもそうとは限りません。
十分に活躍できなくても、自分や周囲を責めることはやめましょう。プロは、待つことも仕事だと心得ています。自分の出番がなくても、文句など言わないでしょう。
あなたはプロではありませんけれども、大災害の被災地という特別な場所へ自ら行こうとする立派な方です。そうであるなら、りっぱな心がけを持っていきましょう。
お役にたてることならば、喜んで行い、出番がないなら、静かに待ちましょう。
出番がなくても文句を言うなといわれても、せっかく善意でやってきたのに、活躍ができないと、がっかりするのは当然でしょう。
悪人は傷つかないのですが、善人は傷ついます。
悪人が人をだまして金を取ろうと努力した結果失敗しても、悔しがりはしても傷つきません。次のカモを探すだけです。
お金のためだけに働いている人も、金さえもらえればOKです。
でも、善意の人が一生懸命行動しようとしたのに、報いられない時には、とても傷つきます。
ジブリ映画「魔女の宅急便 」で、主人公が一生懸命届けた愛情たっぷりのパイを、「これ嫌い」と無造作に扱われた時、彼女は激しく落ち込みます。これが、善人の傷つき、「自己愛の傷つき」です。
余裕がある時には、せっかく来て下さったボランティアのみなさんに気持ち良く帰ってもらうために、配慮ができます。でも、まだまだ混乱が収まらず、余裕がない被災地では、そこまでの配慮ができなくても当然です。
あなたが本当にお役に立ちたいと願っているのなら、お役に立てたらめっけもの、今回はお役に立てなくても仕方がないと、思えることが必要でしょう。
***
活動のチャンスがあり、せっかく時間とお金をかけ汗を流したのに、あまり喜んでもらえないこともあるかもしれません。このとき、傷ついた心で怒ったり、泣いたりしないためには、心の余裕が必要だと思います。できることを、できる範囲で、喜んでもらえたらめっけものという感覚です。
ある調査によると、ボランティア活動で、本当に相手に喜んでもらえるのは、3割程度だそうです。自分の行為の7割が空振りで喜んでもらえなくても、そんなものです。そういうものです。
事前に十分下調べをする、組織の一員として行動するといったことも考えられるでしょう。自分の専門技能が待たれていることもあるでしょう。
被災地に行って新聞やテレビをみれば、ゴールデンウイークのような特別な時期を除けば、どこそこでボランティア募集、何時にどこに集合といった情報を簡単に見つけることができます。
ホテルでも、テントでも、親戚の家でも、自分の衣食住を確保した上ならば、専門家でなくてもその時々に役に立つボランティアに参加することもできるでしょう(もちろんこの状況が半年も一年も続くわけではありませんが)。
他県から、ある時期に大量のボランティアが個々別々に押し掛けても、「仕分け」が大変になってしまいます。
災害ボランティア、震災ボランティアに関する研究と実践によると、災害ボランティアの事前登録制度は、なかなか上手くいかないと、『災害ボランティア論入門 (シリーズ災害と社会5) 』の中で紹介されています。
通常のボランティアならば事前登録制が上手く機能するのですが、災害時のような大量のボランティアと依頼者が一度に発生し、さらに状況とニーズが日に日に変化していく流動性の高い場面では、事前登録制は破たんすると指摘しています。
コーディネート役の人が両者の間に入り、その時々のニーズに応じて迅速に即座に対応していくことが、大変な作業になってしまうからです。ボランティア一人ひとりの側の都合、希望、予定と、依頼者、受け入れ側のニーズや都合とをマッチングさせるのは、並大抵のことではありません。
たしかに、ボランティアは必要であり、ニーズがあるのですが、様々な都合や希望を言ってくるボランティアが全国から24時間やって来る、問い合わせが次々とあることを想像してみましょう。
「大量の登録受付→ニーズ調査→ニーズとのマッチング→連絡」。
ただでさえ大変な被災地で、この仕事をこなすのは大仕事です。一連の作業に時間がかかってしまえば、ボランティアを派遣したときには、すでにニーズはなくなっている(変化している)ということになりかねせん。
処理作業が追い付かなくなれば、ニーズはあるのに、ボランティアの受付終了ということになってしまいます。
またボランティアの事前登録制度は、「指示待ち」状況を作ってしまうという問題もあります。
『災害ボランティア論入門 』では、こんな方法が紹介されています。
事前登録はしない。支援を求める側が、求人票を張り出すように、依頼票、ニーズ票をポストイット を使って張り出す。ボランティアの側は、このニーズ票を見て、自分が行いたい活動を選びとる。このような方法です。
必要が生じた時にすぐに応じることができ、同時にボランティアの主体性を尊重した方法です。
『一人でもできる地震・災害ボランティア活動入門 』では、あえて組織に属さず、自分で活動の場を見つけるボランティア活動が紹介されています。自分の衣食住の準備は自分で整え、被災地へ向かいます。いくつかの避難所を見て回り、自分の活動が求められている場所、自分が活動しやすい場所を見つけ、そこでボランティア活動を始めるという方法です。
