共感疲労:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学/東日本大震災の災害心理学/災害報道ストレス(新潟青陵大学・碓井真史)
2011.3.19(3.29、5.13加筆)
想定の範囲を超えた大地震、大津波でした。多くの映像が残されました。連日のように、きわめて大規模で凄惨な映像が流されています。
毎日みているうちに、気持ちが沈みこんでいる人がいます。暗い気持ちになっている人がいます。怖がっている子どもがいます。胃が痛くなったり、気分が悪くなったり、夜眠れなくなっている人もいます。うつ状態に近い人までいます。
以前、自分自身が被災体験のある人の中には、あの時に恐怖と不安がよみがえってきている人もいます。被災の方々の中にも、何度もニュースで見せられるのは辛いと感じている人がいます。
こんなふうにストレスがたまっている人は、どうしたらよいのでしょう。
ある人から相談を受けました。毎日のニュースを見ているのは、とても辛い。でも、見ないのは、被害を受けた皆さんの現実から目をそらすことになり、いけないことなのではないかと。
なんという真面目な方なのでしょう。良い人です。世の中では、良い人ほど、心を痛めているものです。
さて、映像を見るのが辛ければ見るのをやめましょう。日常生活に支障をきたしているほどであれば、しばらく見るのをやめるべきです。自分の健康を守りましょう。
それは決して、現実から目をそむけることではありませんよ。
あなたは、被災地のみなさんの苦しみを、自分が苦しくなるほどにわかっているのですから。
子どもは、時間と空間の感覚が大人とは違います。大人は、映像を見ながら、確かに怖いけれども、これは昨日のことだとか、何百キロも離れた場所のことだと思えます。
でも、子どもは1キロ先も、1000キロ先も、どれほど違うのか、良く分かっていません。500キロ先を目指してドライブをはじめると、スタートから5分で「もう着く?」と聞いてくるのが子どもです。
怖がっている子どもがいたら、抱きしめて、「ここは大丈夫だよ」「今は大丈夫だよ」と教えてあげましょう。必要なら、チャンネルを変えましょう。
慰めること、励ますこと、ガンバレと応援することも、悪くないかもしれません。不安や恐怖が小さい時には、それも効くでしょう。けれども、不安が大きい時には、ぜひ話を聞いてあげてください。
カウンセリングマインドを持って人の話を聞くことは、あなたが思っている以上に、大きな力になりでしょう。(3.29加筆)
あなたは、あのとき、こんなに恐ろしい目に会いました。世間の人は、もう何年も前のことだと言うかもしれませんが、そんなことはありません。
5年たっても、10年たっても、ちょっとしたきっかけで、昨日のように思い出してしまうことがあるのは、普通のことです。
あなただけではありあません。あなあたが弱いわけでもありません。当然のことです。ほとんどの方は、一時的に不安になるだけでしょう。
辛ければ、チャンネルを変え、テレビを消しましょう。
そして考えましょう。あの時は確かに死ぬほど怖い前にあった。しかし、私は負けなかた。あの困難を私は乗り越えたと。
さらに、もし余裕があるのなら、今被災されている方々の支援を考えましょう。いくらかでも寄付しましょう。同じ困難で苦しんでいる人を助けることは、あなた自身の心の癒しにつながるでしょう。(PTG:外傷後成長)
実を言うと、私地震、毎日報道を見ている中で、日に何度もふいに涙がこみ上げてきます。悲惨な映像を見た時に限りません。ちょっとしたきっかけで、心の引き金(トリガー)がひかれてしまいます。
新潟市に住んでいる私にとって、中越地震以後、地震は他人事とは思えません。
さて、こんなふうに悲しみ、苦しむことはダメなことでしょうか。そんなことはありません。誰かのために心を痛めることは、悪いことではあません。「悲しむものと共に悲しめ」と言われているとおりです(『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』 )。
思春期の多感な思いで、心ふるわせている人もいるでしょう。長年の人生経験があるからこそ、被災者の気持ちに共感できている人もいるでしょう。人のために悲しみ苦しむことは、悪いことではありません。
その悲しみ、苦しみが、人を助けるエネルギーになったり、自分が成長できるきっかけになるなら、悲しみにも意味があるでしょう。
