子ども・PTSD:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学/東北地方太平洋沖地震の災害心理学/子どもをPTSDから守ろう(新潟青陵大学・碓井真史)
2011.4.5(4.6加筆)
「子どもの心のケア:災害で傷ついた子どものへの対応」で述べたように、赤ちゃんがえりや、災害遊びなどは、被災後の子どもに良く見られることです。寝つきが悪くなったり、イライラしたり、乱暴になったりすることも同じです。
そのこと自体が、大きな問題ではありません。子どもをしっかり受け止めてあげることで、子どもはしだいにもとの元気な子どもになっていくでしょう。
しかし、やはり注逸すべき子どもたちもいます。たとえば、「よくみられること」とは言っても、他のこともと比べて極端な場合には、やはり注意深く見守っていくことが必要です。
河崎佳子先生は注意すべき子どもたちとして次のような場合をあげています(『心を蘇らせる―こころの傷を癒すこれからの災害カウンセリング』「子供たちの心のショックはどういうかたちで現れてくるか」)。
遊びを楽しめない子どもたち
災害遊びなども、楽しんでいるのならば、心の癒しにつながるのですが、「苦痛だがやめられない」と感じられるようであれば、問題です。
ボーとしている子ども
大災害が起きても、しばらくすれば多くの子どもは、子どもらしい活発さや、好奇心を出すものです。それなのに、何事にも関心がなく、生気がないと感じられる子どもは、注意が必要です。
関心の全てが災害に固執している子ども
災害の話、災害のニュース、災害の写真などにばかり関心を示して、他のことに関心を持って他の活動をしないような子も、気をつけなければなりません。
藤森和美先生による『子どものトラウマと心のケア 』の中で、子どもが受ける影響の大きさを決めるものとして、次のものがあげられています。
災害の種類と規模
身近に起きた大きな災害ほど影響力は大きい。
災害と子どもとの関わり
自分が大けがをしたか、周囲の人に死傷者が出たか、家が壊れたり引越し転校など生活環境の変化が起きたか。
災害後のトラウマへの対処法
悲しみ、苦しみを、人に話したりしているか、ひきこもって一人になっているか。
サポートシステム
家庭や学校など、子どもを支えるシステムがしっかりしているか。
災害の意味の捉え方
自分の体験をただ否定的にとらえるか、肯定的な面を見つけるか
過去のストレス要因
災害発生前から、家庭や学校の問題など、ストレスを抱えていなかったか。
また『子どものトラウマと心のケア 』には、「子どもの精神保健チェックリスト」として、次のようなものがあげられています。
・災害前1年以内に家族が亡くなったり、離婚などの問題があった。
・両親や家族との離れた生活が一週間以上続いた。
・家屋が亡くなったり、本人が大けがをした。
・まったく言うことをきかなくなった。
また、被災前には見られなかったのに、被災後3週間以上、にわたって、
悪夢にうなされている、注意力散漫、イライラ、大げさな恐怖、すぐ泣く、好きだったはずのことに取り組まないなどの変化がいくつも見られる場合には、できれば専門家に相談しましょう。
子どもの精神保健チェックリス全文は、こちら→特定非営利活動法人NeedCareProduce(NPO法人NCP)災害支援部 子供のPTSD対応
ロバート・バイヌース先生は、PTSDの重症度予測する要因として、次のものをあげています(『災害とトラウマ』「子どもと災害:長期的帰結と介入についての発達的観点」)。
地震当時の主観的体験
恐ろしく、衝撃的な体験をしてしまった子どもほど、心の傷が深く残りやすいことは想像がつくでしょう。ただし、この体験は客観的な大きさではなく、主観的な大きさが問題です。つまり、子ども自身が、どれほど大きく感じているかが、問題です。
地震後のリマインダー(トラウマを思い出させるもの)に触れる頻度
大きな余震など、トラウマ(心の傷)となったあの時の体験を思い出させるような出来事が多く起こるほど、PTSDになりやすいと考えられます。
リマインダー(余震など)に対する反応の過敏度
地震のとき無力で自分はダメな子どもだったと感じているほど、余震などにもその都度過敏に反応し、ますます心の状態が悪くなりがちです。
子どもらしくやんちゃで元気な子どもは良いのですが、避難所や仮設住宅で、今まで以上に「優等生」になる子がいます。素晴らしい大活躍をする子どもがいます。阪神大震災の時も、避難所のアイドル的だった子どもが、あるきっかけで激しく落ち込み何もできなくなるというケースがありました。
がんばっている子どもの中には、無理をしている子どもがいます。抱きしめ、甘えさせ、休ませましょう。頑張らなくても、愛される、大丈夫だと伝えましょう。
震災から1カ月以上たち、周囲の子どもたちとは異なる、強い反応が出ている場合には、できれば早めに専門医に診てもらうことが必要でしょう。特に夜寝つけなかったり、早朝に目が覚めてしまうような、不眠、睡眠障害がある場合には、得に気をつけましょう。
ただし、子どもを守るのは精神科医や臨床心理士だけの仕事ではありません。
子どもの周囲の大人たちの役割は重要です。
親のストレスと子どものストレスは、比例します。子どもを守るためには、親のストレスをケアしましょう。
親が、地震について何も語れないと、子どもも語れません。親の態度が子どもの態度に影響を与えます。子どもを守るために親を守りましょう。
がんばっているお母さん、お父さん、自分の心も守りましょう。
同様に、学校の先生を守りましょう。校長を支え、担任を支えましょう。それが、子どもを支えることにつながるのです。
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リンク
災害発生時の心のケアに詳しい藤森和美先生による
「災害を体験した子どものストレスとそのケア:保護者や学校教職員の皆様へ」
子どものトラウマとこころのケア
(こころのオアシス:大阪府こころの健康総合センター)
『心を蘇らせる―こころの傷を癒すこれからの災害カウンセリング』
『災害とトラウマ』
『心のケアと災害心理学―悲しみを癒すために 』 藤森立男 藤森和美 著 芸文社
『子どものトラウマと心のケア』藤森和美
『学校トラウマと子どもの心のケア 実践編―学校教員・養護教諭・スクールカウンセラーのために 』『親子のための地震安全マニュアル―家庭で備える地震対策最新情報!』
『防災授業 僕たち自然災害を学び隊!―自然災害は、どうして起きるのかな?どうすればいいのかな?』
『12歳からの被災者学―阪神・淡路大震災に学ぶ78の知恵』
『地震から子どもを守る50の方法』
『今すぐできる!ママが子どもを地震から守るための本 (マミーズブック) 』
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ウェブマスターの本『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
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