著者は、素晴らしい活動をしてきたと思いますし、参考になることも多々ありましたが、かなり慣れたボランティアだからこそできる手法で、みんなで同じことはできないかもしれません。
けれども、一人で、自分のアイデアでボランティアをしている人々はたくさんいます。
被災地に行き、汚れた写真をきれいにしてくれている写真屋さん。被害者の服をきれいに洗濯し、整理して並べ、遺族のご遺体探しの役に立っているお坊さんなど、アイデア次第で、役に立つボランティアもできるでしょう。
知り合いの牧師は、震災直後のガソリン不足の時、苦労してガソリン容器を集め、ガソリンを被災地に持っていき感謝されました。
知り合いの放送局スタッフは、中継車の空きスペースに避難者に必要な物資を積めるだけ詰め込んで、持っていきました。
私のこの東北地方太平洋沖地震の災害心理学ページ作りも、一人でできるボランティア活動の一つです。(ま、ボランティアなんて意識はなく、趣味のようなものですが。堅く言えば、これが私なりの社会的責任の果たし方と言えなくもないですが。)
少なくとも、迷惑をかけない、邪魔をしない、傷つけないことであれば、一人でも工夫次第で何かができるでしょう。それぞれの人が、それぞれの場所で、自分のできることを。
『防災・減災の人間科学―いのちを支える、現場に寄り添う 』の中では、災害ボランティアの核心を次のように述べています。
災害ボランティアとは、
被災者本位
ただそばにいること
何でもありや
ひとりひとりが大切
最後の一人まで
私は、主役は被災された方々自身なのだと思います。被災地はボランティアが活躍する場所ではなく、被災者が復興のために活躍する場所なのでしょう。ボランティアは、その支援をする者たちで、被災者のみなさんに活用していただく者たちなのだと思います。被災者が自ら動くことが災害ストレスの対策にもなるのです。
「ボランティアは、手伝わせてもらったことに感謝します。」(『災害の心理:隣に待ち構えている災害とあなたはどう付き合うか 』)
ボランティアする側のあなたは、どんな気持ちでしょうか。ちょっと気分がよいでしょうか。誇らしいでしょうか。良いことをするのは良い気分になるものです。
では、自分がボランティアされるとしたらどうでしょうか。ちょっと惨めでしょうか。恥ずかしでしょうか。もしそうだとするならば、あなたはいったい何をしに被災地へ行くのでしょうか。
でも、人から助けてもらう時、いつも惨めになるわけではありません。とても嬉しくなる時もあるでしょう。社会心理学の研究によれば、人からの援助を受けるときには、自尊心が傷つくときと、むしろ高まる時があります。
援助する側が自分のことをどう思っていると感じるかがポイントです。
惨めで哀れな弱者と見られていると感じれば、援助を受けるほどますます惨めになりますから、援助を拒絶することもあります。
でも、援助する側からの愛と尊敬、あるいは当然ことと感じることができれば、それは応援であり、サポートであり、心まで強められます。
あなたの親友が困っているとき、親友たちが厚い友情を持ってみんな集まって、親友として当然のこととして手助けができれば、その人もきっと喜んでくれるでしょう。
赤の他人へのボランティアも、基本は同じでしょう。
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杖をつかれてる方に「お手伝いしましょうか」と言うと「いい、いい。そんな何べんも言わんでいい」と一言つぶやいて自分の力でお手洗いに行かれた。
「新しいボランティアさんかしら」
「…でも、ここはボランティアのための施設じゃないのにね」とつぶやかれたのが胸を突いた。
このように語ってくれた避難所ボランティアさんもいます。私の日本海大震災:亡くした友と避難所ボランティア体験
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ボランティアではなく「仕事」の場合は、惨めさをかんじません。図書館で本を探してもらう時、マッサージ師にマッサージしてもらう時、タクシーに乗る時は、市民として客として当然のこととして、感謝はしても、惨めさは感じません。サービスする側が、「ご利用ありがとうございます」ですよね。(もちろん、私たちが客の場合には「ありがとう」の言葉と心を持つ方がスマートだと思います。)
またもしも、あなたの家に大好きなスターがやってきたらどうでしょう。家に上がってもらい、お茶を出したり、ご馳走することができれば、あなたは大感激です。サービスしているのはあなたですが、感謝しているのもあなたです。
マザーテレサは、「もっとも貧しきもののところへ行け」という神の声を聞いて活動を始めたと言いますが、彼女の行為はボランティアでもないかもしれません。貧しく、病に倒れている人への援助は、彼女が敬愛するキリストへの行為だからです。
