テレビ、新聞、ラジオ:災害時のマスコミの役割:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学東北地方太平洋沖地震の災害心理学/マスコミの役割新潟青陵大学碓井真史

災害時のマスコミの役割

大震災のとき新聞、テレビ、ラジオ、マスメディアは何を報道すべきか

2011.3.19


災害発生直後:生活情報

災害が発生し、避難者が出ました。命からがら、着の身着のままの被災者です。この人たちにまず必要なのは、安心安全。だから、マスコミからも、安心安全に役立つ情報がほしいわけです。
でも、これが意外と巨大マスコミは苦手です。
私も個人的に感じました。中越地震が発生直後、東京からの放送された地下のマントル対流がどうしたといった地震の大雑把で基本的な内容。正直腹が立ちました。
ただ、何もわからないまま東京から放送すると、こういうことになってしまいます。ともかく何か報道しなければならないのに、何もわからない。専門家を呼んでも、専門家もまだ現地のことなどわからない。学問的に間違ってはいないけれども、現地には役立たない情報になってしまいます。
こんなときに最も役立つのは、意外と現地のローカルラジオです。細かな、役立つ生活情報を流し続けることができれば、被災者にとってもっとも役立つ情報になるでしょう。
テレビの場合も、被災地の地元ローカルテレビが、東京キー局よりも、良いニュース素材をいっぱい持っていることもあるようですが、ローカルテレビが使える時間は長くなく、十分に放送できないこともあるようです。

被害増大を防ぐ報道

地震の大きな話が悪いわけではありません。日本の他の地域でも、今地震の危機が迫っているのかどうかは、それぞれの地域の人にとって関心事です。もしも、危険があるのなら、報道し、中止してもらわなければなりません。
現地に対しては、もちろんのことです。余震に気をつけてとか、津波の第二波に気をつけてといった情報が、的確になされれば、こんなに価値のある報道はありません。
ただし、時に不用意な報道によって流言が広がることもありますし、マスコミによる風評被害が発生してしまうこともあります。
>>マスコミが作る風評被害の社会心理学:みんなで北関東の野菜を食べよう
>>災害時流言:原因・心理・対策:マスコミの役割

被害の大きさ、悲惨さの報道

大きな被害が出ているのであれば、報道は事実を伝えるのが基本ですから、もちろん被害の大きさを伝えなければなりません。報道の大きさによって、政府、行政の動きも変わるでしょう。国民の動きも変わるでしょう。
今回東北地方太平洋沖地震の大きな報道で、コンビニの募金箱にみるみる募金がたまっています。
中越地震の時に実際に見た事例です。新潟の中越地震の時、川口町は非常に大きな被害が出ているのに、被害が大きすぎてマスコミが入れず、当初報道がなされていませんでした。
その結果、世間の注目は良く報道された有名な村や市に集まります。支援物資もボランティアも偏ります。川口町の一人の女性が、あるローカル放送局にやってきて、涙ながらに訴えていました。「川口町のことも報道してほしい」と。
災害直後、マスコミのみなさんが、道なき道を越えて被災地に入り報道するのは、大きな意味があるでしょう。
(ただし、悲惨な映像を見すぎてストレスになっている人は注意→災害報道を見て辛いあなたへ:災害ストレスに負けない方法

被災者へのインタビューはだめ?

犯罪、事件、事故、災害報道に関して、良く聞くクレームです。被害者、被災をを映すな、被害者、被災者ににマイクを突き付けるなと。たしかに、被害を受けて、所在を嫌がっている人を無理やり取材し報道するのは、いけません。
しかし、被災者を映し、インタビューすることは間違っているでしょうか。
大地震、大津波、大火事。その映像は悲惨であり、また迫力があります。未曾有の大災害の映像は、息をのみ、絶句させる力があります。とても怖い映像です。
しかし、その一方で、とても不謹慎なのはわかっていますが、その「大スペクタクル」とも言える迫力のある映像を見ながら、「映画みたい」という感想を持つ人はいないでしょうか。いえ、現実だとわかっていますし、決して不謹慎ではないのですが、大きすぎる映像は逆に現実味が薄くなることがあります。
それに、たとえばライブ映像(生放送)の時には、動いている車が波に飲み込まれることらおが放送されてしまっても、ビデオ録画での放送になると、カットされるようです。遺体がいっぱい海に浮かんでいる様子も放送できません。
***
大災害を目の前にして、おびえ、泣いている人がいます。もちろん、普通とは全く違う様子です。その姿をテレビを通して見た時、私たちは初めて災害の悲惨さを知ることがあります。
大スペクタクル映像を見ていた時には、怖かっただけなのが、泣いている人のすがみたときに、こちらまで涙が流れます。カメラが、被災者を撮る意味はあるのです。
家を失い、家族を失った人へのインタビューも同様です。全壊家屋が何千とか、死者が何千、何万と言われても、正直言って私たちはピンときません。茫然とし、怒り、泣いている人を見て、私たちは初めてリアリティーを感じます。インパクトを感じます。
何とかしなければと感じるのです。こういった報道を意味あるものにするのは、私たちの側かもしれません。ただ興奮し、ただその時だけ同情するのではなく、被災者のために何かをしようと思い実行できるなら、その報道は大きな意味を持つでしょう。
(ただし、後になって、避難所の被災者が取材攻勢に疲れてしまうと、取材しにくくなるでしょう。しかしまた、年月を経てゆっくり取材してくれるようなメディアは、心のケアにも役立つでしょう。、

