被災地仙台訪問記:心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学/東日本大震災の災害心理学・癒しと臨床心理学入門/被災地を仙台訪問記/(新潟青陵大学・碓井真史)
2011.4.12
3月11日。東日本大震災発生。それから一カ月。はじめて被災地仙台市にやってきました(4月9日(土)〜10日(日))。
情報を発信している者として、現地を見ておかなければならないと思ったこと。それから、仙台の教会を訪問したいと思い(新潟名物笹団子百個持って!)、やってきました。先週木曜日には、今までで最大の余震がありました。仙台行きを心配してくれた人もいましたが、大勢の人々が毎日ここで暮らしているのですから。
(「名物にうまいものなし」なんて言葉もありますが、笹団子はおいしいですよ。甘いものが嫌いでなければ、どこに持っていっても喜ばれます。他の地域ではあまり売っていませんし。たくさん持っていくちょっと重たいですけれども。)
***
仙台駅周辺は、とてもにぎやかです。店もほとんど開いているように見えます。商品も何でもあります。ガソリン、灯油不足もほぼ解消されたようです。電池と乳製品が足りないくらいでしょうか。お金さえ出せば、何でも買えます。
元気な若者の笑い声が聞こえます。幸せそうな家族連れが歩いています。
ただ、まだガスは通っていません。在来線も不通です。よく見れば、建物の被害もあるようです。それでも、活気にあふれた市街地です。
タクシーに乗って、若林区の方へ向かいます。運転手仲間でも、家族を失ったり、家を流されたりした人がいるという話を聞きながら、進みます。進む途中も、車から見える範囲では、ほとんど被災の跡が見えません。
「このあたりから被災地ですから」
運転手さんがそう言います。。
え?宮城県全体、仙台市全体が被災地なのではなの?
そんなふうに思いながら、交差点を右折し、警官のチェックをうけて、若林区荒浜地区に入っていくと、景色が一変しました。テレビのニュースで何度も見た風景ですが、自動車がおもちゃのように転がっています。
車やがれきが散乱する黒い泥の空き地が広がっています。田んぼでした。説明を聞かなければ、田んぼとは思えません。
津波で破壊された家々が見えます。ひどい光景です。でも次第に、壊れた家の数も減っていきます。ただ、がれきの山です。
車でずっと走っていくのですが、いつまでも同じ風景が続いています。壊れた車、へし折られた松の木、そしてもう何だったか訳のわからないがれき。
海岸まで行きます。ここは海水浴場。仙台市で唯一の海水浴場、深沼海水浴場です。夏には、たくさんの海水浴客でにぎわいます。
この日の仙台市は、晴天でした。白くきれいな砂浜が広がっています。美しく穏やかな海です。でも、海を背にして、住宅地の方を見ると、そこには、
どこまでも見渡す限りのがれきの荒野が広がっています。道も何もわかりません。
空はこんなに青いのに! 海はこんなに青いのに!
***
「見渡す限りの」に何の誇張もありません。右も左も、海岸から何キロも先の陸の方も、視界が開けてしまっています。広い広い、どこまでも続いているかのように見えるがれきの海です。
避難できるような小高い丘なんてありません。高いビルもほとんどありません。目立つのは、学校の建物ぐらいです。この学校に避難した人は、助かったのでしょう。でも、この学校の体育館の二階にも、太い松の木が突き刺さっています。
私が通ってきた道路は、自衛隊ががれきを片付けたのでしょう。でも、住宅街にあるはずの道は見えません。道路からはずれて、がれきの続いているその奥に入っていくのは、とても怖くてできません。
震災から一月。津波の直後は、まるで全体が海のようでした。数日後、沼のようになり、今は乾いています。民間人が入れるのですから、遺体の捜索もほぼ終わったのでしょうか。
それでも、一か月持ったたったのに、見渡す限りのがれきです。
これが、津波災害の惨状なんですね。原爆が落ちた後の広島の写真を思い出します。中越地震の時も被災地に行きましたが、地震被害とは風景がまるで違います。
正直な感想を言えば、ここが復興できるのだろうかと思ってしまいます。いったいどれだけの莫大なお金と時間がかかるのだろうかと思ってしまいます。
がれきを全て片付け、整地し、道を作り、ライフラインを復旧させ、一人一人の住民に帰ってきてもらう。もう一度家を建て、町を再興させる。そんなことができるのだろうかと思ってしまいます。
私はもう気軽に「復興」なんて言えません。
自分がもしもこの町の住民だったら。家族を失い、家を失い、ご近所も町全体も失って、それで、「復興を目指してがんばってください」なんて言われても、がんばりようがないと感じてしまいます。