「これらの最も小さき者たちにしたことは、すなわち私(イエス・キリスト)にしたのである。」 (私が病気の時、貧しいとき、助けてくれてありがとうとイエスに言われた人が、私はそんなことしていませんというと、こんなふうに説明されました。)
あなたは、どんな気持ちでボランティアを行うのでしょうか。
『心のケアと災害心理学:悲しみを癒すために 』の中には、ボランティアが自己陶酔に陥らないこと、援助を受ける際の自尊心の傷つきの問題などが、臨床心理学の立場から解説されています。
体調を整えましょう。情報を集めましょう。自分で用意すべき物は自分で準備しましょう。そして、心を整えましょう。
本当は、災害ボランティアの前に、別のボランティアも経験しておくと良いかもしれません。
ボランティア活動は、人を成長させます。この物質的には豊かなのに閉塞感ただよい日本社会の中で、ボランティア活動こそが、新しい地平を切り開くきっかけになるのではないかと、私は思うほどです。
ただ研究によると、ボランティアに慣れていない人は、最初の段階でボランティアを通して良い気分を味わうことも必要だとされています。
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海岸にゴミ拾いボランティアに出かけた。大したゴミも落ちていなかった。でも、みんなで楽しくおしゃべりしながらゴミ拾いして、そのあとのバーベキューパーティーが楽しかった。
雪かきのボランティアに出かけた。実はこの冬は暖冬であまり雪がなかった。でも、現地の人はボランティアさんのために雪かきする雪を残しておいてくれた。とても歓迎してくれた。
高齢者施設や、障害者施設にボランティアにでかけた。先方も慣れているし、面倒見の良い人もいて、ボランティアに優しく接してくれて、役に立ったという実感を与えてくれて、感動して帰ってくることができた。
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こういった体験が、次のボランティア活動につながり、本人の成長につながります。
ボランティアに行ったけど、全く感謝されなかった、やることが全然なかった、あるいは、ものすごく大変な仕事、ショッキングな活動を依頼され、心身ともに疲れ果ててしまった。こんな体験を最初にしてしまうと、落胆が大きすぎてしまうことがあります。
災害ボランティアでもよいのですが、いずれにしても、初心者は、先方に余裕のある場所と時を選んで行った方が良いかもしれません。そして、慣れてくれば、先方に余裕がない現場に行っても、臨機応変に見事なボランティアをすることができるでしょう。
怪我や病気に注意しましょう。自分のことは自分でしましょう。心の健康をたもちましょう。 被災者を傷つけないように言葉や態度に気をつけましょう。自分の思いではなく、先方のニーズに応えましょう。がんばりすぎないようにしましょう。
『災害の心理 』ではこんなふうにすすめています。
みんなに、感謝の言葉を述べ、挨拶をして、帰りましょう。
自宅やもとの職場に戻った時も、
家族や同僚に感謝の言葉を述べましょう。
***
みんながあなたを支えてくれました。
だから逆にいえば、あなた自身が被災地へ行かなくても、被災地に行っているプロやボランティアを支えることも、立派な被災者支援です。
私の友人は、一泊二日、千キロの道を運転してボランティアに行きました。私はとてもそんな運転はできません。私は、高速バスに乗って被災地仙台市若林区荒浜地区を訪問して、見渡す限りのがれきの荒野を見た時、このがれきの真ん中に入って作業するのは、正直怖いと思いました。慣れていない人では、危険だと感じました。
学生の頃は時間があり、2週間ヘルパーとして出かけることもありましたが、今はとてもできません。でも、学生時代に一万円寄付するなど、到底できません。
私にはとてもできない活動があります。私にもできる活動もあるでしょう。私にしかできない活動もあるかもしれません。あなたならではの活動があるでしょう。被災地に行っている一人ひとりもそうでしょう。
被災者支援は長丁場です。中越地震の時も、地震後数ヵ月後に、依頼されて学生と一緒に被災地の小学校へ行きました。阪神大震災では、10年以上たっても、あのときのことが影響し続けている人がたくさんいます。
今回の震災で、当地新潟にも、9千人の避難者が来ています。学生たちの中には、避難所でのボランティアをしている者もあります。県内あちこちの学校に、被災地からの転校生が来ています。私もスクールカウンセラーとして、必要に応じて、関わります。
不幸は突然劇的にやってきます。言葉もありません。それでも、長い長い時間の後で、私たちは成長していくのでしょう(ポスト・トラウマティック・グロース:外傷後成長)。
災害ボランティアに参加したみなさんも、時に傷つくことはあるかもしれませんが、ボランティアを受け入れてくださった方々のおかげで、きっと成長していくのでしょう。日本全体が、さらに成長していくのでしょう。
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