心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座/災害心理学東日本大震災の災害心理学/逃げ遅れ新潟青陵大学碓井真史

逃げ遅れの心理学

逃げ遅れずに、生き残るために

2011.3.15


事件、事故、災害が起こると、パニックが注目されますが、実は逆の「逃げ遅れ」による悲劇も多いのです。
韓国で2003年に発生した地下鉄放火火災では、198人もの犠牲者が出ましたが、煙が広がっているのに逃げようとしたかった人々が大勢いたといわれています。

人はなぜ逃げ遅れるのか

災害時に逃げ遅れる理由:正常性バイアスの心理

  1. 異常発生に気づくのが遅れる。
     
  2. 異常発生に気づいても、切迫した危険な状況だという判断が遅れる。
     
  3. 逃げるのに、コストが大きい(逃げるのが大変)。
     
  4. 逃げるのが格好悪い。

異常発生に気づくのが遅れる。

目の前で爆発が起これば、気づかない人はいません。でも、実はすぐそこまで水が迫っているのに、気がつかないことはあるでしょう。水害はしばしば逃げ遅れが出ます。放射能も目に見えず、匂いもありません。
伊豆大島の火山爆発による全島避難は、すばらしく上手くいきました。その理由の一つは、島中どこから見ても噴火が良く見えたことがあるでしょう。(もちろん、勇気ある人々の努力によって避難がなされました)

危険な状態だという判断が遅れる

正常性バイアス

人は、できるだけ安心して生きようとします。心配なことがあっても、きっと大丈夫だろうと思います。普段なら、そのような楽天的な見方は、心の健康につながるのですが、災害時に誤った判断をしてしまうことになると、命にかかわります。人は、大丈夫だと思いたいものなのですが(正常性バイアス)、適切な不安をもって、避難行動を行うことが必要です。
タイタニック号が沈むと言われても、船が傾くまで、本気にしない人がたくさんいました。

高齢者の判断の遅れ

災害心理学の実験によると、たとえば部屋に少しずつ煙が入ってきたとき、若者はすぐに気づきますが、高齢者はなかなか気づきません。やはり、感覚がにぶくなっていることがあるからです。

避難するのにコストが大きい(逃げるのが大変)

「コスト」とはお金がかかるという意味だけではなく、いろいろな意味で大変だということです。たとえば、実は沈みかかっていたタイタニックどうでしたが、まだ明るく音楽が流れる船を降り、真っ暗闇の寒い海に小さなボートで出て行くことは、とても「コスト」が大きいでしょう。
地震や津波、原発事故も同じです。夜間、寒さ、雨や雪、避難場所まで遠い、車がない、高齢、身体障害、赤ん坊連れ、疲労、これらは避難のコストが高くなり、逃げにくくなります。誰かが助けて、避難への心理的物理的コストを下げて、逃げやすくしなければなりません。

避難するのが格好悪い

「緊急地震速報:間もなく激しい揺れが来ます」と言われても、普段なら、すぐに机の下に逃げ込むことはしないでしょう。格好悪いと思ってしまうからです。もちろん、あわてなず落ち着くことは必要ですが、危険を避ける行動が格好悪いのではなく、危険を避ける努力をしない人の方が愚かで格好悪いと人々が感じる必要があります。

津波てんでんこ

三陸地方では津波てんでんこ と呼ばれる教えが伝わっています。「津波の時は親子であっても構うな。一人ひとりがてんでばらばらになっても早く高台へ行け」という意味です。今回、この防災訓練が成功した学校もありました。ただし、もちろんこの教えも、人を突き飛ばしてでも先に行けという教えではありません。
津波てんでんこ」に基づく防災教育を行っていた中学校の隣には、小学校もあります。両校で一緒に、「つなみてんでんこ」に基づく防災訓練を行っていました。日本海大震災の津波発生時、小学生の手を引いて逃げる中学生の姿も見られました。
津波てんでんこ」では、「目の前にいる人は助けろ」と教えています。「津波てんでんこ」の教えは、人を押しのけてでも自分だけ逃げろという教えではなく、まず自分の命は自分で守るという主体的な避難をすすめる教えです。
東日本大震災のとき、大きな揺れが収まった直後、校内放送による指示の前に、子どもたちは高台に向かって避難を始めました。大きな地震が来た時には、津波が来るぞ、高台へ走って逃げろ、という「津波てんでんこ」に基づく防災訓練の成果だと思います。
何も考えずに無心で高台に向かって一生懸命走ったと、生徒たちは言っています。
こんな大地震ですから、いろんな不安や様々な考えが浮かぶことでしょう。でも、ともかくそれぞれがてんでに、余計なことを考えずに高台へ走ろうという単純なことなのですが、この単純なことを本番でもできるためには、繰り返し訓練をすることが必要なのです。
津波てんでんこ―近代日本の津波史

逃げ遅れとパニック

逃げ遅れも、パニックも困ります。最悪は、みんなが逃げ遅れていて、気づいた時にはパニックが起きてしまうというものです。みんなの協力で、逃げ遅れも、パニックも防ぎましょう。Tweet
パニックの心理学(こころの散歩道)
災害時のマスコミの役割



 


  

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逃げ遅れに関する本

『人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書)』



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