被災者インタビューの意味:補足

嫌がっている人にマイクを突き付けるのは、論外です。でも、どうでしょうか。テレビのインタビューに答えている人を見ると、無理やり答えさせられてるようには、あまり見えません。
新聞記者さんでも、テレビのレポーターさんでも、思いやりと配慮をもってインタビューするならば、それは時に被災者自身の癒しもなると思います。
インタビューに応えて、思いを込めて語っている人々がいます。誰かが自分のことに関心を向けてくれて、この辛い話を詩kkkっ借り聞いてくれる。それは、癒しになるのです。(ただし、もちろん無理に聞き出すのは逆効果)。
私自身、あるレポーターさんと一緒に、少年殺人事件が起きた村に行ったことがあります。住民もみんな傷ついていました。レポーターさんは、とても誠実な態度でインタビューに答えてくくれる人を探していました。そして、私に話したのですが、心理学者の方と話すことで少しでも癒される人が出てほしいと。

明るく前向きな報道

災害後、復興活動が始まれが、明るく前向きな報道こそ必要になっていきます。いつまでも、「余震におびえる被災者」という報道ばかりでは困ります。それは、被災者のみなさんにとってもマイナスです。
被災者のために、こんなに支援が集まっている。義援金や、支援物資や災害ボランティアが集まっている。さらに、自衛隊やボランティアだけでなく、被災者自身が復興を目指して素晴らしい活動を始めているという報道こそが、大きな被災者支援となる意味ある報道です。

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全部と言うわけではありませんが、東京からのメディアは、「被災地」の絵がほしいと思う場合もあるようです。避難所のなかで、一番不安がっている人にインタビューしたりします。避難所の隣のスーパーに商品があふれるようになっても、そこは報道しなかったりすることもあります(これらのことは、実際に中越地震の時にありました)。
それにくらべると、地元ローカルの放送局は、その地域の人とずっと一緒に暮らしていくのですから、いつまでも「惨めな被災者」という絵ばかり追いません。「被災者」である前に地域のふつうの住民です。明るく前向きな出来事を報道し、地域全体を元気づけようとします。それは、この復興の時期の大切なマスメディアの役割です。
被災者への明るい情報は、被災者のみなさんを癒し、元気づけるだけではなく、危険な流言発生の防止にもつながります。
今回の東日本大震災(東方関東大震災)では、震災後一週間で、東京のNHKが、現地で元気にボランティア活動をする被災者女子高生の姿を報道していました。
災害時流言

新聞報道の意味

今、新聞を読む人が減っていると言います。しかし、新聞社の記者の数、取材力は、テレビ、ラジオをはるかに超えています。私たちとしても、放送メディアの速報性にはかなわないものの、やはり新聞を見て、はじめて出来事の正確な内容を知ることがあります。
また、新聞がどのできごとをとらえ、どんな見出しをつけるかは、やはり今も大きな力を持っているでしょう。放送局は、ある一定の意見を主張することが許されえていませんからね。
いろいろなテレビ番組で、「新聞報道によると」という言葉がつかわれています。その逆はあまりありません。(生番組で誰かが何かを言ったという報道は新聞に載ります。そこはテレビの力なのでしょう。)
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新聞は、現実の映像や音を出せる放送メディアとくらべると、やはり表現の力では劣るでしょうか。いいえ、そんなことはないと、私は確信しています。テレビもしょせん、意図を持って切り取られて映像です。映せないものもあります。
私は、御巣鷹山のジャンボジェット墜落事故の時に自分が読んだ新聞記事を忘れられません。凄惨な事故現場の様子を描いた記事です。決しておどろおどろしい記事ではありません。けれども、現場の「におい」について言及していたその記事は、他のどのメディアの映像よりも、私に現場の悲惨さを伝えてくれました。

報道の意味

心理学的に言っても、報道には大きな意味があります。いち早く被災者のもとへ飛び、報道することは、私たちが事実をしるだけではなく、被災者の心のケアにもなっています。自分たちは見捨てられていない。こんなに関心を持ってくれている人がいる。多くの人が報道を見て、自分たちを支えようとしてくれている。そう思えることは、大きな心のケアになります。
もちろん、報道被害とよばれるようなことが起きることもあります。しかし、ほとんどのマスメディアの人たちは、自分の仕事が人々の役に立ってほしいと願っているはずです。市民とメディアとが協力し、被災者にって、私たちにとって、意味ある報道を作っていいきたいと願っています。
災害取材ではプロの心も傷つきます。ぜひ、ご自分のっころのケアも→マスメディア・スタッフの心:惨事ストレスケア
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