マスコミが悲惨な様子を報道することも、悲しんでいる人にインタビューすることも、私たちが報道を有効に使えるのであれば、もちろん意味のあることなのです。→災害時のマスコミの役割:新聞、テレビ、ラジオは何を放送すべきか
共感疲労とは、他者の痛み苦しみに共感するあまりに心が疲れてしまうことを言います。普通は、看護師さんなど苦しんでいる方々と毎日関わるような人たちの問題です。私たちも、同情すべき人の話を聞いたり、テレビを見たりしたら、涙が出ますし、心が疲れます。ただ、普通は毎日それが繰り返されるわけではありませんから、泣くほどに深く共感しても、心が疲れ果てることはありません。
でも、今回の東日本大震災では、毎日朝から晩まで悲惨な報道が続きました。このために、一般の市民の間でも「共感疲労」と呼べるような状態が広がってしまいました。
患者を扱う医療スタッフ、ご遺体を扱う自衛隊員、消防士などは、日ごろから共感疲労にならないように気をつけています。訓練を受けたり、先輩からアドバイスを受けたりしています。
人のために涙を流すことは悪いことではありません。良いことだと思います。しかし、私たちの心は毎日毎日泣いても平気な様にはできていません。この悲惨な出来事を前にして、笑ったり食べたりすることに罪悪感を感じている人すらいるでしょう。
でも、プロの人たちは、患者や被災者、救援者への深い思いやりを持ちつつ、同時に毎日働き続けるために、食べて、寝て、笑っています。私たちも、被災者を支援し、これからの復興を考えて行くためにも、自分自身の心をケアしていきましょう。(5.13加筆)
病健的、前向きな悲しみなら良いのですが、まるで今自分が災害に直面しているような激しく混乱した感情に襲われるとしたら、あるいは治療が必要かもしれません。PTSD(災害時直後の急性ストレス要害ASDがこじれてしまった心的障害心的外傷後ストレス障害)と言われる状態かもしれません。
このPTSD状態の時には、脳のバランスがくずれています。遠くの出来事、この前の出来事、あるいはテレビの画面の中にあるだけのことなのに、脳が誤解して、今まさに実体験しているかのように感じてしまうことがあります。
ある時に一回だけなら良いのですが、もしもこんなことが何度もあるのならば、一度専門医に相談に行かれると良いかもしれません。治療を受ければ、きっと治ります。
これほど重いものでなければ、それは専門的な治療の必要もない、ごく普通のものであることは、前に申し上げた通りです。
戦後最大の大災害がおきているこんな時期だからといって、楽しむことが悪いわけではありません。普通の番組も始まっていますね。テレビを見て笑うことは、悪いことではありません。
おいしくご飯を食べることも、スポーツも、趣味も、良いことです。あなたが元気になって、そして、被災者支援のためにも頑張りましょう。
テレビは、真面目で深刻な顔をした震災番組か、いつも通りの番組か、どちらかが多いでしょう。でも、ラジオは違います。
ラジオには、深刻な話題ながら、いつもの笑顔で放送できる不思議な力があります。地震の話題なのに、いつもの明るいBGMが流れていたりします。
ラジオ番組には、「いつものラジオの声を聞いて、ほっとした」。そんなメールが寄せられます。ラジオは、テレビよりも個人的に語りかけているような気になります。
自分の知っているいつものアナウンサー、ラジオパーソナリティーが、被災地の苦しみを知っているに決まっているのに、それでも笑顔で自分に語りかけてくれている、そう思えることが、癒しにつながるのでしょう。
ラジオは不思議な力を持っています。ラジオはおすすめです。
(あなたが見ているローカルテレビの番組も、時にラジオのように、うまい番組作りをしてくれることも、ありますね)
新聞もテレビも、大災害後しばらくすると、災害ニュースの中でも、明るく前向きで元気の出る報道をし始めます(それも災害時の報道の役割です)。
苦しければ同じ映像を何度も見る必要はありませんが、私たちは事実を知り、被災地に悲しみ苦しみを知り、そして、被災地のみなさんと共に、マスメディアのみなさんと共に、一緒に復興の道を歩んでいきましょう。
被災地で活躍する災害ボランティアのみなさんは、とても立派ですが、現地に行けなくても、それぞれの人が、それぞれの場所でできるボランティアもきっとあるはずです。
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