***
道路一つ隔てた津波が来なかったところには、自宅で暮らす普通の生活が戻っています。大都市仙台は、きちんと機能してます。中心部は活気にあふれています。それでも、一部の避難所ではまだ足りない物資もります。
そして、一見普通に元気に暮らす人々の中にも、家族や友人や同僚を失い、あるいは仕事を失った人、震災で人生が変わってしまった人が、たくさんいることでしょう。
この大規模で徹底的な破壊を目の前にして、「心のケア」も、もう簡単には言えません。
被災地仙台から戻った翌朝、月曜日(2011.4.11)のフジテレビ「とくダネ!」で、メインキャスターの小倉さんと笠井さんが、南三陸町からの中継をしていました。ここも、見渡す限り、津波でやられています。二人は、鉄骨だけになった「防災センター」の前で、自治会長さんと話しています。
そこに、東京のスタジオから「心のケアの方はどうなっているのでしょうか」という質問がきました。
現地にいる3人の戸惑いを感じます。自治会長さんは、「夜、余震が来て火事になるといけないので、避難所では夜はストーブを止めています」「落ちてくるといけないので、電球をはずしました」そんな答えをしていました。
「心のケアは?」そんな質問が、場違いな質問に感じられました。
私も、被災地で感じました。もう気軽に「心のケア」なんて言えない。
***
何らかの復興も心のケアも必要安のはわかっています。でも、この惨状を前にして、どのように復興し、どのように心をケアしていったらよいのか、見当もつかなくなりました。
大地震を体験して、家の中がめちゃくちゃになり、一時は電気ガス水道も止まった生活をしていた人々。ガソリンも灯油もなく、寒い思いをし、何時間もかけて自転車通勤をしていた人々。でも、自宅に住んでいる人たちが、自分たちの場所を被災地と呼ばず、自分たちを被災者と呼ばないのが、わかりました。「このあたりから被災地です」その意味が、わかりました。
私が見たのは、宮城県の中の仙台市の中の一部の津波被災地です。県内の他の被災地、隣県の被災地まで含めると、気が遠くなるような広大な被災地です。
ある「心のケアの専門家」が、テレビのインタビューに応えていました。「家族を失い、家を失い、職場もご近所も自分の街も失った人を前にして、自分は何もできない。」 彼は涙を流しながら、そう言っていました。
これほどの被害を前にして、それでもなお、復興を目指し、ケアをしていくことは、どれほど困難なことでしょうか。
タクシーを降りた後、道端で一人、ぼうとしました。次の瞬間、涙がこみ上げてきました。手で口を押さえ、よろめきます。 ・・・30秒後、私は冷静さを取り戻します。でも、足が鉛のように重たい。
その晩、高速バスで新潟の自宅に帰りました。翌日月曜日、車で大学へ向かいます。運転を始めた途端、周囲の車が津波に飲み込まれ、転がっていくイメージがわいてきました。
新潟の海岸にある大学につき、松の木を見ると、あの被災地で見た体育館に突き刺さった松の木の風景がよみがえってきました。
駐車場に並んでいる車を見た時、かすかに恐怖感を感じました。
一か月もたった静かな被災地をただ見ただけなのに。
津波を見たわけでもなく、おびただし遺体を見たわけでもないのに。
***
私はただ破壊しつくされた街を見ただけで、本当の悲劇は見ていないのに。
家族を失い、家を失い、仕事を失い、希望を失って他人々の深い心の闇には触れなかったのに。
***
(九死に一生を得たという話は、たくさん聞きました)
不思議なもので、不安と恐怖と絶望感だけではなく、
今、仙台市若林区荒浜地区に、愛着を感じています。
癒しと復興を、祈らずにはいられません
タクシーの運転手さんも、被災地のこんなに奥まで入ったのは、初めてだたそうです。運転手さんは、独り言のようにつぶやいていました。「今日見たことは忘れよう」
それでも、私が車から降りる間際に言っていました。
「5月になったらまた来てください。仙台は美しい街ですから」
杜の都、仙台。日本人の心のふるさと東北。
気軽に復興なんて言えない、気軽にこころのケアなんて言えない。
でも、私たちはきっと取り戻すのでしょう。美しい町と、もう一度希望を取り戻した人々の笑顔を。きっと、きっと、とりもどすに違いありません。
私たちは、この現実を知った上で、復興と心のケアを進めるのです。
被災地のみなさんを支援するのです。新しい希望が持てるように。
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(お土産に仙台の牛タンとずんだまんじゅうを買って帰りました。どっちも、おいしいよ。みんなで、被災地を応援しよう!)
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